ワンコの手術、慎重に考えてあげませんか?
以前、避妊・去勢手術について、長~いブログを書きました ^_^; 手術を受けた方が良い理由は動物病院や本、ネットなど色んなトコロで聞いたり見たりしますよね。でも、難しい研究をしている学者さんたちからは、「手術をすると、かかりやすくなっちゃう病気がある様ですよ」といった話も正式に発表され続けています。
ひめりんごは、納得いかないと父ちゃんを流血させるまで噛むことがあります。まぁ、たま~に、ですが…^_^;;;
そんなひめりんごと実は気が合う私。獣医学に関しては素人ですが、むかしガンバったお勉強とこれまでのお仕事の経験を動員して納得いくまで調べたのが前回のブログでした。関節のトラブルやガン、それから内分泌(ホルモン)系の病気にかかるリスクが増えそうだという説があることがわかりました。
新しい獣医学論文
で、その中でご紹介したカリフォルニア大学のデービス校が、7月に新しい論文を発表しました。避妊・去勢手術(以下、手術)と関節疾患&ガン発症の関係を調べたそうです。犬種と女の子・男の子ごとに膨大なデータを統計的に分析したものを、「ガイドライン」(≒ 参考指針という感じです)にまとめています。
研究の概要
手術を行ったタイミングを4グループに分け、手術しなかった子たちと犬種・性別ごとに比較して病気にかかった割合を比較したそうです:
・生後6か月未満
・6か月から1歳未満(11か月まで)
・1歳(12か月)から2歳未満(23か月まで)
・2歳(24ヶ月)から8歳の誕生日まで
あ、厳密には避妊でなくて「不妊」手術が正しい言い方という人がいますが、日本語として間違いではないし、きちんと通じると思うのでこのままで。あと「避ける」目的だし。
関節の病気として調査したのは股関節の形成不全、前十字靭帯(ひざの靭帯)断裂、肘関節の形成不全とダックスフントの椎間板ヘルニアです。ガンについてはリンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫、骨肉腫についての調査が行われました。あと、女の子に関しては乳ガン、子宮蓄膿症と尿失禁の発症についても分析が行われました。(それぞれの病気はリンクご参照。)
科学的根拠に基づくアドバイス
前回ご紹介したものと同じように、この論文もデータを統計学的に分析したものです。だから、病気の原因となるしくみを解き明かしたわけではありません。(「病態生理学」分野の研究ではありません。)あと、もう1つ大きなリスクと言われる内分泌(ホルモン)系への影響については調査されていません。
カリフォルニア大学自身も、今回の「ガイドライン」は病気のリスクをできるだけ回避するための参考情報をエビデンス(科学的根拠)に基づいてまとめたものとしています。要は、「参考にしてくださいね」、というイメージです。
とはいえ、年間約5000頭分のデータを15年(!)集め、35犬種*の性別ごとに分析した結果です。これから愛犬の手術を検討するにあたっては、1つの参考にはなると思います。
ひめりんご一家も、決して手術に反対じゃありません。リスクの可能性も充分にも知った上で、「する/しない」やタイミングを慎重に検討するのが大事な家族のためには必要じゃないかな~と思います。
で、そうした相談に納得いくまで乗ってくれない獣医さん、上から目線で飼い主に接する動物病院とは、お付き合いすべきでないと思います。獣医さんの知識レベルも驚くほど様々なのが最近分かってきました。飼い主に必要なのは、「ヒト」を見る目かな・・・?
