departure-Ep7
Ep紹介:夕方、友人の家に遊びに行って、おしゃべりをする。チョコレートを勧められ、カロリーが気になりながらも手を伸ばし、さらにおしゃべりは続く。私は何を話そうかな。
よく、海外に留学してたとかいうと、社会性があって、人とコミュニケーションをとるのが好きな外交的な人間と思われることがあるんですけれど、
私は超超超超内向的な性格です。これに気がついたのはイギリスから帰ってきて数年経った頃、というかほんの数ヶ月前なんです。
はっきりと、自分って内向的な性格なんだ。と気がつきました。
世の中には外交的な人の方が多いとどこかで読んだことがあります。
ということは、私は少数派なのかな。
皆さんはどっちですか?内向?外向?
英語教育に力を入れている家庭だったので、子供の頃から「外国人を見つけたら英語で話しかけろ」のようなニュアンスのことを刷り込まれていて、
コミュニケーションは元々得意ではなかったのですが、とにかく英語を話そう話そうとしていたら、英語でのコミュニケーションは自信をもってできるようになりました。
それが自分を外向型だと勘違いさせる原因になったんですね。
自己分析をするときにとんでもない、前提を間違えて分析することになって、
就活なんてできないし、働いたところで上手く行きません。自分の分析が間違っているのだから。
イギリスにいた時、キャドバリーの工場を見学できるチャンスがあったんです。バーミンガムの。でもなんか原因不明の面倒くささに襲われてパスしたんですよね。
あと、ウォーリック城も見学できるイベントがあったんですが、それもパスしました。今思うと本当に行っておけば良かったと思います。
当時、自分では平気だと思っていたけど、寮で共同生活をしているだけで、精一杯だったんだと思います。人とずっと一緒にいて、結構疲れてしまっていたみたいです。
引きこもってエネルギーを貯めるタイプなんです。
第7話 街灯とキャドバリー
学校が終わって、メインキャンパスから家までの長い道のりを歩いたあと、私は共同のキッチンのソファーでとくにやることもなく、気まぐれで買った雑誌、ネイチャーを読んでいた。
記事の内容は23歳の大学院生が宇宙に衛星を飛ばしたとかで、その女子大学院生の写真をぼーっと見ていた。
すると、一昨日、連絡先を交換したばかりのタリファからメッセージが来て、彼女の家に遊びにいくことになった。
タリファの家はメインキャンパスから道路を隔てて向かい側にある、学生用のシェアハウスの一つで、私のフラットから歩いて30分くらいかかるらしい。
西の空に夕陽が沈む頃、私は共同キッチンで夕食の皿を洗い、最小限の持ち物を持って、タリファの家に向かった。
タリファから送られてきたリンクをグーグルマップで見ながら、2、30分歩いて、なんとか彼女の家の近くまでくることは出来た。
しかし、だいぶ日が沈んで薄暗くなってきたし、似たような家が並んでいるのでどれが正解かわからない。
Facebookのメッセージで彼女に連絡をすると、すぐに既読がついて、そこで待っているように、言われた。
1分後、私の背後の家のドアが開いて、タリファがTシャツとスウェット姿でてきた。
「入って入って、あなたの家からだと結構遠かった?」
「ありがとう、近くはないけど、学校にくるのと同じだから道は簡単だったよ。」
中に入ると床は年季が入った深緑色のカーペットで、左手に扉、目の前に階段があった。
左手の扉の奥はキッチンらしい、スモークガラスの向こうで何人か動いているのがわかったし、話し声が聞こえた。
ナイジャもいるのかと聞いたら、多分シャワーを浴びているという返答が返ってきた。
階段を上がって突き当たり右の部屋がタリファの部屋だった。
タリファの部屋に入った時の印象は、そこそこ広いなっていう感じだった。
8〜9畳くらいはあると思う、入るとまず左手に木製の巨大なワードローブが置いてあり、窓際の壁にベッドと机が寄せて置いてあった。
彼女は部屋に入るとベッドの上に腰を下ろし、お茶を勧めてくれた。
「ハーブティーだけどいい?」
「もちろん、ハーブティー大好きだよ。」
ベッドの正面には低めの棚があり、そこに本やポーチやお茶やお菓子などなんでも雑多なものが放り込まれていた。
ベッドに腰を下ろしハーブティーを飲んでいると、アリスがやってきた。
アリスは走ってきたのかなんだかわからないけど、息を少々切らしていて、入ってくるなり、
