第5章:犬の繁殖の歴史
前回までは、「純血種」のブリーディングがもたらしている遺伝性疾患についてご紹介しました。でも、当然ですが品種を創ることは悪い面だけはありません。今回は、色々な犬種がいることの興味深さというか、「こんな面もあるんですね」という少し楽しい話を。
様々な魅力をもつ犬たち
現在、純血種だけでも400種類近くが存在します。それぞれの犬種には、それぞれの魅力があります。小型犬が好きな人もいれば、大きくて堂々とした犬に魅力を感じる人もいますよね。フレブルのような「鼻ぺちゃ」犬も人気ですが、柴犬のようにシャープな顔が好きな愛犬家も少なくないでしょう。
外見だけでなく、性格も穏やかな犬種から活発な犬まで様々です。フリスビーを使ったドッグスポーツには、身体能力の高いボーダーコリーやジャックラッセル・テリアなどが活躍していますね。
人間をサポートしてくれる使役犬たちも、昔と同様に活躍しています。介助犬や警察犬、盲導犬、麻薬探知犬なども、それぞれの特性を活かした役割を担っています。
犬たちは、癒しを与えてくれたり、仕事を手伝ってくれたり、私たちを様々な形でサポートしてくれます。それも、犬という動物の多様化のお陰です。だからこそ、
生まれてきてくれる命には、
健康で快適な時間を
過ごして欲しい
とは思いませんか?
品種改良の歴史
歴史的に見れば、はじめは人間の仕事をサポートする犬種が創られたと思います。運動能力や人とのコミュニケーション能力の高い犬たちが、猟犬や番犬、牧羊犬などに使われました。
ちなみに、「世界畜犬連盟(FCI)」の分類では、猟犬だけでも4つのグループに分けられています。日本では「ジャパン・ケネルクラブ(JKC)」が、イギリスでは「THE KENNNEL CLUB(ザ・ケネルクラブ)」が血統書の発行を行っていますが、FCIはその世界的な親玉といったところです。ベルギーに本部を置き、純血種の「犬種標準」作成などを行います。
その分類が犬種の性質を知るのに興味深いので、ちょっとご紹介します。(狩猟 = ハンティングに関しては「獲物」となる側の動物福祉について議論がありますが、ここでは犬種の話にとどめます。)
鼻がきく「セント・ハウンド」
においで獲物を探す「セント・ハウンド(= においの猟犬)」と呼ばれるグループがあります。嗅覚が特に研ぎ澄まされています。「スヌーピー」でおなじみのビーグルや、胴長短足なバセット・ハウンドなどがこのグループに属します。そういえば、空港で旅行者のスーツケースから違法な薬物や持ち込み禁止の食品などを探す「探知犬」はビーグルですね。
視力と加速力の「サイト・ハウンド」
犬は嗅覚のイメージが強いですが、目で獲物を探す猟犬もいます。「サイト・ハウンド(= 視覚の猟犬)」と呼ばれるグループです。ターゲットを目で確認し、一気に走って追い詰める脚の速さも特徴です。
代表的な犬種は、グレーハウンドやボルゾイ。あの細長い独特の体型は、空気抵抗を少なくするとともに、瞬発力を生み出す骨格や体のバネの強さによるものだそうです。イギリスで行われるドッグレースに出るのがグレーハウンドですね。ボルゾイ、ってのはロシア語で「速い」という意味だそうですよ。
指ししめす「ポインター」
3つめは、「ポインター」です。このグループの犬種は、銃を使った鳥の狩猟に使われます。カモなどの獲物を見つけると、前脚を少し上げて「指し示す」ことで知らせるため、英語で「指さす」意味の「ポイント」からこのグループ名がつけられました。
同じグループの「〇〇セッター」という犬種は、ポイントするのではなく、獲物を見つけると体制を低くして(英語で「セットする」と言う)主人に知らせることが犬種名の由来だそうです。
レトリーバーほか
「レトリーバー」グループのゴールデンやラブラドールは、撃ち落した鳥を回収(レトリーブ)する猟犬として活躍していました。そのほか、隠れている鳥を追い立てる「フラッシング・ドッグ」や水辺の猟で活躍する「ウォーター・ドッグ」も4つ目のグループに分類されます。
今後も増える犬種の数
FCIには現在、368犬種(!)が登録されています。一番新しいのは、ポルトガル原産の「TRANSMONTANO MASTIFF(トランスモンターノ・マスチフ)」という犬種だそうです。去年の3月に登録されています。ということで、犬種の数はこれからも増えていき、犬たちはますます多様化していくでしょう。願うのは、健康を最優先したブリーディングが行われますように…
最低体重が1.5トンの人?!
このように、猟犬だけでも本当に色々です。考えてみれば、犬は体の大きさだけでもすごく違いますよね。大きい犬種の代表格、「グレートデーン」のオスは最低体重が54キロ。
一番小さい犬種のチワワは1.8キロとされているので、その差は30倍!人間に例えると、体重が50キロの人種と1.5トンの人種がいるということになります。
まぁ、それほど単純なモノでないとは思いますが…。
ともかく、人間が手を加えてきたことで、犬という1つの「種」としては例外的な多様性が生み出されました。それが、良い面だけならば問題はないのですが…
繰り返しになりますが、犬たちは、私たちを常にサポートしてくれる家族の一員であり仕事のパートナーです。
それも、犬という動物の多様化のお陰です。だからこそ、このコたちには遺伝性疾患などに苦しまず、健康で快適な一生を過ごして欲しいと思います。
だいぶ海外の話が続きました。次回からは、私たち一般の飼い主が経験することも十分あり得る、犬の遺伝性疾患をご紹介します。「ブリーダー」と称する一部の繁殖屋を、ディスります!
第5章のキーメッセージ:複雑な話はさておき、犬たちは本当に色々なモノを、日々、私たちに与えてくれる存在です。このコたちが、心身ともに健康な状態で生まれることを最優先した繁殖をすることは、当然のことでしょう。人間として最低限の知性と良心、持ってますよね?