004:現実の相方
ティアとの楽しかったハロウィンイベントをしっかり写真に残せたので、ニヤニヤしながら何度も眺めていた。私は現実でもオシャレをしたり着飾ったりするのが好きなので、ゲームキャラクターも可愛くコーディネートしているのだが、ティアのイケメンキャラと並ぶと映えているのにも満足していた。
どこのオンラインゲームでもあるあるの「相方」という存在はこのネトゲにもあるようだった。簡単に説明すると、固定のように一緒に活動する2人組のことだ。相方は同性異性問わないが、男女の恋人のような関係をさすことが多い。このネトゲは相方文化が今まで遊んだゲームよりもかなり色濃く、相方募集の記事がしょっちゅう掲示板に上がったり、相方同士で加入する専用ギルドもあるくらいだ。カップルで写真を撮っているのもよく見かける。
正直私は相方に憧れていた。オシャレが好きなので一緒に写真を撮ったり、いつでも気軽に誘い合ってコンテンツを楽しめる相手がいるのはいいものだ。それがカッコイイ異性なら気持ちも上がる。ただ、最初から恋人のような雰囲気でベッタリするのは苦手だし、気の合わない人と組んで嫌な思いもしたくなかった。何よりゲームを楽しむことが1番の目的だ。なので、遊んでいるうちに自然と相方っぽくなれる相手がいればいいな、などと妄想していた。
それが、ティアを意識してのことなのは言うまでもないだろう。
ここで、少し自分の話をしようと思う。
ヒナ、39歳。既婚者子なし。趣味はゲーム、美容・コスメなど。相方に憧れるなどと言っているが、実は私は既婚者である。
主人のアスカとは以前遊んでいたネットゲームで知り合った。5年来の友人で、ゲームのプレイスタイルや通話での会話の相性が良く、そのゲームでの「相方」関係になった。一緒にいてもラブラブな空気になったりイチャイチャすることはなかったが、芯が強いのに私には優しく、ゲームも上手くて居心地の良い相手だった。
私達は、1度会ってみたいねという話になった。正直アスカはカッコよくも背が高くもなく、更に年齢=彼女なしの童貞だった。ただ私はB専……というと聞こえが悪いが、キラキラしたイケメンはむしろ苦手で、素朴で真面目で清潔感さえあればそれで良いというタイプなので、何も気にならなかった。遠距離だったため、私が転がり込むような形で彼の家に住み込み、数年の同棲を経て結婚した。
アスカは無駄遣いもしないし、飲みにも行かないし、浮気もまずありえないような人で、家事も一緒にやってくれる。これだけ聞くと純朴な良い夫だが、彼は本当にゲーム一筋のお子様だった。
私に興味がないわけではなく優しくしてくれるが、私の思う常識と価値観が大きく異なる人だった。結婚式なし、ハネムーンなし、写真撮影は親に勧められて渋々で終始不満げ、旅行はもちろんデートなんて行きもしない、記念日なんて当然スルー、結婚指輪も親に言われて籍入れから1年でようやく。そして夜の営みも相性が悪かった。
アスカは初めてなので、少しずつ頑張ろうとしていたがなかなか上手くできない。私は童貞を相手にするのは初めてではなかったが、ここまで手こずったのはアスカだけだ。アスカが自信をなくさないよう気遣いをしつつ、ふんわり提案やアドバイスをするも、彼は事が終わると話の途中だろうと寝てしまう。最初は疲れたのかなと思っていたが、毎回そうだった。私は気持ち良くもなれず、可哀想だからとアスカの処理を手伝ったのに。私だけなんで1人で頑張っているんだろうと、ベットを抜け出してキッチンで泣いた夜は数え切れない。
そのうち私生活でもアスカの気遣いのなさが気になってきて、私はよくアスカを怒るようになった。私からすればどれも当たり前にやってほしい些細なことだ。食事中にスマホを触らない、ゲーム中に大声で暴言を吐かない、話しかけている時は返事をする、音を立ててクチャクチャ食べない、電車では足を広げない、爪を噛まない……。上げ出すとキリがない。
これでいつも大喧嘩……するのではなく、アスカは自分が悪い、必ず直すからと素直に謝るのだ。しかし直らない。何年経っても直らない。どれだけ言っても直らない。そのうち、いい加減言いすぎるとアスカのストレスになってしまうだろうと思い、私は諦めることにした。怒るのに疲れたのもある。
その代わり私のストレスが溜まり、彼への愛情が消えてしまった。ただアスカは私に怒ったり文句を言うことはしないので、気の合うゲーム友達という感覚にはかろうじて戻ることができた。1度結婚してしまっているし、仕事も見つけたので離れるのは面倒くさく、シェアハウスみたいな感覚でいいやとこのまま一緒にいることを決意した。もちろん夜の営みはもう何年もご無沙汰だ。面倒なのかアスカも求めてはこない。もう交わることはないだろう。
ちなみにアスカに、今遊んでいるネットゲームを一緒にやらないかと誘ったこともある。ゲーム内だけでもまた相方のように楽しめれば、少しは愛情がわくかもしれないと思ったのだ。しかしアスカはオンラインゲームの気分ではないようで、断られてしまった。私のことはそっちのけで、毎晩友人とゲラゲラ笑って通話しながら別のゲームをしている。遊ぶのは構わないけれど、何度声が大きい!うるさい!と怒ったことか。
そんなこどおじの夫だから、ティアの気遣いできる言動が余計に染みたのだろう。我ながらチョロいものだ。しかしいくらゲーム内とのこととはいえ、既婚者である私から相方について言い出すことはできなかった。愛情はなくとも、倫理観なのか夫への罪悪感もある。
しかし、そんなことを知らないティアはどんどん私の心に近付いてくるのであった。