犬に不妊去勢手術を行うリスク① - ひめりんごが手術を受けました
先日、ひめりんごが手術を受けました。定期健康診断で受けたエコー検査で、水が溜まったような子宮の拡大(腫れ?)が見つかったんです。まったく症状はなかったのですが、進行して色々な問題が生じる前に子宮と卵巣の摘出に踏み切りました。
不妊手術のデメリットと病気のリスク
このブログには繰り返し書いていますが、性腺の切除(いわゆる不妊去勢手術)には分からないことも含めてリスクもたくさんあります。100%の"正解"は世界一の獣医さんでも出せませんが、素人なりに最新の獣医学論文などエビデンスに基づいて色々と考えました。で、ウチでは「ある程度の年齢になったら受けさせよう」という判断をしました。
ひめりんごも、今年の9月で10歳になります。年齢と共に、子宮蓄膿症など病気のリスクが増える傾向があると言われています。性腺ホルモン(≒女性ホルモン)を失うことによるデメリットは低下してきたと思います。検査の結果はショックでしたが、おかげで(?)優柔不断な飼い主も決断ができました。
世界小動物獣医師会が不妊去勢のリスクを報告
このタイミングで、「世界小動物獣医師会」(WSAVA)が犬と猫の不妊去勢手術に関するガイドラインを初めて発表しました(英語ですが誰でも無料で読めます↓)。これも何度か紹介していますが、WSAVAはワクチン接種など様々な小動物獣医療に関して正確な情報提供を行っている世界的な専門家団体です。
このガイドラインも、最新の情報も含め、これまで発表された獣医学論文を専門家が包括的にまとめたものです。これまでに書いてきた内容と重複しますが、改めて、まとめておきたいと考えました。
人間が理解しているのは一部だけ
これ、全部で136ページあります!もちろんメリットに関しても解説されていますが、まずはリスクについて書かれていることを日本語にしました。少しずつ、ここに書いていこうと思います。
基本的には、たくさんの研究で得られた情報を客観的に紹介し、メリットもデメリットも「我々の知識や理解は未だに不充分」としています。慎重な検討なしに、不妊去勢手術を"ルーティーン"(≒決まりごとや慣例)として行うことに警鐘を鳴らしています。「それがなぜ起こるのか?」という仕組みについても、現在の獣医学で考えられていることが解説されています。
分かっていること
そんな中で個人的に興味深かったのは、不妊去勢手術が攻撃性といった問題行動の解消につながるという説を歯切れよく否定している点です。「否定するエビデンスが存在」し、古くて「誤った認識」としています。脳の発達に性ホルモンが果たす役割や、古い研究の不備から、その根拠が解説されています。
また、これも以前に紹介しましたが、関節への悪影響は既に広く知られています。平蔵が子犬時代に抱えていた肩の爆弾「関節不安定症」がどこかに行ってくれたのも、ブレース(装具)を着けた生活に加えて去勢手術を受けさせなかったことが大きな要因だと思います。命にかかわる"ガラスの首"も、いまだに壊れず元気に過ごしています。
ひめりんごの精神面への影響
ちなみに、術後の数日は元気がなかったひめりんごですが、3日目くらいから徐々に回復(この間、かかりつけの先生には、超ビビりの父ちゃんがご面倒をおかけしました…)。10日目に抜糸してエリザベスカラーが取れた後は、以前と変わらず父ちゃんをいじめる生活に戻りました(汗)腫れていた子宮にも、特に悪性の変化は見られず一安心。
ただ、その後も1週間くらいは、子犬時代でも見たことのない「後追い」と甘えにびっくり!短期的ではあっても、それだけ精神面に及ぼす影響も大きいのがよくわかりました。お腹を切り開いて、とっても大きな臓器をいくつも摘出するのがわんこの不妊手術です。私には簡単に決められることではありませんでしたが、みなさんはどうですか?
おとこの子の去勢手術はおんなの子の不妊手術に比べればシンプルなようです。でも、引き続き勉強を続けながら、平蔵についても慎重に要否とベストなタイミングを考えたいと思います。
と、世界小動物獣医師会は言っています。で、今回は、序文を翻訳したものを以下に書き留めました:
犬と猫の繁殖管理に関するWSAVAのガイドライン
不妊去勢手術による生殖ホルモンの喪失がもたらす健康被害
(HEALTH DETRIMENTS OF STERILISATION WITH LOSS OF REPRODUCTIVE HORMONES)
性腺の摘出(不妊去勢手術)により生殖ホルモンは不可逆的に消失し、性腺ステロイドのHPA(※1)に対するネガティブフィードバック(※2)も失われる。このことによって、黄体形成ホルモン(LH;下垂体から分泌される)と卵胞刺激ホルモン(FSH;下垂体から分泌される)の血中濃度が恒常的に上昇する。これが性腺を摘出したイヌにおける特定疾患の発症に及ぼす影響については、まだ分かっていないこともある。また、個体差もある可能性がある。しかし、不妊去勢手術による有害な影響は証明されている事柄もある。
性腺摘出の有害性に関する可能性は絶対的なものとみなすべきではなく、不妊去勢手術の要否はメリットも考慮したうえで慎重に検討・判断すべきである。この分野においては新しいエビデンスが絶えず報告されており、時間の経過とともにリスク/ベネフィット評価が変化する可能性がある。また、性腺摘出時の年齢が健康問題の発生率や寿命に及ぼす影響についても、さらなる研究が必要である。
獣医師会、動物病院協会、およびアメリカ動物遺伝学者協会による古い研究では、幼齢期の性腺摘出(生後6~16週)は望まない繁殖を防ぎ、保護施設からの引き取り率を上げるために必要であると主張している。主な論点は、生後16週以前の不妊去勢手術と生後7ヶ月までの手術を比較した場合、長期的に大差なく、仮にあったとしても妊娠のリスクをはるかに上回るというものであった。
一般的に、「保護犬や保護猫は不妊去勢手術の恩恵を受けるという前提」がある。保護犬の不妊処置や生殖に関連する行動(筆者追記:ヒート時などにおける"問題行動"を意味していると思われる)の防止は、性腺摘出手術を支持する理由である。しかしながら、不妊去勢手術による健康上のリスクが高い犬種に関しては、特に責任ある飼い主に引き取られた場合、(同:不妊去勢手術以外の)別の方法も選択肢として検討すべきである。