【超ショートショート】(188)~誰もしないKissをしよう~☆CHAGE&ASKA『僕はMusic』☆
真新し白いキャンパスに、
絵描きさんが、
アクリル絵の具を置いていく。
キャンパスに置かれた絵の具を、
大きなはけを使って白いキャンパスに
七色の虹をかけた。
今度は少しずつ少しずつ、
絵描きっぽく、たくさんの細い筆を使って、
雲や木や台地や緑を描いていく。
最後の頃には、
何もなかったところに、
小さな家が描かれた。
そして、
家の前には、
男女の幸せそうなシルエットが描かれた。
朝から描きたいその絵は、
誰も居なくなった夜中のアトリエで、
月明かりに照らされていた。
すると、
絵の中の幸せそうな男女のシルエットから
女性が消えた。
翌朝、
アトリエに戻った絵描きは、
絵に女性のシルエットがないことを見つける。
「あれ?きのう書いたはずだけどな?
しょうがないな、また書けばいいか(笑)」
絵描きはそうつぶやきながら、
納期が迫ったその絵の完成のために、
急いで女性を描こうとした。
「待ってください!」
アトリエの奥から突然、
絵描きの見覚えのない女性が現れた。
「あなた、何してるんですか?」
「いいえ・・・わたしは・・・」
「警察に電話しますか?
それとも今すぐ出ていきますか?」
「いいえ・・・わたしは・・・」
絵描きは見知らぬ女に会い、
内心恐怖でいっぱいになって、
女性の話を聞く余裕を失っていた。
「わたしは!あなたが描いたその絵から、
夜中にここに出されたんです!(涙)」
「私の?絵から?」
「そうです!あなたが描いた、
ここに描いた女性がわたしなんです!」
絵描きは、混乱する内心を、
少しだけ静め、その女性の話に耳を傾けた。
片手には受話器を持ちながら。
「ここにいた女が君?」
「そうです!」
「じゃあなんで?どうやってここに?」
「夜中にこの絵が月明かりに照らされて、
わたしの前に月明かりのトンネルが現れ、
そこに落ちてしまったんです。」
「月明かり?トンネル?」
「はい。わたし、
どうしてもこの絵に戻りたいんです。」
「戻る?」
「だから、
新しくここに女性を描かないでください!」
「うん???」
絵から出てきたその女性によれば、
新しく女性を描いてしまったら、
彼女が絵に戻ることができないだけでなく、
一緒に描かれた彼と会うことができなくなる。
だから、描かないでほしいという。
絵のなかの彼とは、
永遠の愛を誓い合い、
どんなにふたりが離れても、
誰もしないKissをしようと約束している。
「誰もしないってどうやってするんだ?
Kissを」
「それは絵描きさん!あなたに係っています。」
「私に???」
「絵描きさんは、
いつも男女のシルエットを描くとき、
イメージする男女がいますよね?」
「あぁ~」
「そのいつもの男女を、
いろんなシルエットにして描いてほしいんです。」
「いろんな?」
「それが、誰もしない私たちのKissなんです。」
「まぁーよくわからないけど、
この男女のシルエットは、
私ともう天国に帰ってしまった
かみさんなんだよ!?」
そう話した絵描きは、
シルエット?→シルエットの女性?
→夜中に絵から飛び出した?
→シルエットの男女は私とかみさん!
→ということは?
→ここいるシルエットの女性という人は?
→かみさん???
と考え、頭の中が混乱してしまう。
「そう言えば、
昔かみさんと結婚する前に、
デートで、この絵のような月と海が見える
岬まで、夜中にドライブしたことがあった。」
「そのとき、
どんな話をしたか憶えていますか?」
「・・・憶えて・・・るかな」
「どんなことです?」
「確か・・・
私のアトリエに満月の月明かりが入る冬に、
あのとき、かみさんの肖像画を描いていて、
その肖像画のかみさんにKissしてくれって」
「満月の冬の夜に?」
「そう」
「なぜそんなお願いをしたのか?
