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研究へのモチベーションが自分の外にある人は基礎研究には向いてない

 某国立大学の基礎生命理学系の研究室に所属していた時、強く印象に残ったことがある。大学院の修士課程の学生が、「こんなことをやって、何の役に立つんだろう、と思っちゃうんですよね」と、研究へのモチベーションがわかないことを悩んでいた。結局、その学生は修士課程から医学部に編入し、卒業後、医師として活躍している(らしい)。それ以降、研究者・学生の研究へのモチベーションはどこからくるのか、と観察するようになった。

 研究者には、研究(仕事)へのモチベーションを自分の外に求めるタイプと自分の内に求めるタイプがあるようだ。前者のわかりやすい例が、医師・医学系研究者だ。「患者さんやご家族からの感謝が一番嬉しい」「難病の患者さんに一刻も早く治療薬を届けるべく、研究を進めている」タイプがこれにあたる。工学系研究者も「新しい技術を開発して社会に貢献したい」「世の中で何か役に立つものを作りたい」タイプが多い。医学や工学のような「実用」志向が強い領域の研究者は、周りからの評価や社会との関わりといった自分の外に研究へのモチベーションを求める傾向がある。

 一方で、生物学や天文学といった基礎科学では、「知りたい」「おもしろい」といった内からの好奇心が研究へのモチベーションとなっているように思う。基礎科学の研究者は、ある意味エゴイスティックで、研究が「役に立つ」かどうかは「どうでもいい」。その研究は何の役に立つのかと問われると、「そんなことより、この現象・結果を見てくれ。おもしろいだろう?」となる。ぶっちゃけた話、基礎科学系の研究者にとっては、社会貢献などクソ食らえなのだ。

 どちらのタイプが優れているかということではなく、大事なことは、自分はどちらのタイプなのかを見極めることだ。研究へのモチベーションを自分の内に求めるタイプだと、「役に立つ」研究結果を求められるプレッシャーがあまりにも強い環境では、やる気がスポイルされてしまうだろう。逆に、研究へのモチベーションが自分の外にある人は、基礎研究には向いていないように思う。研究成果が実生活とは直接結びついていないのに、研究の(社会的な)意味を考えてしまうからだ。学生やポスドクが研究室を選ぶ際、その研究室のプロジェクトだけではなく、自分のモチベーションのありかを自覚し、それにあった環境を選ぶことも研究活動を続けていくうえで重要だと思う。


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