社会人2年目で地域おこし協力隊へ。24歳の彼女が見知らぬ土地でコミュニティを育む理由。
新しいチャレンジをしたくても、未知の世界に飛び込むのには大きな勇気が入ります。
今まで持っていたものを手放したり、仕事を辞めたり、見知らぬ土地に引っ越したり。その過程で、不安になったり、時には失敗したりすることもあるかと思います。
今回お話を聞いたのは、若くして地域おこし協力隊となり、新天地で活躍されている川村佳恵さん。
たったひとりで山形県金山町に引っ越し、地域の人に助けられながら、新しいコミュニティづくりに取り組まれているそう。そんな彼女に、地域おこし協力隊になった経緯や、現在の取り組みについて、等身大の姿で語ってもらいました。
社会人2年目で、地域おこし協力隊へ
ーーまず、川村さんの現在の活動について教えてください。
川村さん:
地域おこし協力隊として、山形県金山町で働いています。主に、まちの関係人口を増やすことを目的に、台湾からのインバウンドの誘致やコミュニティスペースづくり、それに伴う本屋の運営などをしています。
以前は、さまざまな自治体の地域おこしイベントを企画・運営する会社で働いていました。
ーーずっと地域おこしに携わっているんですね。もともと、地域づくりに興味をお持ちだったのでしょうか?
川村さん:
そうですね。大学のゼミでまちづくりについて勉強していて、当時地域コミュニティやウェルビーイングを研究されている先生と出会い、その先生のもとで地域コミュニティの在り方について学んでいました。
大学卒業後も引き続き、「さまざまな地域コミュニティが見てみたい!」という理由で、地方創生に関する事業を行っている会社に入りました。
ーー会社員からなぜ、山形県金山町の地域おこし協力隊になったのですか?
川村さん:
会社が主催していた講座がたまたま金山町で開催されていたのがきっかけです。
講座の企画運営に携わる過程で、金山町に出張する機会が何回かあり、金山町が持つ魅力を知るようになりました。
4,800人という人口規模も、私にとっては居心地がよかったんです。また、金山町は住民同士の交流が盛んなだけでなく、町外から来た人にも寛容な土地でした。
そんな土地の魅力に惹かれ、プライベートでも何回も滞在するうちに、知り合った住民の方に、地域おこし協力隊の募集があると教えてもらいました。
それまで地域おこし協力隊になることは考えていなかったのですが、「大好きな金山町のために、自分が役に立てる活動があるんじゃないか」と思い始めて。
最終的に、自分ができることに挑戦しようと、協力隊になる道を選びました。
ーーすごい決意ですね。会社を辞めることに葛藤はありませんでしたか?
川村さん:
正直、とても悩みました。金山町を好きになったとはいえ、訪れるようになってまだ1年しか経っていませんでしたし、実際に住んでみたら「イメージと違った!」となる可能性もありますよね。
でも、住民の皆さんが「ぜひ、川村さんに金山町に来てほしい」と言ってくださって。その言葉に背中を押され、「何とかなるだろう」と心を決め、移住しました。
「生き方」が「働き方」に。地域おこし協力隊としての日々
ーー実際に、地域おこし協力隊として働いてみていかがですか?
川村さん:
住民の方々と接する機会がたくさんあり、楽しく活動しています。基本的には町役場での勤務ですが、まちに出て行って町民の皆さんとの交流を深めるなど、自由度が高い動きができています。
たとえば、子どもたちが集まる放課後子ども教室「森の子ども図書館」に出向いてお手伝いをしたり、読み聞かせ活動をしている団体と打ち合わせをしたり。
プライベートでも地域のボランティア団体に入っていて、いろいろなところで濃いつながりができていると感じています。新しいつながりをつくり、そのなかで生活することが苦にならないタイプかもしれません。
ーー川村さんのご様子を見ると、人間関係を築き上げていく過程を心から楽しんでいらっしゃる印象です。人を巻き込むうえで、意識されていることはありますか?
川村さん:
とにかく、たくさんまちに出ていくこと、住民の皆さんに私を認知してもらうよう心がけることです。小学校や高校のほか、お茶を飲んでいるおばあちゃんたちのいるところまで顔を出したりしています。
ーー活動の励みになっていることはありますか?
