【超ショートショート】(69)☆NとLの野球帽☆~1969のお父ちゃん~
「シュウちゃん!
早く準備しないと、
お父ちゃん外で待ってるわよ!」
シュウは、
まだ3歳の頃、お兄ちゃんの野球をする姿に憧れ、
日曜日の野球の練習に、
お兄ちゃんのお下がりのユニホームを着て、
コーチのお父さんと自転車に乗って出掛けた。
「ねぇ、お父ちゃん!
ぼく、野球の選手になりたい!」
「ほぉ~(笑)。
誰になりたいと?(笑)」
「やっぱり王がいいかな?
長嶋がいいかな?う~ん・・・(考)
ほしひゅうまがいい!(笑)」
「へぇ?!星飛雄馬か?(笑)」
「うん!(笑)」
シュウの地元は、
工場だらけの街。
いつも、高く空まで延びた煙突からは、
あちらこちらと、競争するように、
タバコをぷかぷかと、
白い煙を吐いていた。
「シュウ、おまえ野球選手になるんだろう?
お兄ちゃんもなるから、一緒に頑張ろうな!(笑)」
「うん!お兄ちゃん!(笑)」
そうやってはじまったこの日の練習。
お兄ちゃんはすっかり星飛雄馬の父一徹のように、
3歳児のシュウにスパルタ特訓。
シュウが、根をあげそうになる。
「お兄~ちゃん!ちょっと・・・」
「なんだよ!これくらいでへこたれるのか?
それじゃあ野球選手になんかなれないぞ!(怒)」
「いや!そ~うじゃなくて・・・(笑)」
「ムッ?」
「ほら、ここ!見てよ!(笑)
アリさんがお散歩してるんだ!(笑)」
お兄ちゃんは、その時、
弟シュウは大物になると確信した。
なぜなら、
アレだけのボールを浴びせたのに、
シュウは、そのアリの行進する道を、
一歩も踏んでいなかったのだ!
底知れぬ運動神経を持っていることに
シュウ自身も、まだ気づいていなかった。
「お兄ちゃん!アリさんがはっぱふみふみ!(笑)」
「さぁ!ふざけてないで練習の続きだ!
これが終わったら、練習試合になるぞ!」
「オー、モーレツ!(笑)」
「ハァー(呆)」
シュウは、はじめての練習試合で、
ホームランを打った。
「走れ~!シュウ~!」
「え?」
シュウは、
まだ野球のルールがわかっていなかった。
「シュウ~!
ふつうに走るだけで良いんだぞ!(笑)」
シュウは、
ホームランの意味もわかっていなかったようだ。
回収されたボールがピッチャーに戻されると、
アウトになるかもしれないと、
1塁から2塁へ盗塁、
そして2塁から3塁へと盗塁を試みる。
周りの選手たちもそのコントに付き合うように、
ピッチャーと3塁手で牽制を始めた。
「シュウ~!早く突っ込まないと、
アウトになっちゃうぞ~!(笑)」
「お兄ちゃんのいじわる!(怒涙)」
シュウは、ただ一生懸命に3塁へ
スライディング!
お母ちゃんが嫌う全身真っ黒なユニホームを作り、
最後のキャッチャー対決に、
見事に勝つのであった。
「シュウ!よくやったな!(笑)」
「お父~ちゃん!(大泣)」
帰宅すると、
シュウはお風呂場で、
やっとホームランの意味を知る。
「お父ちゃん!いじわるしたの?(怒)」
「あれはお父ちゃんじゃないだろう?(笑)」
「あっ!お兄ちゃんだ!」
「やったぜ!ベイビ~!(笑)」
「も~う!お兄ちゃんなんか大嫌いだ~(涙笑)」
シュウたちは、
工場の街から都会に引っ越すことになった。
「シュウちゃん、今日はみんなで、
ピクニックに行こうね。
この街もあと少しだけだから。」
「どこに行くの?お母ちゃん」
シュウが生まれるずっと前に、
お父ちゃんとお母ちゃんが、
デートに来ていた街を見渡せる山の頂上。
「さぁ写真を撮ろうか?」
お父ちゃんが三脚を出して、
カメラをいじると、
〈ジーーー〉と音が鳴る。
「お父ちゃん!早く早く!」
お兄ちゃんの呼びかけにお父ちゃんは、
あわてて家族の所へ戻って来る。
引っ越しした地域の野球チームに、
お兄ちゃんと一緒に入ったシュウ。
このとき、初めて、
自分のサイズのユニホームやらバットやらと、
野球道具一式を買ってもらった。
シュウが高校生になると、
甲子園に行けるよう毎日練習に励んだ。
県内でもシュウの野球選手としての評判を
聞くことが増えていった。
あとは甲子園に出場して、
プロ野球選手になる。
そんな道が約束されているようだった。
「シュウ!お父ちゃんが・・・」
「どうした?お母ちゃん」
お父ちゃんがもう長くないと、
初めてお母ちゃんが教えてくれた。
もう何年も、シュウとお兄ちゃんには内緒で、
闘病生活をしていたようだ。
シュウが西鉄ライオンズに入って数年。
お調子者だがエラーを出さない選手として、
幅広い世代の人気者になった。
時代はテレビの時代。
オフシーズンになるとプロ野球選手の運動会や
カラオケ大会が放送された。
そこで、
いつもカラオケ大会で優勝するのが、
シュウだった。
シュウが、
西鉄ライオンズの選手として、
小倉球場に来たとき、
いつも試合翌日のオフに、
あの思い出の山の頂上へ出掛けた。
「ここだな?お父ちゃん!」
シュウは、お父ちゃんがあの日、
一生懸命に撮影した家族写真を眺めながら、
お父ちゃんの姿を思い出していた。
「僕、プロ野球選手になって、
西鉄ライオンズで頑張っているよ!
