草臥
カフェで本を読んでいた。ふと顔を上げると少し離れた席で大きなエコバッグを机に置いて腕を組んでいる男がいた。黄色い幾何学模様のエコバッグは見慣れた形だったが、私のものと違って汚れやくたびれた様子もなくキチンとしていた。整えられた顎髭を神経質そうに触る男の元に、野球帽とリュックを背負った少年が現れた。男は少年に席番を頼むと席を立った。エコバッグはちょうど少年の顔を隠していたので、私はそれ以上観察しないことにした。
あのエコバッグは何かの景品か付録だったのだろう。ひとり暮らしを始めた折に、母が持たせてくれた。保冷機能があって、肉や魚を買うときによく使った。その頃は私のエコバッグももう少しピンとしていた。
エコバッグにしろ洋服にしろタオルにしろ、私の持ち物はなんだかくたびれるのが早い。同じタイミングで買った記念Tシャツも友人たちと比べてやたら日焼けが早く色落ちもした。タオルは母が洗濯するとふわふわなのに、私が洗濯すると硬くてチクチクする。学校指定のカバンも弟の方がずっと綺麗に使っていた。
私の所有物たちを気の毒に思う。洗濯の仕方だって頻度だってそんなに変わらないんだけど、私のところへ来たばっかりに君たちは早く老けるよ。ごめんね。あの顎髭の男の方がよっぽど君たちを若々しく保つだろうに。あのエコバッグと君にはなんの違いもないと言うのに。