春エリアの一角にカフェができた話【#ガーデン・ドール】【ガーデン・ドール作品】
ぼくはヒマノ・リードバック。
10月も終わりに差し掛かる頃。
ガーデンにカフェが生えた。
…いや、いつものことながら生えるって何?
まあ、ガーデンのことだ。細かいことは気にしては駄目な気がする。
これは、カフェに行った時のお話。
「お邪魔しまーす」
ぼくは春エリアの一角に生えたカフェの扉を開ける。
「いらっしゃい!ヒマノちゃんだったよね!来てくれてありがとう〜!
カウンター席とソファ席とテラス席があるよ、好きなところに座ってね」
すると、ぬいぐるみのような、なんとも不思議な存在が渋い声で嬉しそうに
案内してくれた。
タルトさん。このカフェの店長だ。
「覚えていてくださったんですねー。ありがとうございますー。店長ー。」
ぼくはカウンター席に適当に腰を掛けると、メニュー表を持ってきてくれた。
「こちらがメニュー表だよ。どれも1品ご褒美ジャーキー1枚で頼めるよ!」
ぼくはメニュー表を確認する。どれどれ…
【ドリンク】
・オリジナルブレンドコーヒー
・オレンジジュース
・クリームソーダ
・ピンクレモネード
【スイーツ】
・動物モチーフのパンケーキ
・シュークリーム
・苺ミルフィール
・肉球マカロン
【軽食】
・サンドイッチ
・ピザトースト
・ミニクロワッサン
・ミニハンバーガー
…結構思った以上にメニューが多い。
しかし一つにつきジャーキー一つか。
ぼくは今一つしか持ち合わせがない。
そうなると…パンの味でも見ておこうか。
「おっとー…一つしか買ってませんでした…そういうことなら…ミニクロワッサンをくださいー」
「はーい、少々お待ちくださいねー!」
そういってタルトさんはカウンターの奥へ引っ込んでいき…
しばらくするとお皿にミニクロワッサンを入れて戻ってきた。
パリッとしていて美味しそうだ。
「ありがとうございますー。あ、こちらお代です」
ぼくは忘れないようにジャーキーを手渡しする。
「はーい、たしかにお預かりしましたー!
受け取ったのを確認すると一口食べてみる。
…パリッとしていて、バターの味もしっかりあって。
これは…おいしいな。悔しいけど今のぼくにはまだこの味は出せない。
「では、いただきますー。んむ…これはおいしいですね、負けてられません」
「ヒマノちゃんもお料理するの?えへへ、口に合ったなら良かった!」
味の感想を聞いたタルトさんはとても嬉しそうだ。
この方もやっぱり人が美味しそうに食べる姿を見ることが好きなのかもしれない。
美味しい食事には楽しい会話を。
ぼくは色々と考えながら返事をする。
「主にパンを良く作りますねー。しかしこのパリパリ、どれくらいの温度で焼けばできるのか気になりますねー…ああ、気になるといえば」
食べるのに夢中で少し忘れていた。
ここに来たもう一つの目的。
タルトさんがガーデンに持ってきた貼り紙にはこう書いてあった。
「さらに、来てくれた方には、ひみつの魔法も教えちゃうかも……?」
ひみつの魔法。
ぼくたちドールが使える魔法と何が違うのだろう?
そう思って聞くことにした。
「秘密の魔法って…なんですかー?」
ぼくのその問いに、特に表情を変えることもなく答えてくれた。
「やっぱりガーデンの生徒なら魔法は気になるよね!じゃあ、魔法の説明をするからよーく聞いてね!ちょっと長くなるかも……」
そう前置きを置いて、続ける。
「ボクが教える魔法は基本魔法でもクラス魔法でもない……世界にひとつだけの魔法。きみだけの力だよ」
クラス魔法とも魔術とも違う…自分だけの魔法
…全くイメージがつかない。
「…自分だけの…」
「どんな魔法を覚えるかはボクにも分からない。
覚えられるのは基本的にひとつだけ。魔法が気に入らなかったら上書きもできる。
どう?他に質問はあるかな?」
ぽかーんとするぼくにタルトさんは変わらぬ様子で聞いてくれる。
…聞きたいことはたくさんあるけれど。
まずは…
「そうですねー、その魔法は、どうやって選ばれるのですか?ぼくたちの、思想によるもの…?それとも特に決まったものはない?」
「……運かな☆」
「…運、ですか。」
どうやら完全にランダムらしい。
…心を読むことができるとか、そういうものではないのか。
少しがっかり。
それでも…自分しか使えない魔法というものには興味がある。
「面白いですね。では教えていただけますか?それとも何か他に必要なものがありますか?」
「魔法を覚えるのに必要なものは……ご褒美ジャーキー5枚だよ!」
五枚。
もちろん今持ち合わせはない。
そもそもご褒美ジャーキーは常備するものではない。
バグちゃんから購入するものだ。
…ポイントの手持ち、あったかな。
「5枚…ちょっと待ってくださいねー、確認しますー」
「うん、待ってるね〜」
タルトさんはお皿を磨きながら待っていてくれた。
まずは、バグちゃんにポイント確認。
...よかった。残ってた。
次に、端末を通して注文する。
確か注文したものは部屋に直接届けられるはずだから…
ぼくはタルトさんに一言言って店を出て、部屋に取りに戻る。
…いつものことながら注文したものが届くのは一瞬なんだよな。
どういう仕組み何だろう?
