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第2章:人間がフレブルにもたらした苦しみ
前回、イギリスで起きているフレンチ・ブルドッグ(フレブル)人気の過熱をご紹介しました。「短頭種」(= 鼻ぺちゃ犬)の場合、特に健康面の問題が発生しやすいそうです。これは、「品種改良」によって人間がもたらした、遺伝性疾患といえるものです。
人間が「創り出した」愛らしさ
人間の都合に合わせた「品種改良」や「犬種標準」のため、犬は選択的な繁殖が行われてきました。フレブル特有の姿かたちは人間が望んだもの…。平蔵を含め日本でよく見る小さなレッドのトイプードルも、イギリスのフレブル同様に「需要」に基づく「改良(?)」を背景に生まれていますよね。
(↓「肩関節不安定」治療用の装具をつける平蔵↓)
人間が「創り出した」フレブルの愛らしい姿やキャラクターには、世界中の愛犬家が惹かれています。イギリスだけでなく、アメリカや日本でも大人気です。そうした流行りや人気そのものに、問題はないと思います。また、「トイプードル」とか「フレンチ・ブルドッグ」と言った犬種そのものを、否定する必要もありません。
好きな犬種を選び、
大切にすればいいわけです
私もそうしています
愛らしさと同時にもたらされた苦痛
でも、極端なブリーディングの問題点を指摘する専門家も増えています。平蔵の関節が弱いのは、小型化が行き過ぎて華奢な体になったことが原因の1つでしょう。フレブルやパグ、ペキニーズなど短頭種の場合、(少なくともイギリスでは)極端に「鼻ぺちゃ」な顔立ちが好まれる傾向があるようです。
過剰な顔かたちの特徴を追求したブリーディングによって、健康上の深刻な問題を抱えるコが増えています。ケンブリッジ大学獣医学部は「Cambridge BOAS Research Group」という組織を立ち上げました。短頭種特有の疾患に関する獣医学的な研究と、飼い主に向けた啓発活動を熱心に行っています。
呼吸が困難になる「短頭種気道症候群」
で、鼻ぺちゃ過ぎると
何が問題なのでしょうか?
これらの犬種は短いマズルがチャームポイントです。でも、慢性的な呼吸困難によって生活の質が低下するだけでなく、突然死にもつながる「短頭種気道症候群(BOAS)」と呼ばれる呼吸器系の病気が多いそうです。YouTubeで、「立ったままウトウトするフレブル」の動画が可愛いと、一部で話題になったことがありました。実はこのコ、
横になると気道がふさがって
息ができなくなる
ために、ちゃんと寝られていないのだそうです…。
粘膜組織を収納できない頭蓋骨
少なくとも最近のヨーロッパでは、鼻ぺちゃを極端にするようなブリーディングが行われる傾向があるそうです。(↓イメージですが、下が最近のフレブル、上がオリジナルのフレブル)
平たくなり過ぎた頭蓋骨は、口や鼻、喉などを構成する軟らかい組織を正常に収納できません。粘膜組織が狭いスペースに押し込められ、気道が狭くなったり、部分的に塞がったりしてしまう傾向にあります。
鼻の穴も、丸く開いておらず閉じたスリットのような形が多いそうです。
その結果、スムーズな呼吸ができず酸素を十分に取り込めません。「短頭種にみられる荒い鼻息や喘ぎ声のような音は、犬として通常の状態ではありません。呼吸が妨げられていることを示すサインです」として、ケンブリッジ大学は愛犬の健康状態に注意するよう短頭種の飼い主に呼び掛けています。
眼球のスペースも足りない、平らな顔
もう1つ問題があります。「BOS (= 直訳:短頭種眼球症候群)」と呼ばれる目の病気です。頭蓋骨が平ら過ぎて眼球の収まる穴が浅いため、目に様々な悪影響が出るものです。首の後ろの皮膚を掴んだ拍子に眼球が飛び出てしまうトラブルや、まぶたが完全に閉じない「兎眼症」(とがんしょう)などがあるそうです。
そのほか、熱中症や睡眠障害、心臓病、皮膚や耳、歯のトラブルなども短頭種の身体的特徴が原因で頻発することが知られています。
ブリーディングが生み出した遺伝性疾患
子犬の頭が大きすぎるため、フレブルの多くが帝王切開でないと出産できないことは比較的知られていると思います。フレブルよりもさらに大型のイングリッシュ・ブルドッグも同様です。
(↓「Pedigree Dogs Exposed」(BBC)より)
BOASやBOSなども含め、これらはすべて意図的なブリーディングによって創られた特徴的な容貌によってもたらされたもので、短頭犬種の遺伝性疾患です。実は、フレブル以外にも、犬にはブリーディングによる遺伝性疾患が多く発生しています。
次回はそうした事例をご紹介します。
普通に歩くことができない程
体が変形してしまった犬が、
ドッグショーで世界一に選ばれたというエピソードは、衝撃的です…。
第2章のキーメッセージ:繁殖は、犬たちの健康を第一に考えて行うべきではないでしょうか。フレブルやトイプーをはじめ、犬種そのものを否定するわけではありません。特に短頭種の飼い主さんには、もし不快な思いをさせてしまったらお詫びします。