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表現者は、(中指を立てながら)微笑みあう ~【絶対信じない】読書空想文~

2021年7月19日。

わたしたちは突然、【ルックバック】以後の世界を生きることになりました。

あの日、どれだけの人が《表現すること》に絶望したのだろうかと、想像します。  
  
そしてどれだけの人が、《表現し続けること》を勇気づけられ、《表現者になること》を目指し始めたのだろうかと、想像するのです。

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このnoteは、かっぴーさんのマンガ【絶対信じない】を読んだ感想、、、というよりも、空想(想像・妄想)したことを綴ったものです。 

ネタバレあり。
何だったら、描いていないことまで書いていますので、未読の方はぜひ(ぜひぜひ)、作品を読んでからお読みください。

kindleで読めます。
kindle unlimitedにも入っています。まじか。

twitterでも全話読めます。まじか。

、、、読み終わりましたでしょうか?
では、【絶対信じない】読書空想文、始まりです。

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『インターネットはうるさい』
『どいつもこいつも・・・自分の事ばっかだな・・・』

思わず「それ、あなたでは?」と言いたくなりますが、【先生】という人は、たぶん、そうやって世界を見下し、憎まないと、立ち続けることが出来なかったのです。

「自分は尾田栄一郎でも、吾峠呼世晴でも無かった」と気付かされてしまった後もなお、《売れるかどうがが全て》の世界で、戦い続けることを選んでしまったわけですから。 

 なので、 
『売れりゃいい。全部よくなる・・・』
『売れたら全部いい・・・』
そう言って眠れない夜を過ごす姿は、祈りというよりも《呪い》。

だから、いくら売れるためにと言われても、ツイッターでの無料公開なんて、出来るはずありません。

想像してみてください。
売れていないマンガが、無料でも読んでもらえなかったら、「作品そのものが、面白くなかった」になっちゃうわけなんですよ?

これ以上怖いことって、ちょっとないですよね。

そして、だからこそ、 
『ダメだ・・・オレ・・・』
『タダでも読まれんの嬉しい・・・!!』  
と、流す涙には、もちろん喜びもありますが、もう一つ深いところで、ずっと(ずっと、ずっと)自分自身を縛り付けていた《呪い》が、ポロポロとほどけていった瞬間でもあったのです。

 ★

 先生が、《負けに負けた世界と、それでも戦い続ける人》だとしたら、もう一人の主人公【ミドリさん】は、そもそも《世界へと参加する一歩を踏み出せない人》です。 

『嘘』
『ぜ―――ったい嘘』
 

という言葉は、性格の悪さや疑い深さよりも、自分を守るためのもの。

だって、何も信じなければ、誰にも傷付けられることなんて、無いのですから。
世界へ参加しなければ、自分の才能(作品)を、ずっと信じ続けることができるのですから。

でも、ミドリさんは知らなかったのです。
小説を書くこと、それ自体が既に、世界へと一歩踏み出す行為だったということを。

 『アニメ化したら信じますか?』

ある日突然現れた白馬の王子さま、、、じゃなかった、売れない漫画家は、そんなマンガみたいなことを言いました。 
(それこそ、絶対信じられない) 

でも、うれしかった。
『なーんも見えてないんですね。先生って』なんて、憎まれ口を叩きながらも、本当はうれしくて(うれしくて、うれしくて)仕方なかった。

自分の作品を深く読み込み、理解してくれる人がいるということ。  
そして何より、自分の作品について語り合えることが、うれしく、楽しくないわけがないのです。

いつの間にか踏み出してしまっていた、世界への第一歩。
半ば押し出されるような形で、参加してしまった世界。
表現することを通して、ミドリさんは、「この世界には、自分にも座るべき席があるかもしれない」と、思い始めます。

母親に会いに行ったのも、ドラマのような出来事を期待していたわけじゃないんです(でも、本当に?)。
ただ、《自分の席》を確かめるために。
ミドリさんにとっては、どうしても必要なことでした。

そして。
最低な母親に、最低な真実を告げられながら、ミドリさんは、理解します。  
誰よりも自分こそが、『信じたいものを信じていた』のだと。

確かめる必要なんて、何も無かった。
今が、ここが、もう既に世界なのだから。

魔法が解けたミドリさんは、まるでプロビデンスの目。
望むと望まざると、真実を見通さずにはいられません。

差し出したまま、一瞬固まってしまった手。
それをもう一度先生のほうに伸ばしながら、ミドリさんの目は涙を流します。

そう、この世界には確かに、わたしの席があった。
でもそれは、ここではなかった。

『売れるとか売れないとか・・・本当はどうだってよかったんだ最初はさ・・・』

ミドリさんにかける言葉を探しながら、先生は先生で、フッと、ここが自分の本当に望んだ席ではなかったことに、気付いてしまいます。

『ごめん・・・でもオレは・・・ミドリさんの文章を読んで・・・表現がしたいと思った、ごめん』

ごめん、ほんとはオレ、、、オレはオレのことばっかりなんだ。

『オレは・・・・・・誰もわかんない事を描きたかった』

ワンピがなんだよ!
鬼滅がなんだよ!

オレは、オレは、、、

『オレは、オレにしか分かんない事を描きたいんだ・・・』

世界の大きさ(あるいは小ささ)を理解したミドリさんと、世界に中指を立て続けることを宣言した先生と。

二人の孤独な表現者は、袂を分かったのでした。

 ★

10年経って。

『オレは、オレにしか分かんない事を描きたいんだ・・・』
そう言った先生は、残念ながら、きっともう一度世界に敗れてしまったのでしょう。
(編集者になったって、そういうことですよね)

そして、今や世界的な小説家となった、ミドリさん。
世界の大きさを知ってしまったということは、世界に期待することをやめてしまったということ。 

けれども、
『先生が必死に見せてくれようとしたものは、今ここにある?』
そう、呟いた目に映ったのは、想像をはるかに超える、世界の騒々しさでした。

何を分かった気になっていたんだろう?
世界は、わたしが思うよりも、はるかに大きい。

耳に、目に溢れる喧噪に、ミドリさんは足がすくみそうになります。
でもその瞬間、はっきりと見えたのです。
穏やかに微笑む、先生の姿が。

確かに先生は、世界に敗れてしまったのでしょう。
そう、本気(の本気の本気)を出し切って。
(《日本で一番売れてる漫画の編集者》になったって、そういうことですよね?)

だからきっと、ミドリさんの目だけには映っていたはずなんです。
わたしたちには見えない、微笑みながら、中指を立てる先生の姿が。

だからミドリさんも、微笑みながら、先生に、世界に、中指を立てるのです。

『この世界は確かにうるさい』

だから表現者は、世界に中指を立てる。
世界をクソだと切り捨ててしまうのでなく、クソったれな世界に、それでも自分の足で立ち続けるために。

★☆★☆★☆おまけ☆★☆★☆★

 『絶対信じない』には、とても短い続編(おまけ)があります。

これが、Twitterに投稿されたのは、2021年7月20日午前0時10分。

そう、【ルックバック】が発表された日の夜中なんです。
(それを踏まえて、ぜひぜひ、もう一度読み返してみてください)。

わたしの空想(想像・妄想)はこれでお終いですが、最後に、【左ききのエレン】の主人公 朝倉光一の言葉を。

『戦い続けることは勝つことより難しい』

わたしには、誰よりもかっぴーさん自身が、この言葉を体現しているように思えてなりません。

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