…まあ、今考えることではない。
部屋に届けられたジャーキー5枚をもって店に戻る。
「おまたせしましたー、ご褒美ジャーキー5つですー」
「うん、たしかに受け取ったよ!じゃあ魔法を教えるね」
「ちなみに、この魔法の消費魔力は一律2割だよ。じゃあやろうか!」
タルトさんはそういうと1から10まで書かれた紙を裏返してシャッフルしてからテーブルの上に並べる。
「好きなものを一つ選んでね!」
「…これ。」
ぼくは目の前にあった紙を手に取る。
そこに書かれていた数字は…『4』。
その数字を確認すると、タルトさんは何やら手を向けて呟く。
…何か不思議な感覚がする。
どうやら何かが宿ったようだ。
「ヒマノちゃんに与えられた魔法……それは」
「ポケットからビスケットを無限に出せる魔法だよ!」
「この魔法はポケットを叩く度に2割の魔力を消費する代わりに、ポケットから溢れるほどビスケットが出てくるんだ!」
…はい?ちょっと現実味があまりなくて実感がわかない。
どうやらぼくはポケットをたたくたびにその中に溢れる量のビスケットを出せるようになったらしい。
「お、おう?なんだか面白そうですけど…」
試しに自分の服のポケットを叩いてみる。
モコモコ…
ビスケットがポケットの底から溢れ出す。
「おわぁ!?待って、多くない…?」
ぼくは溢れ出た一枚を手に取って眺めてみる。
手のひらに収まるくらいの長方形のビスケットだ。
とても良い色に焼けていて、おいしそうだ。
口に入れる。…うん、おいしいけど、紅茶が欲しくなる。
「あ、おいしい。」
「ありがとうございますー、何に使えるかはわかりませんが色々試してみますー。」
この魔法がどんな挙動を起こすのか、今後色々試してみる必要はあるけれど、中々面白いかもしれない。
…バンクさんとか、気にいるだろうか?
「うん!ちなみに、魔法を上書きしたい場合はご褒美ジャーキー10枚だよ☆
魔法を覚えるごとに5枚ずつ増えていくからよろしくね!」
「…なんと。」
上書きしようとすると今以上のコストがかかるみたい。
…しばらくはこの不思議な魔法と付き合っていこう。
ぼくはそう思った。
魔法を色々考察して一息ついた頃。
そろそろ帰ろうかと思ったぼくは帰りに聞くことにした。
「では、帰る前に2つほど聞かせてください」
「ひとつ、この魔法は他のドールのポケットを叩いても発動しますか?」
「ふたつ。覚える条件を他の方にも伝えて大丈夫ですかー?」
まずは挙動の確認。
自分以外のポケットを叩いても出てくるのか。
それ次第では急に使用して驚かせることができる。
…多分使う相手はあのドールだけど。
次に、他のドールに向けたもの。
5枚は普通は手持ちにない。
ぼくみたいに一度取りに帰るのも大変だろうし、共有しておいた方がいい。
「ポケットなら誰のポケットでもビスケットが出てくるよ!迂闊にポケットを叩かないように気をつけてね!
もちろん、条件はみんなに教えてくれたら嬉しいよ。ボクが1人ずつ説明するのは大変だからね……」
よかった。どっちも問題ないみたいだ。
…さて、そろそろ帰るとしようか。
「はーい、わかりましたー。」
「では、今日のところはこのあたりでー、ありがとうございましたー、またきますー」
「来てくれてありがとうね!バイバーイ!」
そういってカフェを出る。タルトさんも手を振ってお見送りしてくれた。
...うん、食べ物もおいしいし結構いいところだ。
またポイントの余裕があるときに遊びに行こうかな。
食べてないものも気になるし。
…まずは、この新しく覚えた魔法。
【ポケットからビスケットを無限に出せる魔法】
これについてよく知る必要がある。
…多分これ出す出さないの切替できない気がするし。
ぼくはポケットに残ったビスケットをつまみながら部屋へと戻った。
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