本と活字と紙の狭間で ~自費出版アドバイザーの独り言~(3)
アドバイザーの初仕事
アドバイザーの資格を取得した後でも、怠慢なことに特別な活動もせずにいたのだが、一本の仕事が舞い込んできた。
塩尻市の「重要文化財小野家住宅」の所有者から、保存修理事業の記録を出版したいというお話だった。
この事業は、関係機関として、文化庁文化財部参事官をはじめ、長野県教育委員会・塩尻市教育委員会・小野家住宅修理委員会・独立行政法人国立文化財機構、他、行政・大学・建築関係機関という大規模なプロジェクトで行われた。総事業費も約3億8千万であった。
が、実のところ私がお手伝いできたのは、表紙の布クロスの提案と奥付ページに旅籠の看板を入れること、発刊記念にポストカードを作成してプレゼントしたことだけだった。
本文は所有者である著者ご本人自らの写真撮影のみならず、Adobe InDesignで完全データを作成済みだった(営業としては非常に楽ちんなお仕事なのだが)。
その後この書籍は「第20回 日本自費出版文化賞」に応募させていただき、地域文化部門で入選となった。著者さまご夫婦は大変喜ばれて市ヶ谷での授賞式にも参列いただくことができた。
本を作りたいという想いが自身の喜びにも繋がった初めての経験だった。
しかしこの年に手がけた自費出版はこの1件のみ。会社も新人営業が複数入社したことから、自費出版展示無料相談会を数回開催したのだが、次の年も2件だけと、5年間で私が担当した自費出版はわずか5件だった。
……自社だけでイベントを開催したところで話題性もなければ、予算もアイデアも限界がある……。
ようやく〝自費出版アドバイザー〟の自覚を持った私は、同業他社に共同事業を持ちかけたのだった。