涙月花の裏話〜演出について〜
劇団Яeality第8回公演
「七月の涙夕月夜の花束」
全公演が終了しました。
こんな大変な御時世にご来場、ならびに応援してくださった方々、本当にありがとうございます。
音楽、衣装ときて最後は演出です。
振り付けとかは省略しました笑笑。
どうぞお付き合い願います。
あなたがいるから強くなれる
人間、誰しも弱い生き物です。
誰もが心の中に鬼が住んでいて
自分を守るために動いてしまう。
この物語の多くの登場人物は、誰かの幸せを願って生きています。
それはもしかしたら偽善的なものなのかもしれない。
しかし、彼らは自分の愛しき人の幸せを願わずにはいられない人間なのです。
一樹と真季は兄妹で、どちらも「真っ直ぐで馬鹿で強い」と描かれます。
彼らが真っ直ぐで馬鹿で強くいられる理由はなんなのか。私は最初疑問でした。
己の信念に向かって突き進める強さがある。
それは誰もがわかることだと思いますが
私は「大切な人」の存在なのではないか?と思いました。
一樹も真季も、1人だと物凄く弱いです。
自分のせいだと思ってしまったり、1人では何もできなかったり。
けれど、一樹にとっては彩子が、真季にとっては由奈がいるからこそ
早川兄妹は真っ直ぐで馬鹿で強くいられるのではないか。
聖人君主のように、誰かを導き先導し
望む未来に突っ走れる2人は
隣に自分を肯定して愛してくれる人がいたからできるのではないでしょうか。
それは香織にとっての彩子と一樹であり、芦屋にとっての京でもあります。
京は、きっと大切な人が隣にいてくれるから強くなれることを無意識に思っていたのではないでしょうか。
だからこそ、自分を愛してくれる人が欲しかった。
さりは、誰もいなかったのかも知れません。
さりを愛する人物が物語の中に登場しません。
だからこそ己の正義に突っ走り、「鬼退治」を初める。
でも彼女を支える人はいないから、さりは強くはなれなかった。
これは私の個人的な解釈だったので、演出に反映されているかと聞かれると微妙です。
それでいいと思ったし、役者たちは素敵な人間を演じてくれました。それが正解のひとつだとも思っています。
けれど、やっぱり終演した今、
大切な人、愛しい人に肯定されるというのは
確実に生きる力になると思いました。
演出をつけたわけではないけれども
きっと役者もそう思ってくれていたんじゃないかなと思います。
あなたがいるから強くなれる。
強いからこそ幸せに向かって走れる。
物語は救いがないけれども、強くあれる自分というものに誇りを持ってもらいたいです。
大切な人との思い出を胸にかかえて
私は、物語として伝えたいことはないと言いがちな人間です。
物語は事実だから。事実以上の何物でもない。
役者から方向性を決めてくれとか
もっと演出をつけてくれとか
沢山言われました。
役が役として板の上で生きていれば、絶対伝わる。
そう信じて疑わなかった私だったのですが
多分、あの時役者が聞きたかった言葉はこれなのかなと思います。
大切な人を思い出して欲しい
ご来場頂いた方はご存知だと思いますが
全ての組の物語が絶望で終わります。
そんな救いのない公演をやって何の意味があるのか。
登場人物が成長して感動するからこそ演劇なのではないか。
それも確かにわかります。
演劇は作り物です。
作り物の世界で現実を見せられると辛くなるのもわかります。
そんな演劇いらない、というのもとても理解できる。
けれど、私はこう思うのです。
「メッセージという大きなものは確かにないかも知れない。けれど、その舞台での生き様を観るからこそ自分を省みることができるのではないか。」
演劇ってなんだろうって思った時に、最後は自分との対話だと思うのです。
舞台を観て感動した、面白かった、笑えた。
私はそんな舞台も好きです。
心が軽やかになって、終わった後も舞台を思い出して笑えるような舞台。
けれど、香西姫乃として目指すのは違うなと思ったのです。
物語を観て、自分と登場人物を重ね合わせて
その生き様や信念、想いを知り
「自分はこれからどう生きようか」
を考えて欲しいのです。
今回に関して言えば
「この作品を観て、大切な人といつ離れてしまうかわからないけれど、今この時大切な人を胸に生きよう」
と思ってもらえる事。
これを言っては怒られてしまうかも知れませんが
舞台の内容なんて覚えてなくていいんです。
公演と同じ、消えてしまっていい。
けれど、その時感じた想いだけは
ずっと胸に残ってて欲しい。
現実を生きてきて
劇場に入り
ファンタジーで非日常な世界で
信念や生き様を観て
自分の中の想いを知って
ちょっとだけ見える世界が変わる日常へ戻っていく。
これがЯealityのやりたいことなんだなって。
大切な人がいるから、自分は自分でいられる。
だからこと大切な人との思い出を胸に秘めて
何が起こるかわからない不安定な未来へ歩んでいって欲しい。
そう願った公演でした。
次回は本当にやりたいことを
今回、興行的にやりたいことを中心に公演を進めました。
トリプルキャスト、マルチエンディング、ロングラン。
それだけの体力が劇団にあったことがわかったのと
様々な問題点を知れたことが収穫です。
でも、学生劇団で無くなった今
私は何を目指すべきなのか。
横月まひろを愛していて
横月まひろを知ってほしくて
横月まひろのために作っていた作品。
いい加減、卒業しなきゃ。
私が横月まひろを愛していて1番のファンであることは変わりません。というか譲らない。
けれど、私の目指す「公演を見た後に自分を省みて前に進むようになって欲しい」と願う気持ちを事実。
では、次は前に進みたい人のための公演をしよう。
誰かの信念を見て、誰かの想いを受けて
観た人が現実に戻った時にちょっとだけ世界が素敵に美しく見えるような公演。
私はそのために、これから沢山観て学んで
誰かの人生で一歩前に進めるような
そんな作品を作っていこうと思います。