慣れ親しんだあの頃へ。【#ガーデン・ドール】【#ガーデン・ドール作品】
ぼくはヒマノ・リードバック。
これは多目的室に置かれた推定マギアレリックのピアターさん…。
その力の一端に触れた話。
時間を戻せるとしたら、あなたはどこまで戻りたいですか?
…ぼくは。
-10月22日 多目的室にて-
「ぴーあたーさーん、おじゃましまーす」
多目的室に入る。
…そこには箱のようなものが一つ置かれているだけだ。
外からの光で全貌は見えるものの、物音ひとつしない。
「…………」
…いないのかな?
ぼくがさらに奥へと進むと、アザミさんがぬるりと後ろからついてくる。
「あれれー?いないんですかー?」
声をかけてみても返事がない。
…物はある。そして寝息が聞こえてくるしどうやら寝ているようだ。
…いや、物に対して寝ているという表現を使うのも不思議な話ではあるけれど。
「なんだー、いるじゃないですかー」
「アザミさん、あれが映画館にいたマギアビーストのレリックですー」
「…やっちゃいます?」
アザミさんにひそひそと声をかける。
やる、というのはアザミさんの所持しているレリックを使用して見ないか、という話だ。
「えっ、今さっきなんで呼びかけたんです??」
「まぁ、マギアレリックであるなら試すに越したことはないんですけど……」
当然の疑問が返ってくる。
…そりゃまあ。ぼくは気分で生きているんだもん。
一度交渉してみるのもありかな、とそう思っただけだ。
「えっ、意識があるなら交渉しようと思ってー。寝てるならそれはそれでこっそりやってみるのもいいかなって。つまり気まぐれってやつですよー」
「……自我があるタイプのマギアレリックなんですか??」
「ええ。めっちゃ喋ります」
それもちょっと子供っぽい。
恐らく年齢的にはぼくとあまり変わらないんじゃないだろうか?
そんな感じだ。
…アザミさんが『喋るんだ…』みたいな顔をしていたが喋るんだもん。仕方ないじゃない。
それだけは変えることのできない事実だし。
「まあ、そういうことなのでうるさくならないうちに、ささ。」
ぼくは手をピアターさんに向けてアザミさんを促す。
「まぁいいですけど……ちょっと失礼しますね……」
アザミさんがピアターに近づいてそっとCSMプロジェクトSをあてがった。
「そしてスイッチを、と……」
そして、スイッチを入れると…あ、ドアの方へ弾きだされた。
「ビェ」
「ア、アザミさーん!!!???」
ぼくはすっ飛んでいくアザミさんを横目に思考する。
…合体できないタイプのレリックかー。
意思を持っているとできないのかな?
「…………チョコレートのアレと同じパターンですね……」
扉に打ち付けられたアザミさんが大の字で転がる。
…どうなるか気になったんだけどなー、なれないなら仕方がないか。
そんなこんなでドタバタしているとさすがに意識が戻ったのかピアターさんが喋りだした。
「うーーん」
「あー、なるほどー。…おや、起きたようですよー?」
アザミさんが起き上がって近づく。
「しかしここでひとりきり、ですか……誰かが毎日来てない限り、退屈そうですね……」
想像してみる。うん、無理だ。
「そうですねえ、ぼくだったら退屈で部屋壊しちゃいます」
「うわなんかいる」
「本当にやりかねないですね——あ、ども……お邪魔してます」
「おじゃましてますー」
起きてきたピアターさんに向かって挨拶を返す。
どうやら何か変な感覚が残っているようで、「むずむずする…」とかぼやいていた。
「…ところで、どうやって音出てるんでしょうかー」
ピアターさんを手に持って持ち手の部分を眺めたり、パカパカしてみる。
…うん、わかんない。
「やーめーろーよー!」
「あ、ごめんなさい」
…怒られたので元の位置に戻す。
「あ、そうだ。この子も喋ったりしないんですかねー?」
「これ、前見せたハサミだったものなんですけど」
そういって釘を取り出す。
前に見せたことのある、ハサミだったものだ。
マギアビーストになったあと、この形になったから、意思とかないかな…?
