創造のための破壊を(後編)

-10月20日早朝 グラウンドにて-

ぼくとロベルトさんはグラウンドで対峙していた。
人格コアを破壊する目的…の方便として決闘を用いるためだ。

「ロベルトさんー、胸をお借りしますねー。...まあ、破壊するんですけど。」

ぼくは銃を構え、ロベルトさんへと向ける。
ロベルトさんの表情は…いつも通り仮面に阻まれ読めない。

「へへ。……ああ。持っていってくれよ」

「恐らく破壊した今日という日の記憶は消えてしまいますがー。何か聞いておきたいことはありますかー?」

…特に話す理由はなかったのだけど、聞いてしまったのは恐らく後ろめたさのせい。
記憶に残らないけども一応破壊に同意してもらった。
多少後ろめたさはもちろんある。だって大切な友人ではあるから。
せめてその免罪符の為…答えられることは言っておこう。
それに意味がないのはわかってはいるけれど。

「んー、そうだな……くどいようだけどさ。おいら以外には、手を出さないんだよな?」

ロベルトさんは少し悩み、前回聞いたことを念を押すように返す。
それに対する答えも前回と同様でもよかったのだけど、気が向いてしまったのか、話してしまった。

「…前にもいいましたが、ロベルトさんのコアを破壊する前は誰も。」
「前には、ねぇ……」

視線が刺さる。
…はは、やっぱり勝てないや。
ぼくはすべて言うことにした。

「…やっぱりだめだ。ぼくにはごまかすことなんてできそうにもない。…ぼかしておいた部分を言ってしまいますね。…ロメリアさん、あるいはアルスさんをドールとして復活させるためには権利と代償と…身体が必要です。」
「へぇ……」
「権利はお察しの通り。代償はこのぬいぐるみ…そして身体は…特別なドール…セイさんのものが必要なんです」

「とある方に…そう教えていただきました。」

…人格コアを破壊され復元されたドールはその日の事象は記憶に残らない。
だから今言っても残ることはないから意味はない。
…そんなことはわかってはいるけれど。

「ロベルトさんの人格コアを破壊した後、すぐさまキッチンへ向かいます。
…あとは、まあ。お察しの通りです。」

「…ぼくは必要ならばなんでもやることにしました。…それがどんなに許されないことでも。」

…言わなくてもいいことであることはわかってる。
それでもぼくは…言ってしまった。
口から出た言葉は返らない。

「そうか……それが、あんたの選んだ道なんだな。教えてくれてありがとうな」
 ロベルトさんは少し俯いて、「へへへ」と笑う。
「それを知った以上、おいらも黙って受け入れるわけにはいかなくなったよ」

 ロベルトさんはそういうと、抜く手も見せずに懐のナイフを取り出し、ぼくへと切りつけてきた。
ぼくは間一髪でそれを避け、距離を取る。

…あぁ、今のロベルトさんはそう動くのか。
自分が犠牲になるのは構わないが、他のドールに関しては話は別。
止める為なら…自分から動くことも厭わない。

「…おっと、危ない。そうですかー。まあそりゃそうですよねー。…それでも、ぼくの願いの為ー。…やらせていただきます。…決闘。開始です。」

ぼくは改めてロベルトさんへと視線を合わせ、銃から弾丸を放つ。
ロベルトさんの胸元へ真っすぐ向かったそれは…体をそらすことによって避けられた。

「…まあ、これくらいは避けますよねー。それならこうしましょー。」

ぼくは向かってくるロベルトさんへと蹴りを入れる。
もちろんそれは避けられるが…目的は別。

ぼくはそのまましゃがみ込み、影に手を当てる。

…縫合魔術。
影を縫い留め動きを止める魔術だ。
ロベルトさんは避けた体勢のまま動かなくなる。

「…勝負あり、ですか?」

動けない状態ではロベルトさんにやれることはほぼないだろう。
同じことをされないよう影がロベルトさんの体に当たらないように回り込み、銃口を向ける。

『へへへ……さすがにこれは……どうしようもない、かな』

頭の中でロベルトさんの声がする。そうか、動けないから喋ることもできないんだった。心底悔しそうな声は、少しだけ笑っているようにも聞こえた。

「獣化で影の形を変えることもできないみたいですからねー。では、すいませんが、いただきます。…このことは恐らく覚えていませんし、次に目覚めるときは別のロベルトさんだとは思いますけど…おやすみなさい。また明日。」

言うだけ言って終わらせることにする。
友人を手にかける、その事実に感情が追いつく前に。
…願いの為にやれることをすべてやると誓った覚悟が鈍らないように。
ぼくは引き金に手をかけ、魔力でできた弾をロベルトさんの胸へと放った。
…大きな穴が開き、何かが砕けた音がした。
…ロベルトさんが動かなくなったことを確認すると、念のため胸に空いた穴に手を入れる。
何かの破片が手に当たる。
…恐らく、大丈夫だろう。

ぼくはもう一度ロベルトさんに向き直り、軽くお辞儀をする。

「…ここまでやってしまった以上、もう止まることなんてできないんです。ごめんなさいー」

…あぁだめだ。最近つい独り言をつぶやいてしまう。
誰かに聞かれでもしたら問題でしかないのに。
…誰かが来る前にやることをやってしまおう。
ぼくはそのまま寮へと戻る。
…次の行動に移るために。


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