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貫中久のこと(日置流印西派弓術)
日置流印西派の射術における最高目標として「貫中久」があります。
1 「貫」
「貫=つらぬく」
矢の飛ぶスピードまたは、的中時の貫徹力です。
元来弓は戦で用いられており、敵を殺傷するためのものです。
敵に強いダメージを与えるためには「強い矢」を飛ばさなければなりません。
2 「中」
「中=あたり」
的(まと)に的中することです。
特に「星」に的中することが重要です。
弓道では15間(28m)の近的において、1尺2寸(36cm)の的が使用されています。多用されている霞的ではなく、星的で説明しますと、的の大きさ36cmは人間の胴体の幅で、星の大きさ12cmは心臓の大きさです。
3 「久」
「久=ながくひさしいこと」
長久です。すなわち、「貫」と「中」を続けていくことです。
4 「貫中久」の根拠
ここでしっかり認識したいのは、「貫中久」の理解の仕方です。
それぞれ単体では上述したとおりですが、「貫」「中」「久」の順番で言い伝えられているのには理由があります。
この理由は「必要条件」です。
(1)「久」であるならば「貫」と「中」が必要条件。
(2)「中」であるならば「貫」が必要条件。
ここで、(2)に疑問を感じることもあるかと思います。過去に「中貫久」と提唱された方もおられますが、熟考すれば「貫中久」であることが理解できると思います。
それは「角見の働き」が極めて重要だということです。
「角見の働き」とは弓を上から見たとき、反時計回りにねじることで、矢を接線とする回転力(モーメントまたはトルク)をかけることを指します。
「角見の働き」と「馬手の回内(反時計回りにひねること)」が相まって、弦はより強く復元します。
接線運動ですから矢の飛ぶ方向にだけ作用するのは力学的に理解できると思います。
結果、矢所(グルーピング)の大きさが小さくなり、「中」の基礎となります。
仮に、この「角見の働き」が全くない状態とは、弓をねじらずに真っ直ぐ押すということになります。この状態ですと和弓の構造上、矢は勢いを失って的の右方向に外れていきます。ですから、アーチェリーでは弓をねじらずに真っ直ぐ押すという事も同時に理解できると思います。
力学で言う、「力の作用線」を決定づけること。これが「角見の働き」で「貫」につながります。
「貫」を発揮したいがために、ねじることができないくらい高い弓力の弓を使うのは間違いです。「角見の働き」ができないということは「力の作用線」を決定づけることができないので「中」につながらない偽の「貫」で終わってしまいます。
「貫中久」この漢字3文字に秘められた究極の目標を達成すべく、地道に稽古を重ねましょう。