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戸越銀座の話 〜その2〜


日曜日。朝10:00起床。
気持ちいいぐらいの晴天だ。
ハンモックでも意外と心地良く寝れたことにちょっと驚いた。起きると先輩と奥さんは既に起床していて、部屋の掃除をしていた。

私もハンモックを片付けて、先輩夫婦と出発の準備をする。

戸越銀座商店街は東京の中でも、最も歴史が長く
商店街でよく使われる「〇〇銀座」という名前の発祥の地だ。

大正12年の関東大震災で、銀座のレンガ造りの街並みが壊滅的な被害を受け、大量のレンガの処分に困っているという話を戸越の住民が聞きつけた。そのレンガを水捌けの悪い通りに敷き詰めて歩きやすくしようと、戸越の地に銀座のレンガを敷き詰めたことが戸越銀座の由来らしい。

商店街の全長は1.3km。都内の商店街の中でも
かなり長い商店街で、お店は300店舗以上ある。
食べ歩きの街で、特にコロッケが有名だ。


先輩の家はちょうど商店街の端(入口)にあるため、そこへ向かう。端から端まで見れそうで良かった。

商店街入口に着いた瞬間、唖然とした。


長ーーーーーーーーーーーーーーい!!!! 

なんなんだこの商店街の長さは!!

一本道で奥の方まで見通せるほどの圧倒的な長さ。そして尋常じゃないほどの人の数。
感覚的には表参道ビルズから原宿駅方面に向かう道ぐらいの多さだった。
(都会ぶりました。ごめんなさい。)

なによりも見渡すほどのお店の多さ。10歩進めば次の飲食店が出てくる。

この街に住んだらあっという間に太って、まん丸になって、最終的には球体になって、フジテレビに丸の部分に置かれる。と、くだらない妄想をしてしまった。

いざ食べ歩きスタート。実食。

唐揚げ

たい焼き

お好み焼き

焼き鳥

餃子

また唐揚げ

焼き小籠包

おでん

コロッケ

ソフトクリーム

た、食べ、、、過ぎ、、た、、

これだけ食べてもまだ商店街の2/3程度。
なんと誘惑の多い街。しかも行ったお店の先々でオマケまでつけてもらう始末。

東京でもこんな下町みたいな街あるんだなと感動した。

ちなみに前にも話したかもしれないが、私はよく知らない人に話しかけられる。
この日もそれが見事に炸裂し、行く先々で商店街の人と延々と喋りながら食べ歩きを楽しんだ。
(先輩は顔が怖いからあまり喋りかけられていなかった。性格は割と優しいんだけどね)


帰り際、先輩夫婦が不動産屋に行こうという。
話によると、先輩夫婦が家を探していたときに、たまたま不動産仲介業者の人と仲良くなって、時間があるときお店に行っては雑談をするらしい。

完全に先輩夫婦の都合ではあったが、私もついて行くことにした。

不動産屋に行くと、店には誰もいなかったが
夏の暑さに負け、しばらく店内の冷房にあたり涼んでいた。

5分後、外から従業員と思われる女性の人が入ってきた。年齢的には母親と同じぐらいだろうか。

「ごめんねーー!待ったー??今日は何してたの??」と従業員。

どうやらこの従業員が先輩夫婦と仲良くなった人らしい。

「今日は食べ歩きしてるんです。大学のときの後輩も連れて来ました。」と先輩。

さらに先輩が続けざまに一言。

「後輩がこのあたりで部屋探してて、どっか良いとこあります??」


えっ?

はっ?

えっ?

言ってないんですけど。
そんなこと一言も。

「じゃあ探すからちょっと待って!何か希望とかある?」と従業員。


いや、ちょっと待って欲しいのはこちらの方なのだが。

そんなことを言わせる暇もなく、何故か先輩夫婦が色々と条件を言ってきた。

「とりあえず駅近でしょ?家賃は7万弱ぐらいで、
料理するからキッチンは広い方がいいよね?
トイレと風呂は?ユニットバスでもいいか。オートロックは要らないか。男の子だし。」


いや、そういうのは普通、選ぶ側が言うものじゃないのか。

一体何なんだこの夫婦は。
夫婦の言動はもはや狂気を超えていた。

私もなんとなく根気負けをくらい、渋々幾つか条件をあげた。というかあげてしまった。

従業員はその条件を元に、3物件ほど候補をあげた。情報を見る限り、この地区(品川区)にしては比較的安くて良い物件だなという印象。

「午後も特にやることないし、内覧しようぜ。」
と先輩が言う。


はっ?内覧??

い、今から???

住むわけでもないのに??

