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⑤過去に戻る方法。
俺はもう一度ベンチに座って、カバンに入ってた水を飲む。
「…………ふう」
「俺がなりたいのはテレビとかに出るようなサッカー選手」
「そんな社会人サッカークラブなんて、趣味じゃないのかな?」
泣きたい気持ちを抑えて俺は言った。
ひめめ「そうやって過去を繰り返すの?」
「なに言って……」
ひめめ「それはつまり、サッカー選手になりたくないってこと?」
「だからなりたいんだって!普通の、みんなが思い描いている、サッカー選手に……」
ひめめ「イケメンがいても、キャーキャー言われるような選手にならなくても、サッカー選手としてサッカーをすることをやり直したかったんでしょ?」
「!」
ひめめ「サッカー選手ってテレビに出るためにサッカーしてるの?」
ひめめ「お兄ちゃんは、サッカー選手として、サッカーしたいって言ってたよね」
ひめめ「あ、もしかしてサッカー選手って給料いいから?お金のため?」
「それは……違うけど」
ひめめ「テレビに出てるサッカー選手もテレビに出たくてサッカーしてるわけじゃないと思うんだ、サッカー選手として活動して、その延長線上にあるんじゃないかな」
ひめめ「これじゃ……結局過去を繰り返すことをするだけだよ」
「……」
ひめめ「例えタイムマシンに乗って、子供の頃からやり直して、サッカー選手になったとしても、その考え方だと、また別のことで、同じこと繰り返すと思うの」
ひめめ「きっと、イケメンの選手が現れたらまた同じこと思うだろうし、もっとテレビに出てる選手が側にいたら、自分があんな風にテレビに出れないのは、やり方がよくなかったんだ、過去に戻りたいって思うんじゃないかな?」
ひめめ「違うチームが良かったとか、なんだったらサッカー選手じゃなくて、芸能人になりたかった、とか、だからやり直したいって、全てにおいてその考え方のままじゃ、現状を変えられないよ」
ひめめ「お兄ちゃんがやりたいことは、なに?」
ひめめ「情報が多い世の中だから仕方ないけど、思い出して。お兄ちゃんがさっき自分で言ったんだよ?どうしたいのか」
ひめめ「お兄ちゃんは、お兄ちゃんの考えている、サッカー選手に、今やり直せるんだよ」
「桜川……ひめこ……」
俺ははじめて彼女の名前を口にした。
そして涙がとめどなく溢れてきた。