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「小説を漫画にする?」──自主コミカライズが教えてくれた読者視点

 「小説を書くこと」と「漫画を描くこと」は、同じ物語を表現する方法でありながら、大きく異なる側面を持っている。

 文章での表現を追求して小説を綴ってきたが、あるとき「漫画にしたら、もっと楽しんでもらえるのではないか?」と頭をよぎった。

 私が小説を書く目的は、単に出版を目指すことにとどまらず、メディアミックス化を含むプロジェクトの成長と、より多くの人に物語の世界を体験してもらうことだったのだ。

 自主コミカライズにチャレンジした経緯と、そこで初めて意識した読者目線について、今回は振り返ってみたい。


自主コミカライズの計画

「エスキャトロギヤ」を育てる方法としての漫画化

 私が小説「エスキャトロギヤ」を書く上で漠然と抱いていた夢は、「いつか漫画化やアニメ化が実現し、多くの人が楽しんでくれる作品になること」だった。

 いわゆる“メディアミックス”を視野に入れたプロジェクトとして育てたい――そう考えるようになったのは、書き始めてからしばらく経ってからだ。

 しかし、小説だけでは読者層が限られるし、投稿サイトや出版への道も開ける気配がない。

「いっそ、自分でコミカライズを始めてみよう」と考えた。

 文章を元に脚本化し、キャラクターの動きや表情を絵で表現することで、作品の魅力を別の形でアピールできるのではないかと思ったのだ。

 もちろん、私自身はプロの漫画家ではない。デザイン学生で自主制作の経験がそれなりにあるので、全くのゼロベースではない。なによりやってみたい気持ちがうずうずする。小説を漫画にすることで読者に届ける方法が増え、作品の世界観を広げるきっかけになるかもしれない。そんな期待があった。



「読者にどう楽しんでもらうか」を初めて意識した転機

文章を映像へ組み立て直す難しさ

 いざコミカライズをやってみようと思うと、文章を映像として再構築しなくてはならないことに気づく。

 キャラクター同士の会話や心情描写を、セリフや表情、背景、コマ割り、効果音などで表現し、読者を惹きつける仕掛けを随所に盛り込む必要がある。

 この過程で、私は初めて「読者が物語を読んでどんな気持ちになるか」を具体的に考え始めた。

 今までは文章ベースで淡々と書き連ねればよかった。漫画ではコマの配列、見せ場の演出、キャラクターの動きなど、あらゆる面で読者が楽しめる流れを組み立てなくてはならない。

エンターテインメントとしての視点を育てる

 参考として、大好きな漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』を読み返して、エンターテインメントとしての魅力に改めて気づかされた。

 「ジャンプ作品」として連載されてきた『ジョジョ』には、華やかさや派手な演出、巧妙な工夫がたくさん盛り込まれている。時には荒唐無稽に思える設定でも、ワクワクできる仕掛けによって納得できる。この王道感・エンタメ感が、多くの読者を惹きつける大きな要因なのだ。

 自分の作品に当てはめるなら、「読者がどこで驚き、どこで共感し、どこで胸を熱くするか」を徹底的に意識して描写を組み直す必要がある。小説とは異なる「漫画ならではの表現」を学ぶために、脚本化のテクニックやコマ割りの技術を研究するようになった。



就職や復職で漫画制作が進まないジレンマ

仕事と創作活動の両立

 コミカライズ計画に火がついたはいいものの、現実の生活はそう甘くない。当時は失業中。就職活動や復職による環境の変化、仕事の忙しさなどで、漫画制作に回せるエネルギーが急激に減ってしまった。

 それでも、作り続けたい思いは頭の片隅にずっとあった。眠る前や移動時間など、ふとした瞬間に「もしあのシーンを漫画にするとしたら、どう演出しよう?」と考える。作品のことがどうしても忘れられずにいた。

諦められない「エスキャトロギヤ」への愛着

 結局のところ、作品への愛着が消えないからこそ、何度も立ち止まりながらも創作の道を探り続けるのだと思う。

 漫画制作は着手から2~3カ月ほどで一旦ストップしてしまったが、エスキャトロギヤの魅力を最大限に引き出すにはどうすればいいのか、より客観的に、具体的に考える癖がついた。