知っとと?」
シュウは、
工場だらけの街並を探した。
でも、もう思い出の風景ではなかった。
見憶えのある煙突が1つあるくらいで、
あとは住宅街ばかり。
「いつからこんなにオシャレになったと?」
街の空も、昔と違って、霞んでいない。
「なんて綺麗な青空なんだ!」
シュウは、
野球の鞄に入れているものが、
家族写真のほかに、もうひとつあった。
「お父ちゃんが買ってくれた
西鉄ライオンズの帽子。
もうボロボロ、頭もでっかくなったから、
ほら!全然被れないんだ!(笑)」
シュウが3歳で野球をはじめてすぐ、
地元の小倉球場に野球を見に行った。
もちろん西鉄ライオンズを応援するために。
「応援するなら、コレ!被らんとな!(笑)」
お父ちゃんが売店で、
西鉄ライオンズの子供用の帽子を、
買ってくれた。
コレがシュウが憶えている、
一番最初のお父ちゃんからのプレゼント。
シュウは、どこに行くにも、風呂に入るときも、
寝るときも、帽子を離さなかった。
そのおかげで、
ボロボロの野球帽が生まれた。
「もう、コレ、お父ちゃんの形見やね!(笑)」
〈ジーーー〉
「ハイ!チーズ!(笑)」
ひとりで三脚立てて記念撮影するシュウ。
そのフィルムを現像に出すと、
いつも・・・
「シュウさん!また写っていますね!(笑)」
「ホント?!(笑)」
写真に写る人影を、
嬉しそうにお母ちゃんと眺めるのが、
シュウは好きだった。
「コレ、お父ちゃんね!(笑)」
「そうやろ!(笑)」
「また、撮ってきとうと!(笑)」
「うん、わかったよ!お母ちゃん!」
(制作日 2021.8.11(水))
※この物語は、フィクションです。
今日は、
このシリーズを書きはじめて、
「69」作品目!
「69」と言えば、
CHAGE&ASKAファンなら、
『NとLの野球帽』が出てくるものです。
そして、
きのうになりますが、
8月10日は、
2016年8月10日発売、
Chage アルバム
『Another Love Song』
発売から「5周年」を迎えました。
このアルバムに、
ソロバージョンで、
Chageさんがセルフカバーした
『NとLの野球帽』が収録されています。
以上のことから、
今日のお話を書いてみました。
Chageさんは、
もともと北九州の小倉に暮らし、
その後、博多に引っ越しています。
チャゲアスのコンサートでは、
大変盛り上がり、
会場中が「Wo~Wo~Wo~1969」と大合唱。
ソロならしっとりかな。
歌詞のせつなさと懐かしさが、
沁みるChageさんの名曲です。
※「野球帽」は歌詞では
「ベースボール・キャップ」と読んでいます。
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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参考にした曲は
CHAGE&ASKA
『NとLの野球帽』
作詞作曲 CHAGE
編曲 重実徹
☆収録アルバム
①CHAGE&ASKA
『CODE NAME.2 SISTER MOON』
(1996.4.22発売)
②Chage
『Another Love Song』
(2016.8.10発売)
※セルフカバーバージョン収録
YouTube
【CHAGE and ASKA Official Channel】
『NとLの野球帽』2000年ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=FfGdlN_X2ZU
【Chage Official Channel】
『NとLの野球帽』Chageソロライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=_10iG1GJ83E