繁殖を禁じられたブリーダー⑩心強い味方現る!
犬の福祉向上を求めた裁判についてご紹介しているノルウェーから、明るいニュースが届きました。心強い味方が現れたそうです。今回は、ブルドッグとキャバリアの繁殖に関する裁判の最新情報をご紹介します。
おさらい:犬を苦しめる無秩序な繁殖
NSPA (Norwegian Society for Protection of Animals≒ノルウェー動物保護協会)は、長年にわたり動物福祉向上のための努力を続けています。どの国も同じで、課題は山積みだそうです。その中でも、無秩序な繁殖が原因で健康状態に大きな問題を抱える犬種の存在は、緊急に解決すべきもののひとつです。
ノルウェーでは、イングリッシュ・ブルドッグ(以下ブルドッグ)とキャバリア・キングチャールズ・スパニエル(以下キャバリア)の2犬種が深刻な状態にあるそうです。
科学的知見に基づき、近縁種とクロスブリーディング(交雑)をすることが、この犬たちを苦痛から救う唯一の手段だとNSPAは主張します。
苦渋の選択だった"訴訟"
同協会は健全な繁殖を共に進めようと、ノルウェーケネルクラブ(NKK)などと粘り強く交渉を重ねたそうです。(ブリーディングそのものの禁止を求めているのではありません。)でも、"純血種"の定義に固執するNKKやブリーダー側に譲歩の意思はなく、訴訟に踏み切ったのは「苦渋の選択だった」そうです。
第一審では、現在行われている方法でのブルドッグとキャバリアの繁殖が、ノルウェーの「動物福祉法(Animal Welfare Act 2009)」違反*であるという判決が出ました。2犬種のブリーダーには、繁殖の禁止も言い渡されました。個人の活動を国が制限するという非常に重い判断です。
被告側はこれを不服としてオスロ高等裁判所に控訴。昨年9月に第二審が行われました。
11月に出た控訴審の判決では、被告側の訴えが一部認められました。ブルドッグの繫殖について、地方裁判所の判決が棄却されました。健康問題が深刻であるとの主張について、科学的な証明が十分でないとされ、現状の繁殖が違法とは言えないとの判断でした。
議論は最高裁へ
ブルドッグの繁殖を禁じた第一審の判決が覆ったことで、NSPAは上告を決意したようです。同協会の代表、オーシルド・ロァルドセット(Åshild Roaldset)獣医師は、ブルドッグやキャバリアの愛犬家の気持ちも理解できるとして、こんな風に言います:
昨年、ロァルドセットさんとリモートでお会いした時には、
と話してくれました。上告を決めるまでには、様々な努力や葛藤もあったはずです。最終的に議論を最高裁にまで持ち込んだのには、理由があったのでしょう。
専門家が意見書を最高裁へ
上告審に先立ち、欧州伴侶動物獣医師会連盟(筆者訳 = FECAVA: Federation of European Companion Animal Veterinary Associations)がNSPAの主張を全面的に支持する正式な文書を最高裁に提出しました。(全文の日本語訳および英語の原文を下に貼りました。)
欧州37か国の獣医師会からなる同連盟が正式な意見書を出したことは、裁判の行方に少なからず影響を与えるでしょう。この裁判は、ノルウェーだけでなく欧州全体を巻き込んだものに発展しています。最高裁の判決は、ヨーロッパ域外の国々にも影響を及ぼすでしょう。
一向に動きのない日本
日本でも、無秩序な繁殖によって動物の福祉が大きく損なわれています。これまで何度もご紹介してきたように、わが国では特に(超)小型犬種の遺伝性疾患がパンデミック状態にあると言っても過言ではありません。
超大手ペットショップチェーンにいるトイプードルの7割に、遺伝性疾患である膝蓋骨脱臼(パテラ)"あり"って…。
いわゆる動物愛護法の改正に際して、遺伝性疾患については「国民的な議論を進める」と環境省は宣言しました。2020年10月のことです。あれから既に2年半。動く気配はまったくありません…。
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