歩行と半側空間無視
タイトル
脳卒中片麻痺患者における半側空間無視と歩行自立度の関係
著者名
濱中 康治、小林 修二、久保 晃、藤井 伸一、森田 秋子
雑誌名
理学療法科学
公開年月日
2004年8月18日
研究の問いや目的
この研究の目的は、脳卒中片麻痺患者における半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect, USN)と歩行自立度との関係を明らかにすることです。具体的には、USNの有無および重症度が患者の歩行自立度にどのように影響するかを検討しています。
研究や実験の方法と結果
方法
対象者:平成14年7月1日から平成15年6月1日までに慈誠会徳丸病院に入院した脳卒中患者105名のうち、研究基準を満たした42名を対象とした。
評価項目:対象者をPT室内での歩行が自立した群(PT室群)と病棟での歩行も自立した群(病棟群)に分けた。USNの評価には線分末梢、線分二等分、図形模写の3つの机上検査を使用し、重症度を0から3点の4段階で評価した。
分析方法:歩行自立度とUSNの関係をSpearmanの順位相関で分析し、ロジスティック回帰分析を用いてUSNの判別寄与率を算出した。
結果
1.年齢および入院までの期間:
PT室群と病棟群の年齢や発症から入院までの期間に有意な差は認められなかった。
2.USNの有無と重症度:
入院時にUSNを認めたのは19例(45%)で、3ヶ月後には6例(14%)に減少し、重症度も軽減傾向にあった。
3.歩行自立度とUSNの関係:
入院時のUSN有無・重症度と3ヶ月後の歩行自立度には有意な相関はなかったが、3ヶ月後のUSN有無・重症度と同時期の歩行自立度には有意な相関が認められた。
4.USN消失率:
病棟群では82%、PT室群では50%の割合でUSNが消失しており、病棟群の方がUSN消失率が高かった。
5.USNの影響:
USN有無の判別寄与率は10.8%、USN重症度の判別寄与率は14.4%であり、USN以外の要因が歩行自立度に大きく影響していると推察された。
研究や実験の結果から得られる影響
この研究は、脳卒中片麻痺患者におけるUSNが歩行自立度に一定の影響を与えることを示しています。特に、入院時のUSNは一過性であり、時間の経過とともに改善または消失することが多いため、入院時のUSNの有無や重症度は3ヶ月後の歩行自立度の予測には必ずしも有効ではないことが明らかになりました。また、USN以外の身体機能や他の因子が歩行自立度に大きな影響を与えている可能性が示唆されました。
この論文の結論
この研究の結果から、回復期リハビリテーション病棟におけるUSNの存在が歩行自立度に一定の影響を与えるものの、USN以上に身体機能などの他の因子が大きく関与していることが示されました。今後は、行動上のUSN所見を含めた検査バッテリーの導入や、左右別でのUSNと歩行自立度との関連、身体機能や全体的脳機能との関連を検証することが重要であると結論付けられています。