そう思っての行動だ。
「喋るわけないじゃん、喋ったらびっくりだし」
…まあそうですよね。アザミさんも同じ気持ちなのか、微妙な表情だ。
「まあさすがにそうですよねー。…ピアターさんはなぜ喋れるんです?そういう機能?…ピアターさんって何ができるんでしょう」
そういえばぼくはピアターさんのマギアレリックとしての異常を知らない。
彼?は一体何ができるのだろうか。
「おれ、相棒のできなかったことができるけど…………最近弱くなった……」
相棒...それも気になるけど。弱くなった?力が?
続けて問う。
「…できなかったこと…?例えばどういう感じでしょうか」
「時間を戻せる」
「…時間…?」
「相棒はまきなおす?とかなんとか言ってた」
時を戻す。本当にそれが可能なら。
...アルスさんの時間だけを戻して...いやこれだとマギアビーストになるだけだ。
それでは意味がない。
「時間を戻せる……何の時間を戻せるんでしょうね? 流石にこの世界そのものの時間……というわけではないでしょうし……」
ぼくが別のことに思考を巡らせていたところ、アザミさんが疑問を投げかけていた。確かに…範囲はどんな感じなのだろう
「何もかもできたけど、今なんか全部はできない」
「では、どういうものならできるので?」
アザミさんの質問には直接答えず…
「昔はねー、全ての始まりまで戻せた」
そう答えた。
…全ての始まり。
ドールが生まれる…さらにその前まで、だろうか。
それが真実だとしたら…とんでもなさすぎる。
ぼくたちの手に負える存在ではない。
…弱くなっていてよかったと、そう思ってしまった。
「始まり…とんでもないですねー」
「今戻せそうなものって何があるかわかりますかー?」
「全部」
…いや、弱くなったといっていたし全部は無理でしょうよ。
埒が明かないので具体例を出してみる。
例えばこれ。
先ほど見せた釘を改めてピアターさんに見せてみる。
「例えば、これとかはー?」
「…ちょっとこれ使いにくくて、ハサミだった頃に戻せないかなー、とか思いまして」
「TRD- トワイライトS 」
さした生物の動きを止めるマギアレリック。
当然釘なので痛みは生じるし、ついでに呼吸すら止めてしまう。
とてもじゃないが普段使いのできない扱いの難しいレリックだった。
元々は物であれば何でも切れるレリックだったので可能なら戻したいと思っていた。
…愛用してきた存在でもあるから。
「その程度なららくしょーだし」
「ッ、できるんですか!?」
可能らしい。形の変わったレリックを元の形へと戻す。
本当に可能ならそれは有用だ。
「できるなら、やってもらってもいいですかー?」
「タダでやるわけないじゃーーーん」
…まあ、そりゃそうか。
ピアターさんに利がないことをわざわざ無償でやるわけがない。
それをするのは…その行為自体が利になるか、あるいはそうしないと生きていけないか。
とある存在を頭に思い浮かべつつ、どうすればいいかを問う
「ぐぬぬ…何が欲しいんですか?」
「なんかすごいものー!」
なんと抽象的な。
ぼくは自分の持っているものからピアターさんがほしそうなものを考える。
…そうだ、マギアビーストのステッカーとかどうかな?
