can't say good bye

あの頃の僕は、
今よりも更に非力で、怯えながら生きていた。


「〇〇って覚えてます?その子の絵の個展、観に行きません?」

僕が大学4年の時の1年生の〇〇は、今、表参道で初めての絵の個展をしている。

僕が行っていた大学は迷ってしまう程の敷地を持った大きな大学で、その中で僕は芸術を学ぶ学部にいた。
演劇やダンスや裏方や劇作や狂言なんかも学べて、楽しそうな大学。

でも実際は、思い出すだけで震えるような理不尽と圧力がそこら中に転がっている学部だった。

そこで僕らはしこたま怒られる。

昔々のことであるから、朝になるまで大学で怒られていたこともあった。


その〇〇のことはうっすら覚えていて、冬の卒業公演のスタッフをやっていた子だった。

とはいっても何年も前。向こうが覚えているとは思えなかった。
こういうことはよくある。こちらはうる覚え、向こうもうる覚えか忘れている。なんだかお互いに歯がゆい気持ちになる。

まぁでも特に予定もないし、観に行くことにした。



個展はイメージしていたのとは違っていた。
お洒落な一軒家のような(とはいってもちゃんとギャラリー)空間で、
絵の描いてあるキャンバスが無造作に壁際の床に立てかけてある。

大きな絵とかはなくて、どれも赤子くらいのサイズ感。
絵の他にも紙を編んだみたいな作品もあった。

とても素敵な、優しい空間と作品だった。


そこには大学の後輩たちが何人かいた。

ギャラリーに入り、僕の姿を見付けると「千葉さんだ!千葉さーん!」と手を振ってくれた。

その日はダンサーであるその後輩の一人が、その個展の空間でダンスを踊っていたらしく、そのお母様とおばあ様もいらしていた。

何故か自然とご挨拶する流れになるのだけど、そこで
「あたしあなた覚えてるわ、ファンだったのよ!もしやって思ったけど!」
とお母様が言った。

在学中のどの公演をご覧になったのだろう?
演劇はもちろん、ダンスもやっていたりした。でもそのダンサーの後輩とは共演したことはなかった。


そんなことよりも、
卒業して何年も経っているというのに覚えていて下さった、そしてファンだったと言ってくれたことが嬉しかった。


〇〇とも挨拶をした。
結論から言うと、向こうは覚えていてくれた。
僕も割と覚えていた。

「私たちの代は、みんな千葉さん知ってますよ」

嬉しかった。
自分に置き換えて考えてみれば、それはお世辞かもしれない。
それに自分が1年の時の4年生は大体知っていた。
有り得ない話ではないのかもしれない。

でも嬉しかった。


あの頃の僕は、
今よりも更に非力で、怯えながら生きていた。

もちろん楽しいこともあったし、大学生という若さを振り回し、がむしゃらに生きていた。

でも怖いことはいつもあって、布団にくるまって苦しむ夜も何回もあった。


卒業して僕は俳優をやっている。
30手前にして、バイトをしながら生きている。全然、芝居で食えていない。


俳優を目指した高校生の自分には到底見せられない、今。

でもなんだか少しだけ、この道は悪くないのかもなと思った。


最近では、
僕が出るほとんどの公演を予約して観に来て下さる方や、
出演した公演を見てくださってその後、色々気にしてくださる方もいる。

嬉しいなんてもんじゃなくて、
大袈裟かもしれないけど「生きていていいんだ」と思える程のパワー。


承認欲求の塊みたいな文章になってしまったけど、
何が言いたいかって、

あれこれ考えずに頑張ろうと、とにかく頑張ろうと思ったって話です。


応援してくれる人が喜んでくれるように、
今年もがんばりまーす!!


ありがとうございましたっ!

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