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オフィスひめの通信 62号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2020年7月

―新型コロナウイルスへの向き合い方―


 皆さまお変わりありませんか。連日感染者数が報道される中、不安を覚えている方も多いと思います。完全に封じ込めることが難しい新型コロナウイルスです。未知のウイルスに対する怖さや不安はありますが、栄養医学はこれまで感染症と立ち向かってきたのと同じ態度で新型コロナウイルスにも立ち向かっていこうと考えています。今回はウイルスに出会っても感染しにくくするためのヒントをお伝えしていこうと思います。
 新型コロナウイルスの感染経路は粘膜です。粘膜につくウイルス量を減らすことが予防の目的になります。無症状者や発症前でも感染力を持つことがこのウイルスの厄介な点です。こまめな手洗いは眼・鼻・口の粘膜につくウイルス量を格段に減らします。空気中のウイルス量を減らすための換気や飛沫を出さないためのマスクも効果があります。家や職場での感染も増えています。特に会話時、食べる時、眼・鼻・口を触る前にウイルスリスクをチェックする習慣をつけましょう。

 さて、今回の本題はウイルスに遭遇した時に感染を防ぐ栄養学的な工夫です。ウイルスの感染を防ぐには大きく分けて三段階の防御システムがあります。一つは粘膜防御、次は好中球やマクロファージによる攻撃、3段目は抗体によるウイルス特異的な免疫です。それぞれに栄養の充足が大きく関わっています。
 ウイルスの侵入口である粘膜には粘液とIgA抗体による防御機構が備わっています。十分な厚みの粘液層があるとウイルスはそれを突き破って侵入することが出来ません。グルタミンやビタミンA、亜鉛、動物性たんぱく質に多く含まれる含硫アミノ酸などが重要です。
ウイルスの侵入直後から働くのが好中球やマクロファージです。ウイルスの種類を問わず働くことが出来ます。ビタミンCは鉄などと反応して殺菌を助けるほか、好中球の移動能力を向上させます。抗体の産生時にはリンパ球の一種であるB細胞が速やかに分裂成熟し抗体を産生することが必要です。遺伝子増幅や蛋白合成のため亜鉛やたんぱく質などの需要が高まります。
 免疫は体を守るだけではありません。新型コロナウイルス感染症の病状の急激な悪化にはサイトカインストームと呼ばれる免疫暴走が絡んでいます。免疫の制御や抗酸化・抗炎症に携わる栄養素も欠乏しないように気をつけましょう。
 規則正しい生活をして睡眠をしっかりとること、ジャンクフードを避けてたんぱく質や野菜を摂ること、日光を浴びたり適度な運動で筋肉をつけたりストレスを回避したりして健康的な状態を維持することなどは免疫が健全に働くための基本です。日常生活を快適に過ごしながら出来ることを地道に実行していきましょう。

―PCR検査について―

 新型コロナウイルスを診断するSARS-Cov-2 PCR検査。どこまでを対象に何件くらい行えばいいのか意見が一致していないように見えます。新型コロナウイルスは発症前や無症状でも感染させるのが厄介な特徴で、感染拡大を防ぐためには流行地域においてある程度広範囲に網をかけて検査をすることは必要だと思います。特に病院や介護施設などでは発熱者や疑わしい方が出たら出来るだけ速やかに全員検査が出来る検査体制を整えるべきです。この場合の検査の目的は隔離し感染を広げないことにあります。今後はビジネス上の必要性から不完全ながら陰性証明のために検査をする場合も出てくるでしょう。

 では自分に症状が出た場合にいつ受診したらよいでしょうか。クラスター早期発見の観点から出来るだけ早くと主張する方もいるでしょう。しかし純粋に治癒という観点からすれば発症後しばらくは家で暖かくして寝ている方が無理に病院に出かけるよりも治りやすいですし、病院で感染させるリスクや別の感染をもらうリスクも低くなります。早期に治療を受けようと焦る必要はありません。なぜなら早くから薬を飲んだ方が良いかは確定しておらず、肺炎または臓器障害で重症化する時期は発症後7日から10日のことが多いからです。悪化の共通点としてしつこい症状またはぶり返しがあります。4日以上持続したら電話で相談しましょう。また持病のある方や強い症状の方は我慢する必要はありません。普段からかかりつけ医を持っているといざという時に安心です。

―栄養素と感染症―

 新型コロナウイルスの治療においてはウイルスの増殖を抑えることと免疫暴走による組織障害を抑えることが重要です。アメリカの8つの州の大学病院ならびに関連病院の救急医療、急性呼吸器疾患、感染症の専門家が組織した「新型コロナウイルス(COVID-19)最前線におけるクリティカルケア・ワーキンググループ」ではステロイドと高濃度ビタミンC、抗凝固剤とその他の治療を組み合わせたMATH+という治療プロトコルを発表しています。国際オーソモレキュラー医学会ではビタミンCやビタミンD、マグネシウム、亜鉛、セレンなどの摂取推奨量を発表しています。
 栄養素が感染症にどのような役割を果たしているか見ていきましょう。第一関門は眼・鼻・口などの侵入経路における粘膜防御です。粘膜は粘液で覆われ抗菌タンパクやIgA抗体などが見張っています。IgA抗体の産生にはグルタミンとビタミンAが必須です。ビタミンDは抗菌タンパクの発現や細胞接着をサポートしています。亜鉛も免疫において重要なミネラルです。例えばビタミンAを代謝して活性化したりリンパ球が分裂して抗体産生細胞に分化したりするのを助けます。亜鉛やセレンは抗酸化剤としての役割もあります。
 最近大きく取り上げられているのがビタミンDです。ビタミンDがインフルエンザの感染を予防したというデータは複数発表されていました。カテリジシンやディフェンシンなどの抗菌タンパクや細胞接着蛋白の発現に関わる一方、炎症性サイトカインを抑制し抗炎症性サイトカインや制御性T細胞を誘導したりして過剰な免疫を制御する役割を持っています。25(OH)ビタミンD濃度が高いほどCOVID-19の感染率・死亡率が低い傾向があるという論文発表も出てきました。さらなる研究結果が待たれるところです。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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