羽田の事故で改めて考えた: わんこの命と健康は私たち次第
「ペットは家族!」
JAL機の事故で2匹のペットが亡くなりました。痛ましいニュースを受けて高まったのが、「動物たちは家族だ!」という声。私も100%賛同します。前回書きましたが、この出来事が、事実に基づいた建設的で冷静な議論のきっかけになって欲しいと思います。それが、失われた2つの命を無駄にしない唯一の方法じゃないかな。
みんなが願うのは、シンプルに「この子たち」の幸せですよね。私も同じです。そこで改めて、わんこたちの命を守ることについて考えてみました。大切な家族の健康を「必要のないリスク」に晒さないように…。
ペットの運命は私たち次第
私たちは、ある程度の年齢になれば基本的に自分の考えで行動できます。野生動物も、それぞれが本能と経験に基づいて生きています。人間も動物も判断を間違えることはありますが、それは自らが招いた結果。納得して受け入れるしかないですよね。
でも、ペットと呼ばれる動物たちに選択肢はありません。食べることも、遊ぶのも、運動するのも、健康管理も、すべて私たち次第。だから、できるだけ正確な情報に基づいて、リスクよりもベネフィット(≒メリット)の多い判断をしなくてはならないと肝に銘じています。それが、飼い主の一番大きな責任だと私は思います。
もちろん、私たち人間がすべてを知っているわけではありません。人間の病気も、治療法が見つかっていないものはたくさんあります。"エビデンス "も、「今のところ人間が理解している(つもりでいる)」ことです。地動説と天動説のように、将来、ひっくり返ることも少なくないでしょう。以下は一例に過ぎませんが、獣医学に限らず、「教科書が間違っていた!」なんてことは、珍しくないそうです↓
多くのことに、"完璧"や”絶対"はありません。でも、できるだけ正確な情報に基づいて慎重に判断を下すことで、リスクを減らすことはできます。
この子たちの命と健康は、すべて私たち次第
年に一度の抗体検査
で、しつこくワクチンの話です。いわゆる「混合ワクチン」を毎年わんこに打たせている飼い主さんは多いと思います。私も以前はそうでしたが、ひめりんごと平蔵には1年に1回抗体検査を受けさせています。命にかかわることもある怖い感染症から、体を守る免疫力があるかどうかを確認するためです。(詳しくは以下をご覧ください。)
前回までは、簡単に結果が分かる定性検査キットで確認していました。でも、検査キットは一部を除いて感度も特異度も100%ではありません。
念のため今回(昨年11月)は、より正確な検査をお願いしました。しばらくワクチンを打っていないので、そろそろ抗体価が下がっているかもしれません。実際に、どの位の抗体が血液中にあるのかを調べてもらいました。
平蔵が最後に混合ワクチンを打ったのは、パピー時代の7年前。
ひめりんごもワクチンアレルギーを発症した3年前以来、打っていません。ずっと、抗体検査で陽性でした。
"ふたり"ともワクチン接種は不要
検査の結果、ひめりんごも平蔵も混合ワクチンの再接種は不要でした。平蔵はアデノウイルスに対する抗体価が低めでしたが、それでも「防御可能な抗体価」が確認できました。個体差はあるでしょうけど、少なくとも平蔵は7年、ひめりんごは3年、ワクチンによる免疫が持続しています。
混合ワクチンは、ジステンパーやパルボなど、死につながり得るウイルス感染症を予防する大きなメリットがあります。でも同時に、有害事象のリスクもゼロではありません。必要以上に接種することは避けるのが安心です。
現在の獣医療における世界的な指針は、
「接種間隔は3年あける」
とされています。または、
抗体が十分にあれば、
打っても意味はないし、打つべきでもない
というものです。免疫持続期間は個体差があることも分かっています。念のため、ウチの子たちには1年ごとに抗体検査を受けさせています。
かなり以前から、世界的な専門家団体や研究者がガイドラインや論文を発表しています。これも、過去のブログでご紹介しましたので、読んでいただけると嬉しいです。
かならず存在するリスク
