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野良猫を減らすために【論文紹介】

猫の不妊手術について、個体としての効果(生殖器関連疾患の予防・望まない妊娠の予防・発情期ストレスの軽減等)はどの文献でも同じような点が挙げられています。しかし大きな”群”としてみたときにその群の個体数のコントロールを目的とした不妊手術、いわゆるTNRは効果があるのかということについて様々な報告がされており、効果があるというものから効果が見られない(反って増加している)というものまで様々でした。

そのような中、2022年に大規模かつ長期間にわたる野良猫の頭数調査の報告がありました。


Reduction of free-roaming cat population requires high-intensity neutering in spatial contiguity to mitigate compensatory effects
(直訳:放し飼いにされている猫の個体数を減らすには、代償効果を緩和するために、空間的に連続した高強度の去勢手術が必要である)

<概略>
TNRは広範囲に適応されているにもかかわらず、その有効性を検証するための長期的な対照研究は行われていない。そこでTNRの有効性を検証するために以下のようにデザインされた野外実験を実施した。

20 平方kmの都市部で2007年から2018年にわたり1) 介入前段階、2) 混合介入、3) 完全介入の3段階で調査された。
1) 介入前段階は2007年1月から2009年末のTNRプログラム開始に先立つ調査
2) 混合介入段階は61の統計地域をTNR実施割合が高い地域と低い地域に割当
3) 完全介入段階はすべての地域にて一定以上の割合(不妊手術率70%以上)でのTNRを実施

猫の個体数は最初の2つの調査段階で増加し、TNR高介入地域での減少は認められなかった。完全介入段階において猫の個体数の増加は逆転し、年間約7%の減少が確認された。
本研究より、我々はTNRによる猫の個体数管理を有効にするためにはTNRの高介入を継続的に、連続した地域で行うべきだと結論づけた。


驚くことに、ある地域でTNRを高い割合で実施しても野良猫の数は減少していないことが観察されていました。筆者はこれについて、猫の生存率の増加、産仔数の増加、他地域からの猫の移動が代償効果として働いているのではないかと考察。これらの代償効果を上回る高い割合でのTNR、それと同時に環境整備や保護などの方法と同時に行うことが推奨されていました。

もちろん個人が自宅周囲の猫を数頭連れてきてくることを否定するわけでは全くありません。全体として見たときに大多数の猫が不妊手術を実施していれば結果として減少傾向となるため、寧ろそのような個人がもっと増える、そしてそれを受け入れる獣医師が増える、行政が組織的に推奨していくという動きが見られればという希望から本論文を紹介させていただきました。

論文情報:Reduction of free-roaming cat population requires high-intensity neutering in spatial contiguity to mitigate compensatory effects | PNAS
(Open accessのため原文が上記リンクよりアクセス可能です。)
*正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めします。
最近ではDeepL翻訳などにより英語が不得意でも概要把握は楽になりました。


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