【超ショートショート】(135)~自分の存在を月に見る~☆ASKA『月が近づけば少しはましだろう』☆
どんなに愛しても、
どんなに努力しても、
どんなに・・・。
十六夜月(いざよいのつき)の空を眺めながら、
今日は満月かと勘違いして歩く人。
今日は、特に良いことも悪いこともなかったと、
悩みがないことを悩んでいた。
下弦の月(かげんのつき)の日に、
少し嫌なことを言われてしまった。
「君はこんなことも出来ないのか!
君の代わりなんていくらでもいる!
そんなに仕事したくないなら止めちまえ!」
と。
精一杯やってるつもりだが、
何をしてもうまくいかないのか?
人間関係の相性が悪いだけなのか?
それとも、自分はこの世には必要無いのか?
新月に向かう三日月を見た時、
心の中に「月の剣」を備えようと、
これまで貯金してしまった
他人(ひと)から与えられた
自分にとっては要らない言葉を
「月の剣」で粉々にしてみる
イメージを抱いて眠りに入る。
朝の駅、発車のベルが鳴る!
「急がなきゃ!」と駆け出そうとすると、
まだベッドの中。
でも目の前には駅が見えている。
ベッドにパジャマのまま横たわる自分を、
発車のベルで走る通勤者に
不思議な顔をされながら、
自分がまだ夢の眠りの中にいるものだと思い、
通勤者の視線から逃げるように、
布団を掛けてもう一度眠りに入る。
スマホの目覚ましから、
小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「今日は日曜日か」と、
曜日ごとに目覚ましの音色を変えていた。
日曜の朝はゆっくり、
テレビもスマホも見ない。
洗濯物を干そうとベランダに出ると、
青空に白い月を見た。
「今日は上弦の月か?」
朝10時、日曜日の読書の時間に、
慌てたようにスマホが鳴った!
「おい!お前!今日は大事な会議だと、
きのう確認しただろう!
今、どこにいるんだ!(怒)」
「今、自宅です。
でも今日、日曜日ですよね!
会議は、月曜日じゃあ?」
「今日は月曜日だ!バカもん!」
急いで、仕事の資料をまとめて
出社した。
その日の帰宅の途中、
夜空にはまた三日月が浮かんでいる。
朝見た月と夜の月、
今自分はどこを生きているのか、
わからなくなったと、
心が呟いた。
怒られ過ぎて疲れきった身体を
ベッドに転がせた。
そのまま、気づかないうちに、
涙を流しながら眠った。
夜中、消防車のサイレントの音が
けたたましく鳴る騒ぎに、
目を覚ました。
ベランダの外は、
消防車のライトの赤色で真っ赤に
夜空まで染めていた。
部屋のドアを執拗(しつよう)に叩く音!
「大丈夫ですか!
いらっしゃったら、出て来てください!」
あまりにもしつこい消防士の大声に、
「どこかの部屋と間違えたのだろう」と思い、
「火事はこの部屋じゃないですよ!」と
教えてあげようと、玄関に急いだ。
ドアを開けると、
数人の消防士が一斉に入室。
「大丈夫ですか?」と一人の消防士が、
身体を抱いてくる。
「あっ!私は大丈夫です!何があったんですか?」
「いいえ!あなたの無事を確認にきたのです!」
「なぜ?」
「今朝方、会社の方から、
あなたと連絡がつかないと通報がありまして、
それで安否確認に来た次第です。」
「安否確認って、大袈裟な(笑)」
数人の消防士に自分の無事を確認してもらい、
すぐに帰ってもらおうとしたら、
消防士たちが一斉に襲いかかってきた。
ベランダの外では、
再びサイレントの音がけたたましく鳴り出した。
新月の夜、
月明かりがないとこんなにも暗くなるのかと、
心の暗さを現すように、
帰宅の道を暗くした。
部屋に戻ると、
部屋のライトの眩しさに、
立ちくらみを感じるほど、
明るい場所が怖くなった。
すべての電気を消し、
星だけの星空を眺めて、
こんなことを呟いた。
「自分はこの世に必要なのか?」
「自分は報われることはないのだろうか?」
「幸せってなんだ?
自分には永遠に手に入らないものなのか?」
と。
夜中、満月が見えるベッドの上で目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
と言われて。
そのうち声のする方を見ると、
白衣を着た医者が立っていた。
穏やかな微笑みを浮かべた
女優の和久井映見ちゃんみたいな女医さんだった。
「どうしましたか?(笑)」
「えっ?」
「だいぶ魘(うな)されていたみたいですけど、
悪夢でも見ましたか?(笑)」
「悪夢?」
「そうです!悪夢です!(笑)」
「あの、ここは?自分は?」
その女医さんは、
どうして自分が病院に入院しているのか?
どうして心の病になっているのか?
すでに1ヶ月の入院であることなど、
尋ねられることすべてに
笑顔で優しい話し声で答えた。
「自分はこの世に必要無い人間ですか?」
「そんなこと誰が言ったんです!(笑)
私ね、あなたからお話を聞いてから、
あなたの上司を呼びつけて
叱ってやったんですよ!(笑)」
「どうして?」
「だって、あなたを苦しめたじゃないですか。(笑)」
「・・・」
「世の中に必要の無い人なんていませんよ!(笑)」
「でも、それはお医者さんだからそう言えるんでしょう?
自分は何の取り柄もない、才能のない、
つまらない人間です。」
話せば話すほど落ち込む自分を見て、
一瞬笑顔を困らせたような表情で、
女医さんはこんな話をした。
「あなたのことを心配している人は
たくさんいるんですよ!知りません?」
「えぇ。」
「あなた、毎日通勤する道で、子供たちに
挨拶するそうじゃないですか?
