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研究初心者が陥りがちな罠〜研究室の選び方


はじめに

 大学院進学にあたり、どのような研究室を選ぶべきかについては、体験記も含めnoteには多くの記事がありますので、そちらを参照ください。このnoteでは、研究初心者や学生が研究室を選ぶ上で陥りがちな罠について解説します。例のごとく、どんな研究室に行っても成り上がっていける「優秀」な方むけではなく、研究に興味はあるが研究者としてやっていけるかどうかは自分でも自信がない・決めていない「普通」の方むけへの記事となっています。

 博士号を取った後のポスドクが研究の主体となるアメリカの研究室とは異なり、日本の研究室では大学院生が研究の主力となります。なので、無料の労働力が欲しい搾取的な研究室ほど、研究室主催者は、あの手この手で学生を大学院に進学させたがります。そんな研究室に院進してしまった場合、たいてい面談時の約束は反故にされ、希望した研究テーマができることは、まずありません。また、与えられた研究テーマがうまくいけばよいのですが、うまくいかなかった場合はノープランなので、自力でなんとかしなければならない羽目になります。搾取的な研究室の場合、研究室主催者は学生が他の研究室の先生などに相談することを嫌がるため、研究がうまくいかない&研究室主催者から嫌われる、という二重苦に陥ることも珍しくありません。研究室選びのポジティブな基準だけではなく、ネガティブな基準も真剣に考えましょう。そして、利点が欠点を帳消しにすることはないと理解しましょう

罠その1:おもしろそうだから

 興味がもてない研究室を勧めているわけではありません。ただ、「おもしろそうだから」という感覚を最重要な判断基準にすることだけは避けたほうがよいと思います。厳しいことを言うようですが、研究初心者や学生が思う「おもしろさ」は、理解が浅いことがほとんどです。そして、搾取的な研究室主催者は、まがりなりにも知識や経験があるので、研究内容を「おもしろく」見せることに長けています。特に、おもしろい「仮説」を話してくれる場合は要注意です。たいていは「仮説」の上の「仮説」の上に「仮説」を立てているので、ちょっと知識がある研究者がよくよく聞いてみれば、「妄想」でしかないことも多いです。誠実な研究者であれは、「おもしろさ」の裏側にある「問題点」や「リスク」、「難しさ」も解説してくれるはずです。興味に優先順位をつけず、「おもしろそうならなんでもよい」くらいの軽い動機にしておきましょう。「研究にとりかかる前に考えたいこと」のnoteも参照ください。

罠その2:友達が院進するから

 学部の時に卒業研究の要件がある場合、3年または4年次に研究室に配属されることがほとんどでしょう。楽しく研究できることに越したことはありませんが、「友達が大学院に進学するから自分も」という動機は避けましょう。まず、院進して研究へのモチベーションが下がる(もしくは、はじめからない)ことになります。「研究へのモチベーションが自分の外にある人は基礎研究には向いてない」のnoteでも書きましたが、このような人は「研究へのモチベーションを自分の外に求めるタイプ」に相当します。自分の研究テーマがうまくいって、指導教官や周りからの評価が得られればよいですが、自分が進んでいないのに友達の研究がうまくいっていたりすると、途端に研究へのモチベーションが下がることになります。価値基準が自分の外にあるので、他人と比較せざるを得ないのです。また、外に求めたモチベーションが「友達」の場合、実験スケジュールよりも友達との都合のほうを優先しがちです。極端な例ですが、「友達と遊びに行くので実験をすっぽかす」人もいるのです。「友達が院進するから自分も」というあなたは、友達よりも研究を優先できますか?

罠その3:研究室主催者から誘われたから

 もちろん、研究室選びで第一に考えるべきは、研究室主催者(または指導教官)との相性です。面談でも話が弾み、ネガティブな印象も受けず、この先生とだったら楽しく研究ができるかも、と思えたなら素晴らしいことだと思います。しかし、正直言って、研究室主催者からの院進への誘いは危険信号です。学生を駒(無料の労働力)としか見ていない研究室主催者だと、さも希望する研究テーマができるかのような調子の良いことを言っておいて、実際に入ってみるとテーマ選択の自由はないときている事が多いです。また、「うちは全部自分でやらないといけないから厳しいけど、自分のアイデアで研究テーマを選ぶことができるよ」という指導者も要注意です。研究室に入った後、「テーマ選択の罠」に陥ることになります。誠実な指導者であれば研究室のリソースを冷静に見極め、「この中から研究テーマを選んでもらいます」とはっきりいってくれるはずです。また、こちらのほうが重要なのですが、日本のアカデミアの厳しい現状を見るに、研究室を厳選し、研究テーマと実験スケジュールを戦略的に進めることができる見込みがない限り、大学院進学、特に博士課程への進学はおすすめできません。「大学院修士・博士課程は自動車学校と同じであるべきだ」や「研究と実験のデザインの罠」でも解説しましたが、日本のほとんどの研究室では、システマティックな研究教育指導が期待できません(海外の研究室だから期待できるというわけでもありませんが)。今の60代の研究室主催者が職を得たような、任期なしの職位で、たいていは年功序列で繰り上がっていった20~30年前とは異なり、現在のアカデミアは厳しい生存競争に曝されています。誠実な研究室主催者であれば、安易に院進を勧めることはないはずです

研究室選びの罠をさけるためには

 自分の才覚に自信があるのであれば、研究内容で研究室を選んでも良いのですが、やりたい研究テーマがはっきりと決まっていない「普通」の学生は、「まともな」指導をしてくれるかを最重要基準に研究室を選ぶべきです。アカデミアに残らずに企業に就職するにしても、研究の遂行や論文作成に対する「まともな」指導は、確実に問題発見・問題解決の能力を育んでくれます。まずなにより、研究室に所属している学生にどのような指導を受けているのか、よく聞きましょう。言葉を濁されるようであれば、指導体制がまともに機能していない危険信号です。「自由に研究できる」という、一見ポジティブな反応も「放置プレイ」を食らうという危険信号です。逆に、進学希望者を選ぶ際に真剣な研究室主催者は、進学希望者を研究室メンバーと面談させ意見を聞くはずです。「学生が忙しくて進学希望者と話す時間がなかった」り、「研究室メンバーがいない」時間を指定したりした場合、研究室メンバーと話されるとまずい事情があるとみて間違いありません。このnoteが、大学院の進学先を探している研究初心者や学生の助けとなれば幸いです。

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