オフィスひめの通信 45号
執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2014年12月
ー脂に溶けるのは悪いこと? 脂溶性ビタミンの働きー
脂溶性ビタミンほど、多彩で有効な働きを持ちながら不遇だったビタミンはないと思います。例えば ビタミンA!-教科書を見るとビタミンA過剰症の害について必ず書かれています。その症状とは昔探検隊が『北極ぐまの肝臓を食べた』結果起きた症状が根拠になっています。以後、多量(と考えられている)ビタミンAを摂取する人は長らくいませんでした。1996年以降にオスローの研究グループが北極ぐまの肝臓から「内分泌撹乱物質」を発見し、ビタミンAの副作用と考えられていた症状が別の物質によるものではないかと考えられるようになっています。
脂溶性ビタミンには、他にビタミンD,E,Kなどが含まれます。これらのビタミンは細胞膜を簡単に通り抜けることが出来、遺伝子に直接働きかけ ます。これまで知られていた網膜への作用(ビタミンA)、骨への作用(ビタミンD)、凝固因子を助ける働き(ビタミンK)以外に、遺伝子の発現調節による免疫調節やホルモン調節、癌抑制など新しい働きが次々と見つかっています。
遺伝子に直接働きかける物質の安全性を確保するためには「活性型」と「非活性型」という考え方が大変重要です。常に信号が『オン』になっていたら危ないのです。ある時には『オン』ある時にはきちんと 『オフ』になることが大切で、自然界のビタミンでは「活性型」と「非活性型」の変換調節がかなり厳密に行われています。
薬は「常に活性型のものを作って入れる」ことが多く、そこでは様々な問題が生じます。何が安全で何か危険なのかを見極めたうえで、脂溶性ビタミンの効果を最大限に享受する工夫が求められています。
クルードな(精製・加工していない)プレカーサー(活性化前の形)を
摂り、あとは体に任せる
分子整合栄養医学の基本的考え方
ー初歩から学ぶ体の仕組み:脂溶性ビタミンの貯蔵・運搬・利用ー
ビタミンAを例にとって、脂溶性ビタミンの安全性がどのように確保されているのかを、貯蔵・運搬・利用の観点から考えてみようと思います。自然界に存在する天然ビタミンA(レチノールやレチニルエステル、βカロチンなど)であることが前提です。
吸収の時には、油脂と一緒に吸収されます。脂抜きの食事を続けると脂溶性ビタミンの吸収も減ってしまいます。また胆嚢の手術などで胆汁が出にくい方には注意が必要です。
脂溶性ビタミンは専用のたんぱく質に包まれて貯蔵庫に移動します。ビタミンAの貯蔵庫は肝臓にある星細胞(stellate cell)です。星細胞は貯蔵するだけでなく肝臓の再生を促進する役割を持っていて、ビタミンAが枯渇すると細胞の性質が変わり線維化を促進してしまいます。
脂溶性ビタミンは必要に応じて貯蔵庫から目的の場所に運搬されます。その際にも専用の運搬たんぱく質が運びます(鉄の時と同じですね)。
目的の場所でもさらに安全弁が働きます。細胞内で必要なだけ活性型(遺伝子に作用するレチノイン酸)に変換され、核の中に入るとまたたんぱく質(レセプター)に結合してから遺伝子に働きかけます。不要になると速やかに非活性型に変換されます。生体はこれだけたくさんの調節・安全弁を駆使しているのですね。
ー薬と天然型サプリメントはここが違う 抗酸化部位に注目:ビタミンEー
ビタミンEは、妊娠を助けるビタミンとして発見されました。その後で抗酸化作用が見つかり現在では抗酸化作用を期待してビタミンEを飲んでいる方が多数だと思います。
抗酸化の働きをする場所は、ビタミンEの端っこにあるOHという場所です(図の○で囲んだ部分)。このHが移動することによって酸化物質の攻撃性を減らします。
ところが、ビタミンE製剤では、このOHが不安定であるという理由から他の形に変えてしまっています。ですから天然型ビタミンEに比べ、ビタミンE製剤の抗酸化作用はかなり弱くなっています。
ビタミンEにはα、β、γ、δトコフェロールとトコトリエノールという全8種類あります。この中でγトコフェロールが最も抗酸化力が強く、一種類より多種類存在した方がより効果を発揮できるようです。現在売られているビタミンEやビタミンE製剤はαトコフェロールの量だけを考えて作られており本来の抗酸化作用が十分に発揮できない可能性もあります。脂溶性ビタミンは奥が深いビタミンです。機会があればビタミンDやビタミンKの幅広い役割について解説してみたいと思います。
※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。
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