ちょうどピアターさん自体のものももってはいるし
「すごいもの…これとか?」
そうやってステッカーを2枚取り出す。
・☆4 ロールライク-グリーンブルー
・☆2 ディストピアター
一番上の等級には届かないものの、光輝くステッカーと、
橙に彩られたピアターさんのもの。
「なんかキショい色のやつある……」
不評だった。
…確かに☆2の色はあんまり好きではないけど。ぼくも。
「戻してくれるならあげましょう…どうです?」
「そんなの要らない。どうせだったらもっとぎらぎらしたやつがいいーー!!」
もっと上。そうなると☆5になるけれど…
「…もっと…これ以上のものとなると…あれしか」
ぼくがもっている☆5のステッカーはアルストロメリアの一枚だけ。
…これはアルスさんの姿のもの。できることなら手放したくない。
でも…ずっと使ってきた道具の形を諦めることもできない。
…駄目で元々。ぼくはステッカーをたくさんもってそうなアザミさんへ声をかけることにした。
「でも…これはいただいたものだし取っておきたい…アザミさんー、☆5のステッカー持ってたりしませんか?後で同じ等級のものをお返しするので貸してはいただけないでしょうかー」
「えっ、私ですか? 一応……2枚ほど……」
「……もちろん、良いですよ。元はと言えば私の責任ですし……」
マギアレリックを破壊したことに責任を感じているのか、快く受け入れてくれた。
…このお礼はいずれ何かで返さないと。
「…ありがとうございますー」
「ピアターさん、ロールライクイエローとモニュメンタラーバの2種類あるんですが、どっちが良いとかあります?」
「どっちももらっていいの!?」
ピアターさんの声が弾んだ。恐らく表情があるならキラキラしてそう。
まあ、物だからないんだけど。
「そうですねぇ……もし私が同じようなお願いをしにきた時に、受け入れてくれるなら両方とも差し上げますよ?」
さすがに両方は嫌だったのか、アザミさんは条件をつけていたが…結局一枚でいいとなったようだ。
「それじゃあ、今回はこちらのロールライクイエローの方をお渡ししますね。これでお願いできますか?」
アザミさんがステッカーをテーブルの上に置くと、突如それは燃え上がって消えてしまった。
「で?どれをもどせばいいの?」
ぼくたちが唖然としているのをよそに、何事もないかのように続ける。
…気が変わらないうちにお願いしよう。
ぼくは「TRD- トワイライトS 」をピアターさんに見えるように掲げた。
「ピアターさん、こちらお願いしてもいいですかー?」
「わかった、見えるとこおいて」
釘をテーブルに置く。
「えい」
そう呟くと…不思議なことが起きた。
…目は離していないはず。
そのはずだった。 しかし、目の前のマギアレリックの認識の形が釘ではなく鋏になっている。 元からその場にあったかのように鋏は鎮座している。
…終わったみたいだ。
「…え?今何が起きました…?」
「もどしただけだけど?」
「…一瞬だったのでびっくりしました。ありがとうございます。」
これが…ピアターさんのもつ異常。
時を戻す力。
どこまでできるかはわからないけど...マギアレリックの形が元に戻るだけでも十分すぎる。
「シールが……燃えた……? 一体どうして……」
「食べただけだけど?そんなのも知らないのー??」
「あっ、アレ食べれるんですか??」
「…ステッカーは食べ物。…なるほど?」
…色々衝撃が強すぎて思考が追い付いていない。
なんか妙なこと言っている気がするけど…まあいいでしょう。
「おなじのたべてつよくなるのはふつうでしょ?」
「おなじ……? え? これ……マギアレリック……!?」
「そうかな…そうかも」
「おれちがうけど?」
「ヒマノさん?? レリックじゃないらしいですよ??」
「そうなんですねー。…うん、考えるのをやめましょう」
もう何が何やらわからない。
恐らくまだ判断材料が足りない、そういうことなんだろう。
そういうことにしておこう。
「…まあ、それはともかくありがとうございました。
アザミさん、何もなければ戻って試してみようと思うのですがー」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ピアターさんも助かりました。何かあった時は、またよろしくお願いしますね?」
「ではかえりましょー。ピアターさんー、またきますねー」
色々と試すために、今日はこの辺りで戻ることにする。
ピアターさんはどうやら疲れた様子だったが…やっぱり戻すことに体力を使うのだろうか?
…その後、せんせーにマギアレリックの名称と効果を聞いてみた。
名前が「VSヒーローシザース-キャンサードSR」へと変わっていた。
…なんか増えてるー。
あと、壊れなくなったらしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?