調査結果1:関節疾患とガン
で、結論ですが、関節疾患・ガンともに、手術の影響は犬種によってけっこう違うみたい。小型犬**の場合、手術と病気発生の割合との間に目立った関係は見られなかったそうです。例外として、ボストンテリアとシーズーには、ガンの発症リスクが増える傾向があったと報告されています。
大型犬は、一般に関節のトラブルを発症するリスクが増加するようです。ただこれも例外があって、グレートデーンとアイリッシュウルフハウンドには影響が見られなかったとしています。
調査結果2:乳がん
乳腺腫瘍の予防は早期に手術を行うメリットとしてよく聞きますよね。この論文はその考えを否定しないまでも、「根拠が弱い」としています。「あくまでこの調査で収集したデータを見る限りでは」という注釈が付いていますが、未避妊のメスが乳ガンにかかった割合はほとんどの犬種で6%を超えず、2%以下の犬種もわりと多く見られたそうです。
ただ、よく言われている事と調査結果が一致するトコロもありました。「乳腺腫瘍」(がん以外の「良性」も含むと思いますが)の予防を防ぐには、初回発情を迎える前の手術が必要と言われていますよね。この調査でも、生後6か月「未満」で手術を受けたワンコには、乳ガンの発生はまったく報告されていないそうです。なので、これは間違いがなさそうですね。
結果3:犬種による違い
ひめりんごはMIXの「チワプー」なので、チワワとトイプーの傾向が合わさるのかなと思います。ガイドラインを見てみると、どちらの犬種もその他の多くの小型犬と同じように、手術と関節のトラブルおよびガンの発生リスクに相関関係はなさそうです。少なくともこの論文では。
でも、中には手術を勧めない、とか、1歳や2歳を超えてからが望ましい、という犬種もあるので、次回以降でご紹介します。今回は、日本で数が一番多いプードルとチワワに関する報告をご紹介します。
なお、35犬種といってももちろん全ての犬をカバーしているわけではありません。あと、日本では見ない種類があったりもしますが、「ガイドライン」の表を個人的に訳したモノを以下に貼っておきます。ご参考になればと思います。
犬種ごとの傾向1:プードル(3種類)とチワワ
論文の要点を簡単にまとめると、それぞれこんな事↓が書かれています。(注:英文の表現は、以下の日本語よりも間接的な場合もあります。分かりやすくするため、「調査の詳細」部分に限ってはあえて直接的な表現にしてあるトコロもあります。ご参考にとどめて下さい。)
トイプー:関節疾患とガンの発生に、手術の有無およびそのタイミングによる目立った差は見られなかった
調査の詳細:
・238頭(♂:未去勢49・去勢済み53、♀:未避妊58・避妊済78)
・未去勢のオスの4%が1つ以上の関節疾患を、2%がガンを発症
・未避妊のメスはどちらも無し
・手術済みのオス・メスともに関節疾患とガンの増加は無し
・未避妊のメスで乳ガンの発生は1例。子宮蓄膿症は無し
・避妊済のメスで尿失禁は無し
ミニチュアプードル:関節疾患のリスク増を避けるため、去勢手術は1歳まで待つのが安心。メスの場合、手術による顕著なリスク増加はなかった
調査の詳細:
・199頭(♂:未去勢41・去勢済み60、♀:未避妊30・避妊済69)
・未手術のオス・メスともに関節疾患は無し
・生後6ヶ月~1歳未満で手術を受けたオスの9%が前十字靭帯断裂
・同様のメスには関節疾患無し
・未去勢のオスの5%にガン。手術との関係性は見られなかった
・乳ガンは2歳以降に手術を行ったメス1頭のみ
・子宮蓄膿症は未避妊のメスの6%
・尿失禁は6歳未満で手術を受けた1頭
スタンダードプードル:1歳で去勢手術を行った場合にガンの発症が多く見られた。2歳まで待つことが安心と考えられる。メスの場合、手術による顕著なリスク増加は見られなかった
調査の詳細:
・275頭(♂:未去勢47・去勢済み88、♀:未避妊53・避妊済87)
・手術を受けていないオス・メスとも、2%に関節疾患
・生後6ヶ月未満で手術を受けたオスの8%に関節疾患。統計分析上は大きな増加では無い
・一方、メスには関節疾患無し
・ガンは未去勢のオスの4%、未避妊のメスの2%。メスの場合、手術による発症率に変化無し
・一方、1歳で手術を受けたオスの27%がリンパ腫を発症
・未避妊のメスの4%が乳ガンを、2%が子宮蓄膿症を発症
・2歳以降で手術を受けたメス1頭が尿失禁
チワワ:トイプードル同様、関節疾患とがんの発生に手術の有無およびそのタイミングによる顕著な差は無い
調査の詳細:
・1037頭(♂:未去勢261・去勢済み189、♀:未避妊298・避妊済み289)
・4グループで関節疾患とガンの発生に大きな差は無し
・未避妊のメスの1%、生後2か月~8か月で手術を受けたメスの4%に乳ガン
・子宮蓄膿症は未避妊のメスの2%
という事で、この論文だけで決められるわけではありませんが、妙齢(?)を迎えたひめりんご姉さん、そろそろ考えないといけないのかな…。
* 35犬種:ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパード、プードル(3種:スタンダード、ミニチュア、トイ)、オーストラリアンキャトルドッグ、オーストラリアンシェパード、ビーグル、バーニーズマウンテンドッグ、ボーダーコリー、ボストンテリア、ボクサー、ブルドッグ、キャバリアキングチャールズスパニエル、チワワ、コッカースパニエル、コリー、コーギー(ペンブロークとカーディガン合算)、ダックスフント、ドーベルマンピンシャー、イングリッシュスプリンガースパニエル、グレートデーン、アイリッシュウルフハウンド、ジャックラッセルテリア、マルチーズ、ミニチュアシュナウザー、ポメラニアン、パグ、ロットワイラー、セントバーナード、シェットランドシープドッグ、シーズー、ウエストハイランドホワイトテリア、ヨークシャーテリア
** 小型犬種:キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、チワワ、コーギー、ダックスフント、マルチーズ、ポメラニアン、トイプードル、パグ、ヨークシャーテリア