 いろいろな方向に手を出しては止まり、また考え直し…という試行錯誤を繰り返すうちに、「作品を読者が楽しめる形にするには、どうコンテンツを組み立てるか」というプロデュース視点が少しずつ育まれたのだ。



作品を映像化したい方への覚書

1) コミカライズに必要なスキル

 これから物語を漫画にしたいと考えている人のために、最低限押さえておきたいスキルを挙げてみる。

  • 脚本化・構成力
    小説の本文を漫画向けに再構成する。地の文での描写をセリフに直してみたり、どこでページをめくるか、引きをどう作るか、ページの中での読者の視線の動きを意識するなどの演出も重要。

  • セリフ回し・効果音
    漫画では“文字情報”として読者の目に入る要素。キャラクターの個性や迫力を伝える要。

  • キャラクター設計
    視覚的なインパクト、読者が感情移入しやすい魅力づくりが求められる。

  • 画力・レイアウト
    コマ割りや背景、パースの取り方など、漫画技術全般。小金があればクラウドソーシングが検討できるだろう。その場合も基礎知識があるとやり取りが円滑になる。

 画力の話で一気にハードルが上がるのだけど、現代はいろんな漫画表現があり、絵が下手だとしてもさほど問題ないのではないか(表現したいものと絵の雰囲気がマッチしてればいい)と思うこともある。

2) 「読者目線を意識する」ことの重要性

 小説家としては内面に深く入り込んで書くことが多いが、コミカライズを試みると、「いかに読者の目を惹きつけ、次のページを読ませるか」を常に考えざるを得ない。これは漫画のみならず、小説にも応用できる視点だ。

  • 場面ごとの“見せ場”を明確にする

  • キャラクターの個性・目的・思考が読者に伝わるようにする

  • 物語のテンポ感や起伏を作り、飽きさせない

 これらはどんな媒体でも大切な要素であり、“作品を楽しんでもらう工夫”を学ぶきっかけになるだろう。

3) ちょっとした習慣

  • 既存の漫画作品を“演出”の観点から分析
    「ここはどうして面白く感じるんだろう?」「どうしてこのキャラの動きが魅力的に見えるんだろう?」と、1ページごとに考察してみる。

  • プロット段階から漫画を想定してみる
    小説を書くときも、“もしこれを漫画にするなら?”と仮定して、場面の見せ方やセリフの長さを調整してみる。

  • ミニ漫画やネームで練習
    実際に数ページだけ描いてみると、“文章の情報量をどう絵に変換するか”の感覚が掴める。

4) 注意点

 小説では、基本的に「視点を固定する」必要がある。三人称で語るとしても、登場人物の誰かにカメラが固定されていて、そこから見えることを書いていくイメージだ。

 視点を変えるときは、一連のエピソードのかたまりが切り替わるタイミングと合わせた方がいい。

 視点がしょっちゅう切り替わると、読者が混乱するからだ。

 一方、漫画ではカメラの切り替えや大胆な構図こそが読者を楽しませ続ける要素になる。ここは小説と漫画を区別して考えた方がいい点だ。



映像化で読者目線を意識する。

 自主コミカライズというチャレンジを通じて、ようやく「読者にどう楽しんでもらうか」を強く意識し始めた。もともとは書きたいから書くという作家脳で動いていたが、「読者目線」という新しい視点が開けたわけだ。

 現実の生活や仕事との両立は簡単ではない。それでも作品への愛着を失わなかったから、プロジェクトを諦めずに続けてこられた。

 あなたにもし思い入れの強い作品があって、違った視点を取り入れて作品を磨き上げようと思うなら、ためしに、脚本化や演出を体験してみるといい。書くだけでは気づけなかった魅力を掘り起こせるはずだ。

 次回は、千年王国という神学的なテーマを扱う作品が抱えるアウェイ感や、文脈づくりの難しさについて取り上げる予定だ。

 ニッチな題材をどう読者に伝えればいいのか、引き続き、試行錯誤を共有していきたい。


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