心の中でダチョウ倶楽部ばりの
「聞いてないよぉ〜」が炸裂した。

が、せっかく調べてくれた従業員もいる前で
内覧を断ることはできない。
先輩夫婦、従業員と私で内覧へ行くことに。
部屋の内覧をするのも大学入学前以来だから、7年ぶりになる。

1軒目と2軒目は電車の騒音が気になったり、和室があまり好みではなく、そそくさと移動。

3軒目は超駅近。もはや駅に住んでいると言っても過言ではない。
住宅設備もかなり充実しており、部屋の大きさも一人暮らしには充分なものだった。家賃もお手頃価格。
何故こんな有料物件がこんなに安い値段なのか。
事故物件かと疑ったぐらいだ。

従業員も先輩夫婦もこの部屋を1番気に入り
「もうこの部屋に決定だな。」と言った。

だからちょっと待て。決めるのはこの私なのだ。
「と、とりあえず少し考えさせて下さい。」
となんとかその場を凌ぐ。

「早くしないと、この部屋借りられちゃうよ。」と従業員。焦らすのか、この商売上手め。

「家で考えてから、もう一度連絡します。」と言い、その日の夕方になんとか解放された。


1日ぶりに自宅に着く。
コーヒーを飲んで一息して、改めてじっくり考えてみた。

確かにあの街は圧倒的に住みやすい、お店も沢山あるし、東京とは思えないぐらい人情味がある。
本当に人が良い。
交通の便も良い。今だと会社まで45分の電車移動だか、ここに住めば20分弱で済む。
品川駅も近く、実家(静岡)にも新幹線一本で行けるし、近くに首都高の入口もある。

そしてなにより、あの商店街を歩いた時、何故か不思議と懐かしい感じがした。 

何なんだろう、この感覚は。
思い出して、ようやくわかった。

そうだった。

私自身もともと商店街で育ったんだった。

幼稚園の時、よく婆ちゃんが自転車の背カゴに私を乗っけて、商店街で買い物してたのを思い出した。

馴染みの店で毎回オマケしてもらって、なんならお店の人がお小遣いもくれて、背カゴに乗ってるだけで「偉いねぇー」ってよく褒められてた。

小学生になって駄菓子屋でお菓子買って、近くの公園で陽が落ちるまで遊んで、中学生になって
塾前に友達とコンビニの前でくだらない話しして、高校生になって、スーパーで夕飯の買い物して。それもこれも全部商店街での出来事だった。


なんか懐かしくなってきたな。

あの街に住んだら毎日が楽しいんだろうな。







次の週の土曜日。


「あれ!どうしたの?」従業員が私を見て驚く。

「今日は一人なんです、先輩夫婦にも内緒で笑」


私は決めた。

ここに住むと。

本当は下北沢とか高円寺とか住んでみたいところはあったけど、これも何かの縁だ。
人生一度きりだし、どうせなら楽しく生きたい。

その日のうちに、必要な書類を用意してもらい
さらに翌週には引越し業者に荷物を取りに来てもらい、その2日後には完全に引越しが完了した。
(荷物が少なくて良かった)

初めて戸越銀座に訪れてから約20日。
8月初旬に初めて来た街に、8月末を待たずして
引越ししてしまった。

つくづく思うが、自分の行動の速さには、毎回
自分が1番驚いている。
(やればできるしゃないか。日頃からそのぐらい頑張れ)

引っ越ししたその日に、先輩夫婦が豪勢な食事を振る舞ってくれた。
ここまでしてくれたし、ハンモックと不動産屋の件は許してあげよう。

なにわともあれ、ここから私の新しい生活がスタートする。

沢山お店を開拓しないと。
友達も呼んでみんなでご飯食べて、馴染みのお店ができたら案内しよう。

もっと日常が楽しくなるといいな。


〜余談〜

戸越銀座に住んで早4年が経つ。

月日が流れるのは本当に早い。
この4年間で本当に色んなことがあった。

馴染みのお店ができて、土日は入り浸ってお店の人とお話ししたり、自分でもコーヒーのワークショップをやってみたり、知り合いや友達だってできた。

やっぱり商店街って楽しい。
改めてここに来て良かったなと実感している。

オススメのお店はまた今度紹介するとしよう。

先輩はというと、子供が生まれ夫婦3人で楽しく生活している。私が子供の面倒を見ることもしばしばあり、成長の早さに驚くばかりである。

そんな先輩が、今年の冬に埼玉県へ引越ししてしまうという。

少ーーしだけど、寂しくなるな。

この際だと思って、先輩へ聞いてみた。
「なんであの時「部屋探してる」なんて言ったんですか?」と私が聞くと

「いや、だってお前がここに来れば、夫婦喧嘩したときに逃げ場ができるじゃん。」


「。。。」

相変わらず返す言葉もない。

そんな理由でここに住まわせようしたのか。
なんと恐ろしい夫婦め。

そして、そんな計画にまんまとハマってしまった私って一体。。。

兎にも角にも、これからも戸越銀座の生活は続く。

あといつまでいれるかな。

「好きですこの街 とごしぎんざ」


おわり。















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