ぼくの世界が止まった日のこと。【#ガーデン・ドール】【#ガーデン・ドール作品】

ぼくはヒマノ・リードバック
12月1日。
イオサニさんと呼ばれる外から来た存在によってガーデンの機能が停止した日。
そしてアルゴせんせーによってガーデンが封鎖された日。

…ぼくは一体どうしたらよいのだろう?
それはそんな葛藤と決意のお話。

ぼくは藁小屋に避難していた。
そこは…元々アルスさんが住んでいたところにしてサングリアル…アルスさんだった
マギアレリックの置かれている場所。

ガーデンから離れることになって一番最初に思い付いたのがここだった。
セイさんが閉じ込められている額縁をもって。
…現在、セイさんにはもう一つの人格としてロメリアさんが入っている。
一緒に居たい。そのわがままの元、ビーチキャンプの時と同様に抱えて来たのであった。

避難したはいいけれど…さて、ここからどうしようか。

ぼくは傍らにある額縁に話しかける。

「…セイさん、今出てこれますか?」

つぶやきに反応したのか、額縁がガタガタと動き始めた。

…治まったかと思うと、そこには一体のドールの姿があった。

…セイさん。
理由はわからないが、額縁の中にいたドール。
…恐らく、ぼくたちがいる時代より前の、存在。

「はい?ヒマノさん、こんにちは~」

「ん、セイさんこんにちはー。何から話していいものかー」

…こういう状況ではありがたいことに、セイさんはいつも通りだ。
ただ…今の現状をどう伝えるべきか。
具体的に伝えても伝わる気がしない。
…ロメリアさんならともかく、セイさんには。

「……?なにか悩み事、ですか?」

どうやら顔に出ていたようだ。
…一応、要点だけ伝えてみようか。

「…ええ。…そうですね。セイさんに聞いてもいいですかー?」

「今まで当たり前のように過ごしていた場所が使えなくなって…それとは別に、一緒に過ごしていた人を止めなければいけなくなった時…セイさんならどういう選択をしますか?」

「…簡単に言うと、ガーデンにいられなくなっちゃいました」

「えええ!?それは……悲しいですね。私は集落に戻れてないので、似たような気持ちかもしれません……私には、どうすればいいか分かりません。でもヒマノさんには仲間がいますから……みんなで協力していくのが良いかなって思います」

…そういえばそうだった。
セイさんも自分のいたところに戻れず彷徨っている状態。
…ぼくには同じ時間を過ごす仲間がいるだけ…ましだとは思うけれど。

しかし…ほかのドールはどういう選択をするのだろう?
ぼくは…行動を起こした存在の意思は尊重したい。
何かがやりたくて起こした行動だから。
…それでも、自分の自由が損なわれるのは嫌だ。
…こういう時こそ、頼るべき、なのだろうか。

「…仲間…そうですねー。ありがとうございますー。そういうことなのでガーデンに戻るまでの間は、額縁はぼくがここで管理することにしますねー」

「分かりました。ありがとうございます!」

セイさんにお礼を言い、今後も管理することを伝えた。
セイさんにはこれでいい…はずだ。

…ロメリアさんにも聞いてみるとしようか。
意見は多い方がいい。
結局それを判断するのが自分だとしても。

「…さて、では…ロメリアさん」

ぼくがロメリアさんの名前を口にすると、セイさんの表情が変わる。
…少し柔らかな表情。
ロメリアさんに切り替わったようだ。

「……こんにちは、ヒマノ。どうかしたの?」

「こんにちは。ロメリアさん。実はですね…」

そういって事情を詳しく説明する。

ガーデンのシステムがイオサニという何処かからきた存在によって停止させられたこと。
教師AIのアルゴ先生によってガーデンにいられない状況となったこと。
その結果…アルスさんから作られたマギアレリックの設置されている藁小屋へ避難してきたこと。

「…というわけなんです」

事情を伝え終わると、ロメリアさんは少しびっくりしたような表情をする。
やっぱり意外だったようだ。こういう状況になることは。

「……ガーデンは止まるなんて、考えもしなかった。ヒマノは、これからどうするか決まってる?悩んでるところ?」

「…この不自由ながらも限られた範囲で自由にできる生活が、ずっと続くと思っていました。
そうですね。…まずは、アルゴせんせーを止める。それがせんせーの願いですし、そこから始めないと何も進まないから」

「…その後のことは、その時に考えようかとー」

「あちらさんも好き勝手やってくれたんです。ぼくもそれに応えねば不作法というもの、でしょう?」

…結局のところ、ぼくの意思は最初から変わっていないようだ。

行動を起こしたせんせーの意思を汲み取って相対する。
その上で...自分のしたいことをする。
それが自由意志というものであり、誰かの願いを踏みにじらない唯一の方法だから。

この世界は様々な思惑によって作られている。
だからこそ…それを尊重したうえで自由に自分の世界を作る。
それが一番大事なことなのではないだろうか。

…だからぼくは、ガーデンを止めたイオサニさんを許容する。
その上で…ここから出ることを拒否する。
アルゴせんせーの願い通りに壊れたガーデンに自分の世界を作る。
その上で…自分のやりたいとおりに動く。

自分の思考をまとめた結果、何かが少し軽くなった気がした。

「ふふ……そうだね。ヒマノもすっごくワガママになって良いと思うよ。ヒマノはガーデンの生活、気に入っているんだね。周りから勝手にそれは良くないものだと決めつけられて奪われるのは嫌だよね……」

もちろんだ。
ぼくはここが好きだ。
ここにいるドールたちも…そしてアルゴせんせーも。
だからこそ…自分の意志は通させていただく。

「そういうことですねー。好きなことが否定されることはどんな存在だっていやなはず…でもまあ、行動を起こすのは自由なのでぼくにできることは別の自由を押し通すことだけですよー」

「…自由を通した結果、ロメリアさんもここにいるわけですしね」

「そうだね……私の存在は犠牲の上に成り立ってる。それを背負う覚悟で、ヒマノは私を取り戻してくれた。……私にできることは少ないと思う。でも私はヒマノの味方だから、これからも自由を押し通してね。無茶しない程度に、ね?」

決意は固まった。
これまでも、そしてこれからもぼくは…気まぐれであり続ける。
それが設定されたものだったとしても関係ない。
ぼくがぼくであるために必要なことだ。

「ん、ありがとうございますー。そういっていただけると嬉しいのですー」

ぼくは、サングリアルの置いてある方へ足を運ぶ。
そして触れながら…呟く。

「…こういう形になってしまったけれど、ロメリアさんをここに連れてこれてよかった。
ここは、思い出の場所ですから。」

「…アルスさん、ロメリアさんを連れてきましたよー」

「……うん。私も、ここに来れて良かった。ありがとう、ヒマノ」

「きっと、アルスも見守っててくれてるよ。私たちのことを」

「…ええ。そうですね。」

そうであってほしい。
…本当はまた話をしたいけれど。
その方法がない今は望むことのできないことだ。

それから少し経ち、セイさんたちが額縁に戻ったことを確かめ、藁小屋を後にする。

「…行ってきます。」

…戦闘に必要なものをもって向かうは対策本部。

どうなるかはまだわからないけれど…アルゴせんせーの覚悟を見届けたい。
…本気を何よりも気にしていたあなたのために。

それがぼくなりの…本気の見せ方だから。

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