東京マラソンの返金対応のはなし
歴史は繰り返すと言いますが、以前書いた某スパークの中止と似たようなことが起こっていますね。
ほぼ再放送になりますが、またちょっと整理しながら書いてみようと思います(ぶっちゃけほぼコピペだけど自分で書いた文章だからゆるしてほしい)
とは言っても、私はマラソンは高校以来やってないレベルのダメ社会人ですし、スパーク以上に部外者というか、知らない情報いっぱいですが頑張って検討したいと思います。
今回の大会の主催は、「一般財団法人東京マラソン財団」のようですが、長いので以下、主催と記載します。
まず、問題になったエントリー規約はこちら。
13. 積雪、大雨による増水、強風による建物等の損壊の発生、落雷や竜巻、コース周辺の建物から火災発生等によりコースが通行不能になった結果の中止の場合、関係当局より中止要請を受けた場合、日本国内における地震による中止の場合、Jアラート発令による中止の場合(戦争・テロを除く)は、参加料のみ返金いたします。なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません。
参加料の返金がある中止事由の中で今回ありえそうなのは、「関係当局より中止要請を受けた場合」くらいでしょうが、ホームページの記載からすると、あくまで自主決定であって、現時点で当局(東京都、厚労省あたり?)からの中止要請まではない、ということなんでしょう。主催はこの規約に基づき、参加者に参加料の返金をしないという決定をしたと思われます。
一方、民法ではこのような契約当事者双方に落ち度がない場合について、以下のように定めています。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 ……当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
主催は、コロナウイルスの蔓延という帰責性のない事由で一般ランナーも含めた東京マラソンを開催するという債務を履行できなかった債務者にあたります。債務者である主催は、反対給付(大会開催という債務の対価)である参加料を受け取る権利がないことになります。つまり、受領済みの参加料は返さなければならない。
さて、このように規約と民法の言っていることが違ってしまっている場合、どちらが優先するのでしょうか。
原則としては、法律よりも当事者が合意した内容が優先します。ですが、この原則にはいくつか例外があり、その一つが消費者契約法です。
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
消費者取引においては、消費者個人と事業者の間には情報力、交渉力に格差があることから、一度合意したことでも無効とする条項があります。その代表が上記10条。
要は、消費者契約において、合意した内容が法律に比べて消費者に不利な場合は、後からでも無効とすることができるのです。
今回、一般ランナーは民法上は参加費を返してもらえますが、規約上は返してもらえない。規約のほうが民法よりも不利になっていますね。ですから、消費者契約法に基づき規約が無効となる可能性が出てくるのです。
ここで当事者の整理をしておきます。
消費者契約法上、「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)を言います。
「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」を言いますが、営利の要素は必要でなく、営利の目的をもってなされるかどうかを問いません。
一般ランナーは、基本的に事業のためにエントリーしたわけではないでしょうから、消費者として消費者契約法の適用を受け、規約の無効を主張できることになりそうです。
さて、今回の主催は「一般財団法人東京マラソン財団」です。定款によると、東京都と陸上競技連盟を設立者とする財団法人のようですね。
消費者庁の消費者契約法逐条解説には「公益社団法人及び公益財団法人は事業者であり、事業者が本業又は副業のために行う取引は事業者として行うものであると判断される。」とあります。公益ですら事業者と認定されるわけですから、今回の主催も間違いなく事業者として認定されることでしょう。
ところで、今回、特例として、一般ランナーは来年度大会の抽選免除がなされるようですね。これについてはどう考えたらいいでしょうか。
仮に消費者契約法の適用が認められ、民法どおりの処理が求められるとすると、参加料の返金対応ということになります(走らなくても参加賞のようなものが貰えるなら、その金額は差し引いて一部返金となる余地はある)。返金に代えて来年度の抽選が免除されるとなれば、それは代物弁済(民法482条)ということになるでしょう。
東京マラソンは抽選倍率の高い人気の大会と聞きます。抽選免除に魅力を感じるランナーの皆さんは少なからずいらっしゃるのでしょう。返金よりも抽選免除してほしいという選択が消費者契約法によって禁じられるわけではありません。なお、抽選免除がなされるだけで来年度の参加料は別途発生することについては、そこまで抽選倍率が高いのならば、①参加料そのものと②抽選免除権には別個の価値があると考え、②のみを代位弁済の対象とするのもあり得るのかなと個人的には思います。
ただ、代物弁済というのは、あくまで債権者である一般ランナーの同意があれば弁済として認められるにすぎません。これら代替対応をもって当然に返金を免除されるわけではありません。
最後に、中止しても主催には警備費等の費用がかかっているのではないかという声もあるようです。
仮に参加料を返金して損害が出たとしても、それは債務を免れる理由にはなりません。それは主催のリスク管理の問題です。
主催である財団法人の設立者として、東京都が8億円(要は税金)を拠出しているようですが、だからといって、一般ランナーが今回のような不測の事態のリスクを負う理由にはならないと思いますね。