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【その3】 11ヶ月失業して、転職後1ヶ月で辞める話

不器用キャリアのひとつおぼえ

 仕事選びがうまくないので、原理原則はできるだけシンプルに考えることにしている。

 私にとっての仕事探しは、全て「マッチング」だ。

 合うか合わないか。縁があったかなかったか。間がいいか悪いか。

 小賢しいかもしれないけれど、そう考えると気が楽だ。経歴とか能力とか好みとか、ありとあらゆる要素を加味してもしなくても、マッチングしたか、しなかったかという問題だけ。

 会社でたまたまポジションが空く。そのポジションに合う人がたまたま転職活動をしている。二つのベクトルが出会うだけ。


 「来た球打つだけなんで」と言ったのは『忘却バッテリー』の清峰 葉流火だった。彼のような天才ムーブなぞできようがないが、心持ちとしてはアスリートなんだ。来た球打つだけなんです。仕事なんて。

 あまりにも向いてない、事故りそうな仕事ならば向こうから避けていく。いいから仕事させろ。話はそれからだ。

 向こうが「まかせられそう」とちらりとでも思う仕事なら、おそらく私はできる。

 そんなふうに雑に考えて、企業研究とかIR情報の調査を怠ったおかげで、内定辞退より百倍も問題をややこしくしたわけだが、前に働いてた会社だって、ほぼ丸腰で面接に行って受かったんだし、働いてみないとわからないことなんて、山ほどあるでしょ。でしょ? でしょ???

 1ヶ月で辞めることになった職場に、私が期待してたことは何だったろうか。給料が低いことは、あるていど織り込み済みだった。給料が低くなるぶん、この会社には価値があるはずだと賭けに出た理由はなんだったのか。

思いっきり仕事できる環境

 ふと頭をよぎることを例えで話したい。

 AさんとBさんがいたとして、Aさんは家柄もよくてエリート街道をひた走っている。Bさんは低所得者層で育ち、とりあえず大学を出て零細企業で働いている。

 二人がある時出会い、カレーの話をしたとする。

 二人はお互いにカレーが好きだ。

 カレーのどこが好きか、というポイントもだいたい似てる。

 しかし、Aさんが知るカレーと、Bさんにとってのカレーは、次元が違う。

 Aさんのカレーは、有機農法で育てたお高い野菜やスパイスを使い、それを売ってる高級スーパーで買い物をし、肉も和牛で、調理器具も鍋だけで数万円する。米も高級品を高級な炊飯器で炊く。

 Bさんのカレーは、知る限りの最安値を寄せ集めたもので作っている。

 どちらもカレーの匂いがして、美味しい。存在しているだけで普遍的な価値は変わらない。でも次元が違う。

 見えない「格差」が存在している。

 「格差」とは言わなくても、同じ言葉を使って説明できるのに、実際に想定しているイメージは食い違っていることがある。

 転職の失敗で、私に起こったことはここにあると思う。

 私は、「思いっきり仕事ができる環境」を求めている。設備とかツールとかオフィスの立地とか、同僚たちの能力とかモチベーション含め、全部のバランスが良くてさらにグレードが高くあってほしい。武者修行を経て、基準がしらずしらず高い状態になっている。

 でもおそらく今の職場の人たちも、「この会社では思いっきり仕事ができる」と感じているような気がする。

 (もしくは、「こんなもんだ」と思いながら働いているのかもしれない)

 そこまでめちゃくちゃ大きな違いではない。「ある」というだけで意義の80%は満たされている。パソコンとOfficeソフトと机と椅子、コピー機や社内基幹システムなどなど。

 でも、85%満たされているという状態と、90%満たされている状態って、考えようによっては二倍違うということなのだ。(+5%と、+10%の違いの部分だけ抽出すると二倍の差がある)

 実際に会社に入ってみないとわからないことは多い。何度も言うが、ある程度は織り込み済みだった。会社の立地や設備、役員の雰囲気も理解していた。東京で求めていた同等のものを、札幌では得るべくもないと。

 試用期間で退職を決意するほどのミスマッチは、給与面以外の部分ではどこにあったというのだろうか。

プライバシー

 極論はこれに尽きる。

 今の職場は家族的な雰囲気が滲んでいる。よく言えばアットホームで和気藹々。悪く言えばガサツでなあなあ。

 みんな口頭でやりとりをする。ちょっと感じたことや打ち合わせを気がついたタイミングで話しかける。

これが気持ち悪かった🤢

 だって、今まさに相手は仕事とか考え事に集中してるかもしれないじゃん……。

 あと、KYで声のデカいひとがなんだかんだでイニシアチブ取れるってどうなんだろ……。

 近くに座ってる人にもチャットツールでことわってから、話す時間をとったりMTGをセットして、ちゃんと段取りと心の準備をしてから話すっていう流れに慣れていたし、変えたくないと思った。

