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ある日、精神が初期化されて、三冊の本で心を再構成することになったら


 作る人として生きたいと決心してから、ある程度読書経験が積み重なった。

 苦労して読み切った本、貪るように読んだ本、転げ回っても理解できない本、終始ザワザワした感情を覚えた本、本によって体験も一筋縄ではいかない。本に対する態度はその時々で変化する。本を読む鍛錬を積めば、もっとフラットになると思っていたが、、そうなる気配はない。いつだって新鮮を通り越して生っぽい。

 本が語ることと真剣に向き合うなら、人と向き合うことと同じ……できればそれ以上……の価値があると信じたい。

 「無人島に持っていくなら」で語られることが多い「人生における渾身の愛読書」なので、視点を変えたい。

 ある日突然に精神が初期化されてしまって、まっさらな状態になる。その時、三冊の本で心を立ち上げ直すとしたら、どの本がいいだろうか。健康保険証の裏だとか、マイナンバーに紐づく電子情報かなにかに、もしものときはこの三冊で復旧させてください、としたためておくんだ。

 (聖書って言う人もいるだろうけど、聖書を66冊構成か一冊とするのかは決めかねる。正典の中から三冊選ぶとするなら、という議論は白熱しそうだ。創世記と……黙示録と……あと一冊を決めるのはかなり難しい。再起動で聖書を望むほどの信仰を持っているなら、もうその人にはなんの心配もいらない気もするし)

 私は基本的には長編を敬っている。大長編が語れるようになりたいと思いながら過ごしているが、三冊選んで自分を語る、という基準で考えた時に、自信を持って札を切れるのはわりとミニマルな本だった。

 私が「この三冊で自分の心をつくり直してもいい」と思う本を紹介する。

夜と霧 ヴィクトール・E・フランクル

 『夜と霧』の存在を知ってから、なぜこの本を読まなければいけないのか、自分の気持ちを整えるまでかなり時間がかかった。

  ホロコーストを題材にした作品はいくつも挙げられると思うが、人間性を超越して、剥き出しの愛にまで踏み込むことができた作品、言語化に成功した作品は、そう多くはない、というか、この本意外に知らない。

 暗い。著者が経験したのと同じことを、誰も味わいたいとは思わないだろう。それでも光が闇の中で輝いているのが、ありありと見えて、焼きついてしまう。


坊っちゃん 夏目漱石

 夏目漱石自体好きだけど……どの話も好きだけど、坊っちゃんはなぜか別格だ。坊ちゃんを超える一人称小説があるなら知りたい。
 悲しい話だと思うんだよな。でもユーモアになってしまう。悲哀を通り越して嘆きにすら感じる。夏目漱石がブルースだという人がいたら私は支持したい。

 たとえていうなら、チャップリンはとても愛らしいキャラクターだし、映画に漂う哀切も胸を掻きむしるけど、チャップリンを抱きしめろと言われてもなぜかできそうにない。坊っちゃんを抱きしめろと言われてもきっとできない。本人は絶対に望んでない。腕の中で暴れ出す気がする。なのに愛おしいし一体化もできる。手中にあるようで突き抜けている。

星の王子様 サン=テグジュペリ

 もうだいぶ大人になってから読み通したけれど、「取り返しのつかなさ」を受け止められる年齢になった。星の王子さまは知りたがりの男の子だった記憶があるけど、私は王子様に対して、「どうして?」と聞きたいことがいっぱいだ。

なぜ惹かれるのか

 心理テストじゃないけれど、真っ白になった自分の心を作り直すための三冊を選ぶことで、自分が何を大事だと思っているかが見えてくるような気がする。

 私が大事だと思ってるものは、

 光とか愛、エネルギーとかユーモア、好奇心とかまぼろし、そういったものだと思う。

熱を提供したいという欲求

 つい今しがた知ったnote執筆者の記事を読んで、勢いで課金して、私がnoteを書く目的って何だっけ? と振り返った。

 自分が最終的にはどういう状態になりたいかとか、発信に必要なコンセプトとかターゲット設定までは固まっている。実際に書き出してみるとすらすらとまとまる。しかし最後の一手、私の発信に触れた人がどうなって欲しいか。まで踏み込んでなかったので反省した。
 「私の投稿を読むなんて何かの事故だろうから、見た人がせいぜい不快にならなければいいや」くらいに捉えていた過去の抜け殻を捨てないでそばに置いていた。文章にしてみると、卑屈だなあ。

 でも、自分が何かを発信し続ける限りは、他人にとってどんな価値提供をするかは存在意義としてセットだし逃げられない。逃げられないことから逃げられないっていうことが実感として湧いた。
 自己実現欲求100%の漫画作品はリリースし始めたばかりだけど、それなりの覚悟をもって正面切って何かを世に問うって、当たり前のように自分にインパクトの大きいことで、わだかまってた期間ではわからなかったことがボロボロと見えてきたりするもんだ。

 作品を見た人が何を思うかは自由。っていう抱きしめ方というか突き放し方もあるけど……いや、ないんだな。しばらくはそんなことは絶対にないと思い切るくらいのテンションでいきたいや。

 そんなこんなで、読んだ人にどうなって欲しいかを明言しておくと、

 心に火をつける。

 だ。悪い意味の炎上ではなくていい意味で! 読んだらなんかうわぁっと熱くなるみたいな。

 確かに、こういった指標を固めておくと、創作に必ず訪れる迷いの時間に、私はこのために発信をしていて、こういう人にこういう気持ちになって欲しくて作ってるんだから、今は先が見えない状態だけどとりあえず初めに決めた通りに進んでみよう、っていう北極星的なものになるよね。いやわかってたはずなんだけど、自動運転になりかけた時こそ度々振り返るべきだよね。基本ってのは。

 本を三冊選ぶところからだいぶ発展した。

 あなたの心を立ち上げ直すための三冊は何ですか?



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