「チョコレート持ってきた。」
と言って、キャドバリーの板チョコを2枚、ベッドに叩きつけた。
高校生の頃は海外のお菓子の憧れて、成城石井でよくキャドバリーのチョコバーを買っていた。一本50gしかないののに300円とかして、結構高かった。
それがここでは一枚200gのキャドバリーの板チョコが2枚で3ポンドとか売ってるからありがたみがなくて全然買っていない。
アリスがチョコレートの包みを破いて、3人でバラバラに割れたチョコレートを食べ始めた。
知ってはいたけれど、キャドバリーのチョコの甘さは喉に引っ付くみたいだ。しかもカカオの風味よりもミルクの脂肪の臭みの方が目立って感じる。
バラバラのかけらを少しづつ食べれば美味しいけど、二人ともカロリーは気にならないのだろうか。
そういえばこの2人についてあまりまだ知らない。
タリファの方はベッドの枕の方に座って、大きな青い犬や、紫色のウサギのぬいぐるみなど毒々しい色のクッションを抱えて座っている。
私はベッドの足の方に壁と窓を背にして座り、アリスはベッドの真ん中らへんに腰をかけている。
アリスはロンドンより少し北の出身だという。聞くところによると、そこそこ治安の悪いような地域のような気がした。
「わたしの親友が妊娠したんだって」
「え?誰が妊娠したって?」
「私の親友ね、私じゃなくて、私の親友。」
「ああ、オーケー、その子って何歳?」
「あたしと同い年だから、18歳」
「大学通ってるの?」
「いや専門でたからなんか働くって。」
私はそろそろやめておこうと思って、チョコに手を伸ばすのをやめて、タリファにもう一杯ハーブティーをもらった。
タリファの出身地も別の意味で治安が悪い地域だった。彼女の出身は中東のいつも世界情勢が注目しているあの国で、彼女はイスラム教だった。
とはいえ、彼女のおっとりした振る舞いとか、他人に意見を求めて、
「どう思う?」って言った後に、「ummm?」
とにやけ顔でいうところや、健康に気を使っているところなどを見ると育ちが良いことはなんとなく察しがついた。
タリファは棚から一冊、表紙に女の子が描かれたペーパーバックを取り出して、
「この本はガザ地区の難民の話なの。」
とこの本について紹介し始めた。そして一ページ目から、アラビア語で音読をし始め、アリスと私は黙ってしばらくその音読を聞いた。
何を言っているのか全くわからないけれど、ガザ地区というからなんとなくことの深刻さは想像できる。
「この名詞は話し手が女性の時に使われるの。」
と、指で指して教えてくれたけど、全然読めないしわからない。
「なんでそんなにややこしくする必要があるの?」
アリスが言った。
「でないと今話している人が男か女かわからないじゃない」
私は、タリファにもアリスにも同情できたので、とりあえずうなづいておくことにした。
窓の外はすっかり暗くなって、エンジ色の街灯が、外の道とレンガの屋根を照らしていた。
部屋の中は少し暑いくらいだったので、窓からの夜風が気持ちよかった。
私も何か話そうと思って、最近の悩みを話してみることにした。
「夕食とか、何を作ったらいいかわからないの」
「日本では何を食べてるの?」
タリファが聞く、私は米と魚だと答える。
「じゃあ、まず、テスコか、モリソンズか、どこでもいいからスーパーでジャガイモを買ってきて、それから、オーブンにジャガイモを突っ込んで、20分か30分ぐらい焼いて、皮がパリッとしたら、まん中を切って、チーズか、豆か、もしくはその両方を上に乗せて。そしたら出来上がり」
とアリスが早口で言った。
丁寧で分かりやすい、ジャッキットポテトの作り方の説明だったけど、
「でもそれじゃあ全然醤油と合わないじゃない!」
と私は跳ね除けた。
タリファは笑ってくれたが、アリスは真面目な顔のままだった。
アリスは小さな口で何か抗議し、それでこの話は終わった。
もうそろそろ帰ろうかってところで、ドアが開いて、ナイジャがドアから顔を覗かせた。
「みんな何やってんの?」
彼女は化学繊維でできた、紫色のバスローブに身を包み、髪の毛はバスタオルに巻かれていた。
バスローブとお揃いのもこもこのスリッパを擦りながら寄ってくると、
窓際の机の上に腰をもたれかけた。
タリファはナイジャが来て大喜びし、二人で早口で話し始めた。
おしゃべりが終わって、部屋から出ると、ナイジャは自分の部屋にさっさと退散し、タリファが私とアリスを玄関まで見送ってくれた。