 言語化してみると、スゲー陰キャっぽいメンタリティだなとは思うけど。陰キャなら陰キャなりの戦い方があるのだ。

 プライバシーをどれだけ重要と思うかって、人それぞれだと思うけれど、家庭環境とか出身地とかに左右されないこともある。
 私は五人家族で公団育ちで、家が狭かった。思春期になる頃には、自分だけでいつまでも考え事に没頭できる空間が必要だと思っていた。プライバシーのない家庭で育った人がオープンな性格になれるかと言うと、決してそうではないと思う。

 家族みたいな雰囲気とか距離感をはじめから想定されている人間関係は気持ちが悪い。まずは、それぞれが心地いいと思う距離感とかペースを心得たうえで、少しずつ関係が構築された結果、家族みたいな結束が生まれるというのならわかる。

 このプライバシーのなさは、札幌が田舎だから?

 いや、違う。私は札幌を信じてる。やればできるはずだ札幌!


 陰キャなことと、不誠実であることは別だ。陽キャであることが必ずしも誠実さにはつながらないのと同じく。

 私は私なりに実力を積み上げて、できることはできる、できないものはできない、とはっきり言いたい。

 だからどんな小さいことでも嘘は嫌い。回収できない嘘が嫌いというか。嘘はたいがい回収できないものだけど。

 面接の時に言われたことと、実情が違う。気持ちを裏切られたというショックはばかにできない。陰キャなだけに陰険なのだ。

 面接では、zoomMTGが多いって言っていた。小さい企業だけどDXに成功していると表現したかったのだろうが……。実際は訪問して対面の商談が多かった。

 地元企業のブランディングに貢献したいと言っていた。しかし、実際は目先のかっこよさありきで、コンセプトの何たるかをわかっていない。

 ……みたいなことが、入社後ぼろぼろでてきた。

 相手が小さい嘘を重ねて、それを見ないふりして……という状態が行き着くところの一番嫌いな状態は、自分は正しい、間違ったことしてない、相手が悪い、でも我慢するしかない弱い私っていう、低い自己認識とか、自己憐憫に陥りながらも、結局はその場に居続けるってことなのよね。

オヤジ

 大企業で働くまでは、オフィスにいる社員数が最大でも20人ほどの、超零細企業で働いていたから、自分のキャパシティはあくまでその程度だと思っていた。
 考えてみれば、小さい会社で働いていた頃は、半年〜2、3年で転職を繰り返していた。うまく言えないけど不安になるのだ。ここのやり方に馴染んだところで、他でどれだけ通用するのかなって。

 大企業では文字通り死の一歩手前まで追い詰められて働いていたけど、地雷社員にあたって退職に踏み切るまでは、5年働けたし、パンクするほどの業務を持たされることがなければ、10年以上働けたような気がする。それも含めて運命だとは思ってるけど。

 あらゆる面で満足して職務に邁進していたのだ。

 前職は社員の新陳代謝が激しかった。だから、身のまわりにくたびれたオヤジみたいなのはいなかった。年齢的にはオヤジだとしても破竹の勢いで仕事をしていた。

 くたびれた人には専用の部署があるらしいと、まこととしやかにささやかれていたが。

 今の会社では、気がつけば二十人くらいいるオヤジ集団の中に、女性は2−3人だ。オヤジ濃度にもスペクトラムがあるにせよ、「コンプラだとかなんだとか言い出すとなにも話ができなくなる」とか思ってたとしても今更驚かない。

 それぞれはいい人、優しい人たちなのだ。しかしだんだん、「このユルい空気感壊すなよ」って言われているように感じてきた。

 オヤジは家に帰ればご飯作って風呂沸かして待っててくれる人がいるのか知らんけど、薄給なだけ残業代欲しいのかわからんけど、終業後もだらだら残っている。

 私もこういうの望まれてるのかな? 試用期間が終わったら、みなし残業代分長く働けってことか。 インセンティブというわけでもなくて、ガチで会社に縛りつけるためのみなし残業か。事実上の9時間、10時間労働じゃん。そんなんで、生産性上がるわけないじゃん。

 でもみんな残ってる。

 オヤジの同調圧力が強まると、当然女性は働きにくい。

 オヤジは女性と同じかそれ以上に噂好きでもあり、嫉妬心も強いのを、表面上は認めたがらないのもやりにくい。

 向こうも、あまりなびかない女性が入ってきてやりにくいと感じてるかもしれない。

 こんなに澱んでいるところだとは思ってもいなかった。

 求人票には、3割女性社員で働きやすさ◎ とか書いてあったけど。パートの方々も計算に入れたんでしょうか? 

