繁殖を禁じられたブリーダー⑧:「欧米では…」???
前回は日本で行われている犬の生体販売について、改善して欲しいと思う点を改めてまとめました。繁殖や飼育管理、さらに販売システムにも課題は多いと感じます。現状では、子犬の販売やそのための繁殖を、「法律で禁止すべきだ」という主張にも感情的には賛成です。
でも、世の中のほとんどがそうであるように、この問題もシンプルではありません。特に個人や企業の活動を国が法律で制限する場合、慎重な検討と運用が求められます。その点で、ノルウェー動物保護協会(NSPA)の論理的で理性的な議論に学ぶことは多いような気がします。
今回は、その「生体販売禁止」という意見について少し考えてみたいと思います。
欧米では…
動物愛護についてだけではありませんが、「欧米では」という表現をよく聞きます。でも、法律は当然のこと、文化や習慣、ものの考え方など、ヨーロッパとアメリカにはとても大きな違いがあります。
さらに欧州各国もそれぞれです。価値観などが変われば法律も違ってくるでしょう。“欧米” をひとくくりにするのは、「少々乱暴かな…」と感じます。
で、アメリカに愛玩動物の生体販売を禁止する法律はありません。カリフォルニアやイリノイなど一部の州では、保護個体の譲渡以外、ペットショップで動物を扱うことはできません。ニューヨーク州でも同様の法案が両院を通過し、12月15日には州知事の承認も行われました。2024年12月には法律が施行されます。
でも、子犬を含め、ペットの生体販売そのものを禁止している法律は、自治体(州やその下の行政単位である郡など)レベルでも、合衆国全体でもないはずです。
ヨーロッパでも、一律に違法としている国は今のトコロ見つけられていません。犬や猫の福祉向上のために、”ガイドライン”を細かく提示している国はあります。例えばイギリスでは、政府と民間が協力して適切な繁殖や販売の普及に努めています。
参考:イギリスでやヨーロッパにおける取組の一部
https://reanimal.jp/article/2022/01/04/3279.html
欧州での実体験から
私はイギリスとヨーロッパ(英国人はイギリスをヨーロッパと呼びたがらないので昔の友人や同僚に敬意を表して…)で合計5年ほど生活したことがあります。その半分ほどは、ワンコと一緒に暮でした。毎月ドッグフードを買っていたパリ市内のペットショップには、たくさんの子犬がいました。
ちなみにこの街では、セーヌ川にかかる“ポン・ヌフ”(直訳すると新橋 ^_^)の近くにペットショップが集まっています。去年、「フランスではペットショップでの生体販売が禁止される」というニュースが流れた時、懐かしいお店や店員さんをTVで見ました。
この法律にも背景が色々あるので、フランスが「ペットに優しい国」とはぜんぜん言えないと思いますが、それについては別の機会に。少なくとも、
今現在はフランスでも
ペットショップで
子犬が売られています
ガラスで囲まれたケージの中に子犬がいる、日本と同じイメージです。
国が個人の活動を制限する重み
ノルウェーの裁判で、キャバリアとブルドッグのブリーダーに繁殖行為の禁止を言い渡す判決が出たことを色々な角度からご紹介してきました(ブルドッグに関しては第二審で棄却)。
https://note.com/hime_hei/n/n42f5c968343b
とても画期的な出来事です。国が法律で個人の活動を制限するというのは、簡単にできることではありません。でなければ、力のある者、声の大きい者たちが国を自由に動かす独裁国家になってしまいます。
これまでご紹介したように、これはNSPAが建設的な提案と併せ、正確な情報や科学的根拠に基づき、論理的で理性的な議論を粘り強く続けた末の成果だと思います。
「欧米では生体販売が禁止されている」とか、「欧米にはペットショップがない」といったコメントを目にすることがあります。そうした事実と異なる話に続くのは、「だから日本でも生体販売を(全面的に)違法とすべき!」という主張です。
私も “溺”愛犬家です。現在の状況を見ると、感情的には賛成です。
一方、世の中には犬だけでなく動物に関心のない人も少なくないでしょう。統計は見つかりませんが、社会全体で見た場合、愛犬家は少数派かもしれません。 そんな環境下、感情的な極論を展開することが、広く社会的な賛同を得るのに有効だとは思えません。
逆に、効果的に議論を進める上での妨げになることもあるのではないでしょうか?感情だけで国は動きません。というよりも、動かすべきではないと思います。
目的は???
日本にも、専門家としてレベルの高い知識と豊富な経験に基づいて犬の繁殖をされている“ブリーダーさん”はいらっしゃいます。皆さんそれぞれの信念があり、方向性は少しずつ違うようです。でも、共通しているのは愛情をもって接し、心身ともに健康な犬を“家族”として誕生させていることです。
子犬をお迎えした飼い主さんとは、親戚付き合いも少なくないようです。何かあった時には全面的にサポートし、終生大切にしておられます。そうしたブリーダーさんの取り組みも、生体販売の1つの形です。「生体販売反対!」という皆さんも、そうしたブリーディングも禁止すべきという意図ではないと想像します。
また、ペット関連の市場規模は1兆7000億円を越えます。 生体販売関連業に限っても、8000億円以上の売上があるそうです(2021年度実績;矢野経済研究所調べ)。
そこで働き、生活している人の数は膨大でしょう。業界の“ダークサイド”には携わらずに働いている人たちも少なくないはずです。その人たちにも、日々の生活があります。
目指すのは、不適切な繁殖と飼養をなくし、適正飼養が終生おこなわれる世の中にすることだと思います。動物たちの健康と命を守るために、事実に基づいて理性的で建設的な議論を丁寧に続けていくことが大切だと思います。
広く社会的な賛同を得るためにも
次回は、あえてペットショップの良い点、と言うか、期待したいことについて考えてみようと思います。