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最終章:飼い主の責任

前回まで、犬の繁殖(業界)が抱えるたくさんの問題点の1つを、10回にわたってご紹介しました。長~い話にお付き合いくださった方(もしいらっしゃったら)、本当にありがとうございました。

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4年前、平蔵の首に「時限爆弾」が見つかりました。それが生まれつきであること、きょうだい犬たちに同じ/似た疾患が多いことから疑問を感じ、遺伝についての勉強を始めました。論文や医学書を読んだり、時には学者の先生にお話を聞いたり…。

プレゼンテーション1

基礎的な知識を得た上で、改めて何人かのブリーダーさん( <= こだわりをもって取り組んでおられる方々です)にお会いしました。大手生体販売業者の役員さんにも直接お話をうかがいました。「ブリーダー」と称する、業者や個人のウェブサイトを調べたりもしてきました。

繁殖屋に自浄作用無し

私なりに得られた結論は、

犬の繁殖「業界」が
自ら大きく変わることは
ないだろう

ということでした。自浄作用は期待できません。

だからこそ、私たち飼い主が犬たちの命と真摯に向き合っている「ブリーダー」さんを見極めることが重要だと思います。命よりもお金を優先する業者にとっては、

売れなくなることが一番の痛手

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でしょう。遠回りではありますが、私たちが変わること、それが一番の近道だと感じています。

ということで、長~いシリーズの最後に、私なりの見極めポイントを簡単にまとめました。反対意見もあるかも知れませんが、考え方の1つとして、チョットでもご参考になる部分があれば幸いです。

イメージより「想い」を

犬をお迎えする場合に限りませんが、今はインターネットが入り口になるケースが多いですよね。"ブリーダー"、"トイプードル"などと検索すると、本当にたくさんヒットします。でも、

ウェブページのデザインがきれいだとか、
パピーの写真が可愛いとかは
重要でないと思っています

ウェブサイトを作るのはたやすいことです。専門業者に依頼して、ある程度の費用をかければ素敵でお洒落なものができます。最初にプログラムを組んでもらえば、写真や文章などを追加することは素人でも簡単です。

それから、子犬はそもそも可愛いです。スマホで誰でもキュートに撮れます。トリマーさんにお願いして、お顔周りを整えてもらえば無敵です ^_^。さらに、おメメを大きくしたり「キラッ」とさせたりすることも、今はスマホ1つでできます。

私が探す情報は、そのお里がどんな考えで子犬たち、つまり「命」を生み出しているかといった情報です。そこで生まれるパピーたちがどんな子なのか、どんな飼い主に迎えて欲しいのか。そうした「想い」が明確に、かつ、犬たちの幸せを思う目線から表現されているかどうかが重要だと思います。

そういった情報をウェブサイトに掲載しているトコロは、信頼できるような気がします。一部、「自分語り」のクセが強い方もいらっしゃいますが…。

数は適正か

個人的にも親しくしていただいている方々がいますが、「ブリーダー」さんは親犬たちも含めて1頭1頭に愛情をかけています。

家族です

だから、十分に世話ができる数しか手元にいません。欲しい時に子犬が手に入ることも稀です。

ウェブサイトには、過去に生まれたパピーたちの写真も載っているでしょう。1年間に「販売」した頭数を見れば、繁殖犬の数は想像できます。電話やメールで問い合わせる際、どういった体制(人数)でお世話しているかを確認すれば、その事業者の姿勢の一端がうかがえるでしょう。

ちなみに、この件は動物愛護法(正式名称「動物の愛護及び管理に関する法律」)に関連して、環境省と専門家との間でも議論されました。従業員1人が世話をできる繁殖犬は、15頭が限界と判断されました。3年後の2024年からは、これを守ることが法的義務になります。

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繁殖屋とブリーダー

平蔵には同じ時に同じお母さんから生まれた、つまり100%きょうだいの女の子がいます。SNSで交流があるので、「お姉ちゃん」なのか「妹」なのかをずっと知りたいと思っていました。平蔵をお迎えした後、1度だけお里と電話でお話しする機会があったので聞いてみました。帰ってきた答えは…

たくさん生まれるので、
順番は分からない
帝王切開の場合も多いので、
どっちが先か知らない

・・・

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親しい「ブリーダー」さんに聞いてみました。詳しい話は割愛しますが、私が受けた印象は、

「繁殖屋」と「ブリーダー」さんは、
まったく違う

愛情と比例する知識の精度

「足腰の健全な発育のため、ミルクやフードに気を遣っている」などと謳う業者もいます。「皮膚や毛並みの状態を向上させるコラーゲン」の入ったフードを与えているらしいです。本当なら素晴らしいことです。

