ふたご座流星群
流れ星が本当にあるとわかったのはごく最近のこと。
それまでは、幽霊か、そこまでじゃないにしてもオーロラよりも少し身近な物くらいな、有って無いような曖昧な現象だと思っていた。
それが打ち砕かれたのが去年ぐらいだったか。
郊外の川沿いに住み始めて、星がよく見えるようになってからだ。
東京というものはやっぱり明るい。
夜道が安心であることは嬉しいが、少し寂しさを生む要因でもあると知った。
未だ田舎の実家に住んでいた頃は、明かりの有難さの方が大事であったから星なんてそっちのけで「暗い!暗い!」と叫んでいた。
やはり大切なことは、手元からこぼれてから気付くみたいだ。
その時もふたご座流星群だった気がする。
ふと外に出たくなって川沿いを散歩しようと家を出た時にその情報を知った。川沿いが街灯もなくやけに暗いことは知っていた。その時は未だ星があんなに綺麗に見えるとは知らなかった。
深夜、日をギリギリまたがない頃に外に出て、いつもの散歩ルートを歩く。
目というものは徐々に暗さに馴染んでいく。だから最初は気付かない。きっと流星群のことを知らなかったら、あんなに空を眺めなかったろう。
星が目に馴染んできて、細かい星々(なんなら小さな銀河系すら見えたかもしれない)が見えると僕は呼吸を忘れた。
なんだか急に孤独になった気がした(でもそれは寂しいそれではなく)。
宇宙をまるで独り占めしている妄想に酔いしれていると、光が流れた。それは想像以上にくっきりと、でもすごい速さで、線を引いて消えた。もっと曖昧で記憶に残らないほど地味に通り過ぎていくものだと思っていたそれは、「あっ」と声を上げてしまうほどの印象を脳裏に焼き付けてきた。
これが流れ星か。
なめていた。正直なめていた。
こんなに心を躍らせるものかと。
するとすかさず、視界に入るギリギリ端っこでまた流れる。またも声を上げてしまう。
そうだ、流星群だ。
感動を畳みかけられた。次は心の準備して見るぞと思い構える。しかし3っつ目は中々来ない。
なんとも可愛くも憎たらしい流星群だった。
まぁそこで僕は流れ星というものを本当の意味で知った。あいつは紛れもなく本物だぞと知った。
そして最近もまた流星群がやってきた。今回もふたご座流星群。
川沿いに出る。ピークは深夜1時。出たのは確か10時過ぎとかだ。今になって思うと張り切っていたなとバカバカかしく思う。
でも、それでも流れたのだ。確かに回数としては少ないが星は流れていた。夕日と流れ星はいつ、どれだけ見ても飽きることはないと思う。やっぱり素敵だった。4個ほど流れ星を懸命に探した後、温かいお茶を買いに行き、そしてピークを待った。
ピークはやはりすごかった。何がすごかったって、星よりも地上がすごかった。
川沿いには、夫婦やらカップルや友達(暗いから憶測でしかないが)が集まり始めた。
みんなで流れ星を眺める。流れ星もまた張り切り始めていた。
流れるたびにみんなで「あ!」と声を上げる。見逃したとしても誰かの声で星が流れたことは知れるという状況だった。
とても寒い寒い夜だったけど、ぬるくなったお茶よりは温かい空間だった気がする。
その後10個ほどの流れ星を眺め、家に帰った。小旅行から帰って来た気分だった。
「星の王子さま」を最近読み直している関係で、夜空の感じ方に奥行きが増している。
とてもいい夜だった。