憶えてますか?」
「うん~、確か、
かみさんが留学することになって、
しばらく会えないから、
私が浮気しないように、
Kissしろよっていうことだったと思う」
「あのとき、
あなたは肖像画を2枚描いてくれて、
わたしがもらったものには、
わたしとあなたが描かれていたけど、
あなたのアトリエのわたしの肖像画には、
わたしだけ。それじゃあ、絵の中のわたしが
寂しいから、せめて満月の夜にくらい、
絵でもいいからKissしてほしいと・・・」
「あなた?わたし???」
絵描きは女性の話で思い出したように、
かみさんの肖像画をアトリエの物置の奥から
持ってきた。
そして、
今描いているキャンパスの隣に置いた。
「この唇、だいぶ荒れちゃっていますね(笑)」
「そりゃ~、毎日Kissしてたからな!」
「毎日?(笑)」
「そう毎日!寂しかったから。
それに我ながら写真みたいにそっくりな
かみさんに描けたことが、
あのとき凄く嬉しかった。」
「(笑)」
「で、この絵が評価されて、
賞まで取って、やっと絵描きとして
一人前になれた。」
「あなたの描く絵には愛がありますからね」
「愛かぁ・・・。
よくそうやってかみさんが話していたよ!
〈あなたの絵には愛がある!
だからわたしはあなたが好きだ〉って」
「今でも好きですよ!(笑)」
「今でも・・・?」
「わたしはあなたの絵の中に描かれる度に、
またあなたと新しく恋をはじめるの。」
「恋?」
「あなたは、絵を描き終えると、
売り絵でも必ず女の人のシルエットに
Kissをしてくれる。」
「するね!何で知ってるの?」
「うふふ(笑)」
「君、いつまでここに居れるの?」
「あなたが次の絵を描きはじめるまで」
「じゃあ、もう描かない!」
「それはムリよ!」
「何で?」
「あなたは描くことが好きだから」
「でも、絵よりも君のほうが・・・」
「(嬉涙笑)」
こうして絵描きとシルエットのかみさんは、
夢のようなふたりの時間を過ごした。
新月の月明かりのない夜中。
絵描きと一緒に寝ていたかみさんが
突然消えていた。
翌朝、絵描きが家中を探したら、
あの絵に、女性のシルエットが戻っていた。
絶望する絵描きが、
泣き崩れると、
かみさんが戻った絵が倒れ、
キャンパスの裏側を絵描きに見せた。
「あなた、次の絵を描きはじめたのね!
次はどんなわたしを描いてくれるのか、
とっても楽しみにしています。
また誰もしないKissをしてね」
絵描きはかみさんを喜ばせようと、
再会したふたりの肖像画を描いて、
プレゼントしようと、
かみさんに内緒で絵を描いてしまっていた。
「もう、絵なんか描かないから、
もう一度だけでいい、
戻って来てくれないか?
君のこといつまでも大切にするから(涙)」
それから数日、
絵を描く気力を失った絵描き。
ボーと夜中に少しずつ大きくなる月を見て、
気づいた。
満月はまた来る!
そして、
満月の日を絵の完成日と決め、
いくつもの
男女の愛のシルエットの絵を描き続けた。
(制作日 2021.12.8(水))
※この物語はフィクションです。
今日は、
2004年12月8日発売 シングル
CHAGE&ASKA『僕はMusic』
発売から今日で「17周年」。
この歌詞に
「誰もしないKissをしよう」
とあり、 また、
「絵描き」の言葉もあるので、
参考にして今日のお話を書いてみました。
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『僕はMusic』
作詞 松井五郎・ASKA
作曲 ASKA
編曲 旭純
(2004.12.8発売)
YouTube
【CHAGE&ASKA Official Channel】
『僕はMusic』
https://m.youtube.com/watch?v=QYVDkyfcq2Q