でも、

「何となく」で
納得すべきではない

と思います。フードのどんな成分がどういった機序で「足腰を健全に発育させる」のか?「毛並み向上のコラーゲン」とは何なのか、私なら具体的に問い合わせます。

少なくとも、平蔵や「きょうだい」たちに出ている多因子疾患による関節トラブルは、食生活で防ぐことはできません。また、私が調べた限りでは医学(獣医療ではなく人間の医療です)論文でコラーゲンの経口摂取が皮膚の健康に寄与するとするエビデンスを提示しているものはありません。

少なくとも現在のトコロ、こうした宣伝文句には根拠がないはずです。

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本当に犬たちに愛情をかけているブリーダーさんであれば、その辺も含めて勉強しているはずです。正確な知識を踏まえた上で、「エビデンスはなくても、良いと言われることはすべて試す」と言う姿勢も「あり」だと思います。こうした点についても問い合わせることで、そのやり取りを通して信頼できる方かどうかは判断できると思います。

人間用のサプリとしてもよく聞く「コンドロイチン」や「グルコサミン」も同様で、医学的には経口摂取による健康状態改善の効果はないとされています。本当に関節に良いのであれば、平蔵には与えたいんです。一生懸命リサーチしていますが、今のところ、残念ながら効果はなさそうです。

イギリスの「子犬契約書」

またまた長くなってしまいそうなので、最後にイギリスの「パピー・コントラクト」、直訳すると「子犬契約書」をご紹介します。

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動物の福祉では先進国のイメージが強いイギリスですが、課題も少なくありません。初回にご紹介したように、犬の無秩序な繁殖は日本と同様大きな問題の1つです。そこで、動物愛護団体や獣医師会、超党派の国会議員連盟、環境省などが検討チームを立ち上げて解決に取り組んでいます。

「繁殖と子犬の購入は、責任ある行為であるべき」という意識を高めるためのツールとして、このチームが製作したのが子犬契約書です。一般の飼い主が子犬を購入する場合に知っておくべき・確認すべきことが詳しく書かれています。

心身ともに
健康な子犬を迎えるための
教科書です

ブリーダーにとっても、良心的で責任ある世話をするための指針となっています。基本方針は以下の様に書かれています:

・すべての犬は、最大限に健康で幸せな生活を送るチャンスをもって生まれてくるべきである
・犬の繁殖を行うすべての者は、親犬と子犬両方の幸福を守るため、外見よりも健康、幸福および気性を優先させるべきである
・犬たちから恩恵を受けるすべての者は、犬の幸福を守るため共に努力する共同責任を負う
・購入者およびブリーダーは、動物の幸福を守る義務を負う

ブリーダーに確認すること

子犬契約書には、ブリーダーに確認すべき内容がその理由とともに詳しく書かれています。遺伝性疾患の検査は、子犬だけでなく2頭の親犬についても確認することが推奨されています。そのほかにも、以下のような点についてまとめられており、全部で17ページもあります:

親犬について
1.出産回数
2.初産の年齢
3.手術歴(遺伝性疾患の有無)
4.帝王切開の回数
子犬について
1. 病歴
2. トイレのトレーニング状況
3. 生活環境(生活音の有無や人間・動物の行き来が多いかどうか)
4. 人間との接触経験
5. 他の動物との接触経験

以下の記事に、もう少し詳しく日本語でまとめてあります。もし興味があれば、見てみてください:
https://reanimal.jp/article/2020/06/18/451.html
https://reanimal.jp/article/2020/06/30/506.html

私たちの責任

と言うことで、2つのコメントで長~いシリーズをまとめたいと思います。まずは、第9章でご紹介したノルウェー動物保護協会の問いかけ:

「イヌは、人間の "ベストフレンド" だと言います。でも、私たちは…?(イヌにとっての"ベストフレンド"ですか?)」(NSPA)

そして前回ご紹介したイギリスBBCテレビからの提案:

私たち消費者にも責任があります。犬たちが苦しんでいる、そんな受け入れがたい状況にNOと言いましょう(BBC "Pedigree Dog Exposed - Three Years On" )

終わりに:すべては私たち次第

日々、色々な贈り物をもたらしてくれる犬たち。大切な家族の一員である「この子たち」の健康と幸せはすべて私たち次第です。

犬たちが苦しんでいる遺伝性疾患の多くは、人間が創り出したモノです。でも、進歩した科学によって今では無くしていくことが可能です。「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」(埼玉県獣医師会)と言う状況は、秩序ある繁殖で解消できます。

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そのために私たち飼い主がすべきなのは、知識を高めていくことだと思っています。「命と真摯に向き合うプロ」を、根拠をもって見極めることができるように。

誤解も多いようなので…