ある日は、近所の奥さんのゴミ出しを手伝ったとか。
それに、会社の近くのコンビニで、
毎朝必ずコーヒーを買うそうですね。
その時、わざと50円のお釣りが出るように
支払いをして、
レジ横の募金箱に入れるそうじゃないですか?
それも平日はほぼ毎日。」
「何で知ってるんですか?」
「これね、あなたにプレゼントなんですよ!(笑)」
「何ですか?これ。」
一冊のA4サイズのファイルノートを渡された。
「ほら!見て!(笑)」
「はい。」
そこには、女医さんが話した人が、
写真とともにメッセージが書いてあった。
「これね!あなたが入院したと話したら、
えーと(写真の中の少女を指差しながら)
この女の子が、お見舞いにアルバムを作ろうと、
提案してくれたの。(笑)」
「・・・」
「子供たちは学校があるから、
代わりに私があなたの家の近所や会社、
ご両親や昔の同級生にも書いてもらったのよ!(笑)」
「・・・」
「これ読めばわかるはずよ!
みんなあなたを必要としている!
あっ!私のお気に入りはね、このお婆ちゃん。
毎週土曜の夜に、お弁当を2つ買って来るそうね!
それでお婆ちゃんと一緒に食べるって(笑)」
「えぇ、このお婆ちゃんは一人暮らしで、
昨年の冬に心臓の発作を起こして
家の前で倒れていたんです。」
「それをあなたが助けたって、
嬉しそうにお婆ちゃん話していたわ!(笑)
〈若い頃の旦那さんにそっくりでカッコいい!〉
って、あなたに恋してるみたいだったわよ!(笑)」
「・・・(照)」
「お婆ちゃんにあなたの入院を話したら、
また倒れるかもしれないと言わないでいたら、
私が訪ねた時には知っていたみたいで、
このメッセージも喜んで書いてくれたわ!(笑)」
「・・・」
「お婆ちゃんがね、
〈命に関わるような病気じゃあ無いですよね!〉
とあなたの病気のことを尋ねるから、
〈大丈夫ですよ!お婆ちゃんの愛があらば
少しずつゆっくり良くなりますからね!〉と
話したらとても安心されたわ!(笑)」
「えぇ。」
女医さんは、
少し沈黙になると、
こう話して病室をあとにした。
「もう1人でも眠れるかしら(笑)」
「はい。(笑)」
「じゃあまた明日!」
「おやすみなさい!(笑)」
女医さんからプレゼントされた
たくさんの人の
自分を心配するメッセージや
回復を応援する写真を見て、
ようやくこの世に生きている実感を
心が熱くなるように感じた。
こぼれる涙で大切なプレゼントを汚さないように、
ベッドの柵に立て掛け、
みんなに見守られるように、
十三夜の縁起の良い月明かりに守られながら、
穏やかに眠りに入れた。
翌朝、
お見舞いにたくさんの人がやって来た。
あの自分にひどい言葉をくれた上司も一緒に。
「これは夢ですか?先生。」
と尋ねる自分に女医さんは、
「これが現実です!今まで見ていたのが
あなたが自分で作ってしまった悪夢だったんですよ!」
「自分で?」
「そう!自分で!(笑)
みんな、あなたのことを要らないなんて
思ったこと無いって。
もう逃げずに、もう一度生きてみませんか?(笑)」
「・・・(涙笑)」
(制作日 2021.10.16(土))
※この物語はフィクションです。
今日は、
2012年10月16日発売
ASKA初のMOOK本『ぴあ&ASKA』
発売から今日で「9周年」になります。
この本中の特集記事に、
著名人からのメッセージが掲載されています。
KANさん、スキマスイッチさん、中島史恵さん、
中田裕二さん、中野浩一さん、ビビる大木さん、
藤巻亮太さん、星野源さん、村田修一さん、
吉田秀彦さん、和久井映見さん。
その和久井映見さんへのQ&Aを参考に、
今日の選曲となりました。
~~~~~
ーーお気に入りの1曲と、その理由は?
(和久井映見さんの答え)
「新たにカバーされた「めぐり逢い」ももちろん、
大好きな楽曲がたくさんありすぎて1曲を選ぶなんて
本当はできませんが・・・・・依然、仕事で大きな
壁にぶつかって自分の心の中が弱くなってしまった
ときに、ASKAさんの歌にたくさんチカラを
いただいて、乗り越えられた事柄ありました。
そのとき聴かせていただいた曲の中から
『月が近づけば少しはましだろう』。
いまも大好きな1曲です。」
~~~~~~
落ち込む心を見ないように逃げてみるけど、
心からは消えなく、ただ増えていく日常。
どんなに努力しても、
やっぱり無力にしか感じない。
「一体自分の存在とは?」
と、どうしても考えることもあると思います。
そんな時の人の姿を歌詞をヒントに
書いてみました。
心の病気という設定ではありますが、
本当の病気ではないつもりです。
孤独という病のようなそんな心情から、
女医さんの計らいによって、
見えていなかったものが
やっと見えるようになった。
人は、必ず誰かの助けを受け、
また助けられていると。
だから、
世の中に必要の無い人はいない。
夜の月を見ながら、
そんなふうに思えたらいいなと思います。
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
~~~~~~
参考にした曲
ASKA
『月が近づけば少しはましだろう』
作詞作曲 ASKA
編曲 十川ともじ
☆収録アルバム
『NEVER END』
(1995.2.27発売)
『12』
(2010.2.10発売)
YouTube
【ASKA Official Channel】
『月が近づけば少しはましだろう』ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=SslOTeVhe8s
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