『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン』を読んで 心の扉が開く瞬間


はじめに

千葉大学の農福連携プログラムの吉田先生が推薦されていた、『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン』をアマゾンで購入しました。
届いた本を手に取った瞬間、その力強い筆致で描かれた表紙に引き込まれました。思わず声に出して読みたくなる「ガ・ガ・ガーン」というタイトル。これは、書店の児童書コーナーでも、図書館や学校の図書室でも、きっと推薦図書として一際存在感を放っているに違いない、そんな風格のある一冊です。 読み始めてすぐに、これは単なる児童書ではないことが伝わってきました。むしろ、大人だからこそ心に深く響く物語が、この中に息づいているのです。
400年という歴史を持つめねぎ農園を舞台に、人々の心の機微と成長を描いた本書は、私の心に優しくも力強く語りかけてきます。 農福連携という、農業と福祉の新しい可能性を追求する中で、この物語が持つ意味の深さに、私は心を揺さぶられました。
この物語には、誰もが心の中で向き合ってきた『違い』への戸惑いと、その先に広がる温かな世界が描かれています。その眩しいほどの優しさに満ちた物語をご紹介したいと思います。


物語の中に息づく「生きた農園」

主人公のすずきさんは、400年以上の歴史を持つめねぎ農園の社長です。伝統あるめねぎ作りに誇りを持ち、日々真摯に向き合う姿は、読者の心に深い印象を残します。
物語は、ある日やまだ先生が障がいのある二人を農園で働かせてほしいと訪ねてくるところから動き出します。
これまで障がい者と関わったことのないすずきさんは、戸惑いと不安を抱えます。その心情描写が、力強く朴訥とした絵柄によって見事に表現されているのです。一見素朴に見える絵には、登場人物それぞれの個性が生き生きと描き込まれており、読者の頭の中で彼らが動き出すような不思議な魅力を持っています。

「ガ・ガ・ガーン」という心の扉

物語のタイトルにもなっている「ガ・ガ・ガーン」。この擬音は、単なる効果音以上の意味を持っています。
それは、人の心に新しい扉が開く瞬間の音なのです。すずきさんが抱える葛藤と、それを乗り越えていく過程は、私たち読者自身の心の中にある無意識の壁にも気づかせてくれます。
特筆すべきは、この物語が決して教条的ではないという点です。登場人物たちは、お互いを理解し、受け入れていく過程で、自然と思いやりの心を育んでいきます。それは、まるで農園のめねぎが、すくすくと育っていくように、ごく自然な営みとして描かれているのです。

働くことの本質的な意味

この絵本は、「働く」ということの本質的な意味についても、深い示唆を与えてくれます。農園という場所は、単なる労働の場ではありません。そこは、一人ひとりが自分らしさを発揮し、互いに認め合いながら成長できる豊かな土壌なのです。
障がいのある従業員たちが農園で働き始めてからの変化は、読者の心に深い感動を呼び起こします。それは、多様性を受け入れることで生まれる新しい可能性への気づきであり、共生社会の実現に向けた希望の光なのです。

「居心地の良さ」が育む可能性

物語の中で特に印象的なのは、農園という場所が持つ「居心地の良さ」です。
それは、誰もが自分らしくいられる空間であり、自然と頑張る力が湧いてくる場所として描かれています。この「居心地の良さ」は、決して偶然に生まれたものではありません。お互いを認め合い、支え合う関係性の中から、少しずつ育まれていったものなのです。

おわりに - 広がる希望の輪

この実話をもとにした絵本が伝えているのは、共生社会への確かな希望です。読み終えた時、私の頬を伝った涙は、感動と共に、このような取り組みが日本中に、そして世界中に広がってほしいという切なる願いの表れでもありました。
一つの農園から始まった小さな変化は、きっと大きな波紋となって広がっていくはずです。この物語が示す未来図は、決して遠い理想ではありません。私たち一人ひとりの心に「ガ・ガ・ガーン」という音が響き、新しい扉が開かれることから、その歩みは始まるのです。
子どもたちに読み聞かせながら、大人も共に考え、感じ、成長できる―そんな貴重な一冊との出会いに、心から感謝しています。この本が多くの人の手に渡り、優しさと思いやりに満ちた社会づくりの一助となることを願ってやみません。

  • 終 -

この物語に出会えたことで、私は一人ひとりの中に眠る可能性の輝きを教えていただきました。人と人とが出会い、理解し合おうとする時に生まれる、このかけがえのない温もりを、一人でも多くの方と分かち合えたら嬉しいです。この物語との出会いが、皆さまの心にも「ガ・ガ・ガーン」と響きわたる、そんな素敵な出会いとなることを願っています。

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