川村さん:
改めて、このまちがすごく好きだと思えたこと。すばらしい景観や、人のあたたかさを知れましたし、自分はこの仕事に向いているとわかったことも嬉しかったですね。
もちろん、大変だったこともあるのですが、それよりもよかったことのほうが多いです。充実した気持ちが、今は勝っていますね。
人が集まるコミュニティとしての本屋「かぷりば」について
ーー川村さんは、金山町でコミュニティスペースとしての本屋「かぷりば」を運営されているそうですね。始めた理由をお聞かせください。
川村さん:
気軽に人が集える場を作りたかったからです。
金山町には、町内外の多世代の人たちが集う場が少ないと感じていて、町内だけではなく町外の人も集える場が欲しいと考えていました。
私個人の想いとして、コミュニティスペースには「本」がほしいと考え、今は実験的に移動式本屋のスタイルで運営しています。同時に、このコミュニティスペースは地域の魅力の発信拠点にもなれば、とも考えていて。
金山町には今、観光案内所がありません。
乗馬体験ができたり、いい温泉があったり、技術を持った職人さんもいるのですが、地元の人に情報を聞かない限り、それらにアクセスしづらい現状があります。せっかくいいものをもっているのに、伝わらないのはもったいないですよね。
コミュニティスペースをまちのキーステーションとして、人と情報の双方が自然と集まる場所に育てていきたいです。
ーーそのような場を目指すなかで、具体的に取り組んでいることはありますか?
川村さん:
町内外のイベントへの出店や、週に一度、まちの喫茶店を借りて営業させてもらっています。
実は、金山町が分類される最上地域には、本屋が一軒しかありません。
そのような環境だからこそ、「図書室以外に本に触れられる場所ができてよかった」「本を買える場所がないからありがたい」など、嬉しい反響をいただいています。
本を選書するときも、レシピ本や絵本、子育てに関する本など、金山の人が好きそうな本を選んでいます。お客さまから本のリクエストをいただくこともあって、いろいろな本を仕入れていますよ。
ーーすでに地域の人に愛される場所になっているんですね。今後の展望などはありますか?
川村さん:
「かぷりば」が一つのきっかけとなり、金山に来る人が増えたらいいですね。何度も足を運んでくれたり、金山のことを遠くからでも応援してくれるような、いわゆる関係人口が増えたらいいなと考えています。
地域おこし協力隊が気になっている人へ
ーー改めて、新しい土地でコミュニティを育む川村さんにとって、「コミュニティ」とは何かを教えてください。
川村さん:
私が求めているコミュニティは、自分を受け入れてもらえる場所。自分を着飾りすぎず、ありのままに近い形でコミュニケーションが取れる場所なんです。
さらに、自分のまわりにいる皆さんも着飾らず、素の自分に近い状態でいられるような環境が理想です。
家族でも職場でもない、いわゆるサードプレイスとしてのコミュニティが、それを実現できるのではないかと思います。
お互いを受容しあい、気負わず過ごせるような、やわらかい場所が理想ですね。
ーーサードプレイスとしてのコミュニティ、という言葉がすてきですね。最後に、地域おこし協力隊の活動が気になっている人へ、アドバイスをお願いします。
川村さん:
本気で地域おこし協力隊を目指すなら、まずは制度や仕組み、派遣後の仕事内容、特に役場の雰囲気などをよく調べることをオススメします。
自治体によって制度や雇用体系が違う場合があります。仕事内容も、実際に地域に入ってみると「期待していたものとは違った」といったことも起こりうるそうです。
私自身も、はじめは3年の任期で与えられたミッションを実施し、結果を残すことにハードルの高さを感じていました。
でも、今となっては、金山町内外の多くの人に助けられながら、いろいろなことを実践できるのはとても楽しいです。この仕事が自分にすごく向いていると感じてます。
ぜひ、ご自身でじっくりといろいろな自治体を見て、自分に向いている地域を探してみてください。
・・・
川村さんの語り口から、彼女がまわりの人と協力しながら生き生きと活動していることが伝わってきました。
1人じゃなくて、みんなで生きる。そのような場に力をもらう。自分の生き方が人や地域のためになっていく。
自分のための一歩が、もしかすると社会や世の中のためになるかもしれません。
〈取材・文=ひろゆき(@himon_da)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