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心に秘めた想いは、言葉にするにはあまりにも深すぎる。

今では有名でよく名前が知られた講演家の方が、まだ駆け出しだった頃のお話です。
当時のその方は、他にもお仕事をお持ちで、ご縁があった方からの、口コミでお呼びがかかると、行ける範囲でお話をする、そんな感じで仕事をされていました。
講演家としてはセミプロのような感じでしたが、確実に成果を上げてらっしゃいました。もう20数年前のことです。

講演の内容自体は、終始和やかな雰囲気の中で終わりました。
主催者の方が、そろそろお開きということで、最後の質問と言った時に、会場の一番後ろでポツンと目立たないように座って、黙って話を聞いていたひとりの女性が手を挙げました。

誕生日は自分で決めて生まれてくる。生まれてくる前にこの世でのシナリオを自分で決めて生まれてくる。

その講演家の方は、終始そう言っていました。
それに対しての質問として、彼女は手を挙げたのです。

静かにはっきりと何かを決意したように彼女は、2週間前に婚約者を交通事故で亡くしたことを話しました。
トラックの居眠り運転が原因で、彼の車と正面衝突。即死だったそうです。
話しながら、彼女は大きな瞳からボロボロと涙を流していました。

結納も済ませ、結婚式も1ヶ月後に決まっていました。
なのに、こんなにアッサリと自分だけあのに行ってしまうだなんて。
彼もこうなるシナリオを決めて、生まれてきたのですか?それはなんのためですか?死ぬことがわかっていて、わたしがこんなに悲しい思いをするのも、彼のシナリオどおりなのですか?

彼女は振り絞るようにそう言って、椅子に座り込んで泣き崩れました。

会場はシーンと静まりかえりました。
わたしはその講演家の方を振り返りました。
自然と彼に視線があつまりました。
彼女も含めて、その講演家の方が次何を言うのか、注目しているのがわかります。

知らなかったとはいえ、
誕生日は自分で決めて生まれてくる。生まれてくる前にこの世でのシナリオを自分で決めて生まれてくる。
その言葉が真実だったとしても、その言葉は、今この場では適切ではない、ということを居合わせたみんな感じていたと思います。

言ってしまったその言葉は変えることはできません。
その講演家は、しばらく沈黙したあと、こう言いました。

そんな状態で今日、よくここまで出てきてくださいました、そして最後までつたない話にお付き合いくださり、またとても言いにくいことをみなさんの前でお話してくださったことを心より感謝します、ありがとうございます。

…と丁寧にお礼を言った後、その質問には答えることは出来ない、と未熟で恥ずかしいと言いました。
そして今は考える時ではない、と理屈や法則など、言葉でい言い表されることではないと思う、と言った上で、別の形で思いを伝える方法を試してもいいですか?と提言しました。

小さく頷いた彼女を合図に、彼は、彼女のが座っている椅子の後ろに回り込み、背後に立ちました。
彼女の同意を元に、彼女の肩に手を乗せ、後は目を閉じてそのままにしていました。
しばらくすると、うなだれていた彼女の顔がフッと持ち上がりました。

「あたたかい」

そう言うと、彼女の目から大粒の涙がボロボロと溢れてでていました。
その姿を見て、わたしももらい泣きをしてしまいました。
何かこみ上げるものがあったのです。

どのくらいの時間が経ったのかわかりませんが、しばらくすると、彼女は自然に泣き止んで、はっきりと「ありがとうございました」と言いました。
それから講演家の方も元いた席に戻りました。

彼が亡くなってからは、毎日自分も死ぬことしか考えていなかったという彼女は、先生が肩に置いてくれた手はあたたかく、何かエネルギーのようなものが流れ込んできて、身体を満たしてくれたような気がした、と言いました。

彼が出てきて、ごめんな、先に逝ってごめんな、俺の分まで輝いて生きて欲しい。
そんなように言ってる気がしました。
それが彼からの答えなのかな、と。
今日ここにこられて良かった、ありがとうございました。
そう言って、彼女は少し笑いました。
その笑顔を見て、わたしもさらに、涙がとまりませんでした。

当時、わたしはエネルギーというものがなんなのか、と知りませんでした。エネルギーというものがある、ということすら知りませんでした。
だけどあの時、黙って手を当てているだけなのに、その講演家の人と彼女、だけでなく、会場中の人たちが繋がっている、そんな感覚がありました。

ただ手を当てただけなのに、目には見えないエネルギーが流れて、彼女を癒やし、会場にいる人全員が癒やされた気持ちになりました。

手当て
たったそれだけのことなのに、人の命を救うほどの大きな力があるのかもしれません。

それから20年以上の時を経て、わたしは宇宙エネルギーを扱うそんな手法を教えてもらいました。
あの時の出来事は、エネルギーを扱っていたんだな、とわかったんです。

手当て
それだけで、自分も他人もいろんな人を変える何かのチカラがあるんだな、と知りました。

わたしには見えないけれど、見えない力は必ずあるんだ、と思っています。
ふと思い出したので、書き出してみました。

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