 極めつきには、企画部と営業部、合わせて20人ほどのオヤジ集団のうち4人くらい、キーボードの音がやたらデカい。

キーボードに生まれたことを後悔させたいのか知らないけどなまらうるさい。

なんで?

オレがオフィスで1番仕事してるアピール?

どこをどう分岐したら「最大音量でキーボードを叩く」が「メンバーから一目置かれる」になるんだろう知りたい。

ポンコツ

 仕事の原則ってシンプルだと思うんだ。

 スケジュールを引き、段取りを組み、その通りに一個ずつ実行する。

 状況は変化するけど、原則は、原則というくらいなので基本変わらない。変化する状況の中で原則をどう適用させていくかが腕の見せ所だ。
 私は技術力は人並みだけど遂行力には自信がある。実直に仕事の原則を守ってきた。

 積み重ねがあるので、他人の仕事の質も判断できる。入社後数日で、隣に座ってる奴はどうやらポンコツだということがわかった。

 なぜか。

 ①中くらいのミスが多い。(自分で巻き返せるレベルじゃなく、周りを巻き込むミスが多い)

 ②バッファを持って仕事をしない。(できた余裕を仕事の質を上げるために使えない。仕事の遅れを周りを巻き込んで回収しようとする)

 ③自分は間違ってないと思っている。(仕事をしているフリは得意。たまに独り言で「ええい、クソッ」とか言ってイラついている)

 ④その状態のままアラフォーに突入している。

 これでは、もう誰も怒ってくれない。諦められていく。周りから侮られていることを居心地の良さだと思っている。

 先回りしてゴリゴリ仕事を片付けていくタイプの人は、ポンコツからのこぼれ球を次々拾っていくことになる。ポンコツはこれ幸いと仕事を横流ししてくるようになる。ポンコツなりにプライドがあるので感謝もしない。全て自分のために用意された仕事マシーンだと考える。

 私はポンコツの高吸水性ポリマーではない。

パワポ

 私の配属先は企画部で、営業部が持ってくるいろいろな案件を受託できるように提案書にまとめると言うのが基本的な仕事のようだった(1ヶ月しかいないからわからんけど)。企画部は「提案書でいかにインパクトを出すか」に骨身を削っていた。もう少し具体的に言うと、提案書のインパクトをロジックではなくデザイン性に頼っていた。

 前職は大きくくくると「提案される企業(委託企業)」で、現職は「提案する企業(受託企業)」、両方の立場を経験したわけだ。

 パソコンの前に座って提案書パワポをパラパラめくって采配するだけっていうのも殿様商売だとは思うけど、逆に言えば、担当者は膨大な情報量を日々処理しなければならないのだ。

 そういった面で見ると、確かに作り込んでくれたパワポを見れば感動しなくもない。パワポを送ってくれる段階では、その仕事に一円も発生していないからだ。こんなに完成度上げなくても、言いたいことが伝わるだけでいいのに、と思うのだ。要求に対してのアンサーがわかりやすく、的をえていればいい。追加して欲しい要素は、商談を別立てして伝えればいいのだから。

 現職では、この「パワポに気合いを入れる」ところに労力を使いすぎていると感じた。

 でも、パワポという「元気玉」を練り上げることに情熱をかけている企画部長に対して、「ちょっと冷静になって、スライド一枚の文字量見てみ?」とか、「この構文、ChatGPT丸出しですよ」とか、コンセプトから具体例に飛躍しすぎだとか、ペルソナ設計の仕方間違ってるよ、とか、どのタイミングで言えばよかったんだろうか。

 口頭で伝えるより、私の業務の中で実績を積みながら示していくことだったんだろう。時間をかけるのは重要だ。仕事だからって、人の感情を蔑ろにしていいものではない。そうしている間に会社に染まっていくのがどうしても嫌だった。鼻持ちならない人間さ。私は。

 20代の頃は、小さい会社で働いていたので、ロールモデルがなく、伸び悩むのではないかという不安が常にあった。そこそこの企業で働いて、どこでも通用する力をつけたと思った。

 ここにきて、なんとなく、または勢いだけで仕事をする人に囲まれて、覚えたこと、大事にしていたことが全て台無しになってしまいそうな危機感が芽生えた。

 極めつきとして、この会社のダークフォースと言える存在に、入社1週間にして遭遇することになった。


つづく。


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