混合ワクチンの副作用については、日本小動物獣医学会が調査を行っています。正確にデータが採れた10,620例のうち、1,133件で副作用事例が報告されています。元気や食欲の消失が117例、発熱が66例、アナフラキシー症状が1例。1頭は亡くなっています。
このほかに、痒みやじんましん、顔が腫れる「ムーンフェイス」などのアレルギー反応なども挙げられています。ひめりんごも3年前、嘔吐や下痢、痒み、目の周りや背中の赤みなどが翌朝まで続きました。
重篤な事例は多くないようですし、症状は一過性のようです。でも、リスクがゼロでないのも明らかです。死亡例も存在します。軽い症状であっても、身体的・精神的なストレスにつながる副作用は避けた方が安全なのは言うまでもありません。
動物医薬品検査所(農林水産省)が公開している「動物用医薬品等副作用データベース」によれば、2022年の1年間で182件の混合ワクチンによる副作用事例が登録されています。正式に報告があったモノだけですから、実際はもっと多いはずです。
長期的な悪影響は誰も分からない
心配なのは、短期的な有害事象だけではありません。以前、輸血治療に熱心な動物病院で担当の獣医さんにお話を聞いたことがあります。診察に訪れるわんこに1番多いのが、免疫介在性の貧血だそうです。この病気は、免疫機能が自分自身の赤血球を(異物と誤認して)破壊してしまい、貧血に陥るというものです。
人間にも「自己免疫性(※ 1)溶血性貧血」という類似の病気があります。厚生労働省が難病に指定していますが、稀な病気のようです。
人間では、ワクチン接種が自己免疫疾患を引き起こすことがあると言われています。関節リウマチやギランバレー症候群(※2)、全身性エリテマトーデス(※3)といった免疫機能の誤作動による病気の一部は、ワクチンに原因があるとする論文や報告は少なくない数が発表されています。
反論もあるようですが、同時に関連性を完全に否定できる状況でもなさそうです。つまり、リスクは考えられるということ。
わんこの場合も、混合ワクチンの過剰接種が免疫介在性疾患の一因とは考えられないでしょうか?病態生理学(※4)的な研究は行われていないようで、「ワクチンがこの病気の原因」と示すエビデンスは見つかりません。
以下は、ペット保険のアニコムが運営する「動物再生医療センター病院」の説明です:
今のところ、ワクチンが免疫介在性疾患の原因であると断言はできません。同時に、リスクとして考えられることも否定できないはずです。
免疫って、"がん"などの原因となる異常な細胞も、日々、やっつけてくれているそうです。人間が、無秩序にいじって良いモノだと私は思いません。
必要な時に必要なことを
長々と書いてきましたが、決してワクチンそのものを否定するわけではありません。私自身も、これまでに色々な予防接種を受けてきました。新型コロナウイルス感染症のワクチンも…。
ひめりんごと平蔵だって、お散歩に出かけたり、お友だちわんこと遊んだり、旅行で知らない場所に行ったりしながら元気で暮らしています。これは、子犬時代にしっかり注射を打って免疫を付けたおかげに他ならないと思います。
でも、平蔵の場合、生後3か月の時に接種したワクチンによる(と思われる)抗体が、7歳を過ぎた今も残っています。ひめりんごは、3年前のワクチンによる(と考えられる)免疫が、まだ十分あります。この状態で再接種したとしても、意味がないことも分かっています。
「むだ打ち」することなく、かつ、健康被害のリスクを最小限に抑えるために、抗体検査の結果に基づいたワクチン接種が大切だと思います。
この子たちの健康と命は
すべて私たちの判断次第
※1)獣医学では免疫介在性疾患と呼ぶ。医療(ヒト向け)では自己免疫疾患という呼び名が通常
※2)免疫異常によって末梢神経にトラブルが生じる。筋力の低下や麻痺、痛みやしびれなどの感覚障害などが起きる。インフルエンザワクチンとの関連性を疑う報告がある
※3)免疫系が体の様々な組織を攻撃することで、皮膚や関節、内臓、神経系など、文字通り全身に様々な症状が現れる
※4)体の中でどの様なプロセスによって病気が生じるのかという研究