ヒナドレミのコーヒーブレイク 取り柄~16歳の独り言
人って、何か一つは取り柄(とりえ)があるって言うけど、私の取り柄ってなんだろ?芽衣はある時ふとそう思った。そして自分の取り柄について かなり真剣に考えてみた。でも自分のことなのに、自分の取り柄が何一つ浮かんで来ない。もしかしたら、私って取り柄のない人間なのかな?取り柄の一つや二つ誰にでもあるはずよね、絶対に見つけてみせるわ と、私にしては珍しく強気になってみる。
こんなに向きになるなんて、私って負けず嫌いなのかしら。これも一つの取り柄かも、と自分に都合の良いように考える。でもテストの点数が親友の有香より悪くても、全く悔しいとは思わない。だって有香は有香、私は私と割り切っているから。そう考えると、私は負けず嫌いではないのかも。もしかして、私って冷めているのかな。芽衣はなおも考える。
生まれて16年も経つのに、自分の取り柄も思いつかないなんて情けないな、とちょっと悲しくなってくる。
こうやって ずっと一つのことを考えていると、何が何だか分からなくなってくる。あぁ、頭が混乱してきた。でも 取り柄のことなんて もうどうでもいい と割り切れるほど、私は切り替えが早い人間ではない。どちらかと言うと 引きずるタイプだ。そうかと言って、このモヤモヤした頭では、これ以上考えられそうもない。
別に、今すぐ取り柄を見つける必要があるわけではない。しばらく頭の中を空っぽにするか、別のワードでいっぱいにしようと思った。
そして私は、結局 取り柄というワードを頭から追い払うため 本を読むことにした。
その本は、裕福な家に生まれ 何一つ不自由なく成人した主人公の美しい女性が、ある事件に巻き込まれ 究極の二択を迫られることになる、という内容の本だった。『知能の高いサル』か『知能が低く醜い男性』のどちらかと生活を共にしなければならない主人公。そして彼女は思い悩んだ末、醜い男性を選んだ。人間だったら、何か一つは取り柄があるはず。この男性にも、きっと取り柄があるはずだわ、そう思っての決断だった。
主人公は、毎日の大半を泣いて過ごした。ある日男性が小さな声で歌を歌い始めた。その歌声があまりに美しくて、主人公は感動し 涙を流した。そしてこれこそが、この男性の取り柄だと確信した。
本を読み終えた芽衣は、やっぱり人間 1つくらい取り柄があるってことね、と思った。そして何だか温かい気持ちになった。
完
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