転がり込んだ弾丸を【#ガーデン・ドール】
※こちらはブルブロさん様、トロメニカ様主催の世界観共有型交流企画「ガーデン・ドール」に関連する作品です。
ぼくはヒマノ・リードバック。
アルスさんを討伐することになり無事別れを告げた翌日。
本調子でないぼくのもとに一つのものが届いて…
どこかで似たようなものを見たことがあったぼくはそれを持っている人の元へ向かうのだった。
これはそういうお話。
「…これは、銃ですね…」
マギアビースト討伐後、ぼくの元に届いたのは一丁の拳銃。
ただし、ぼくたちドールが片手に持つには少し大きいもの。
一緒に付属していた説明を読むとこう書いてある。
ー厳正なる審査により、討伐に参加されたドールの中からヒマノ・リードバック様に報酬の付与が決定いたしました。ー
付与予定の報酬
「試作魔力変換式拳銃」
えっと、説明によると、自分の魔力を弾丸にして打ち出す武器…と。
ぼくは似たようなものをマギアビーストを討伐する際に使ったことがある。
そっちはもう少しシンプルな形状の銃だったはず…。
そう考えているとふと頭に引っかかる。
あれ、他に支給された武器以外で武器を持っていたドールがいたような…?
そう、確か最後に今回のマギアビーストを討伐したときに一緒にいた…。
ああ、そうだ。シャロンさんだ。
…ちょうどいい。何か知ってるかもしれない。
そう思ってぼくはシャロンさんの部屋に向かった。
「シャロンさんー、起きてますかー。ヒマノですー。ちょっと聞きたいことがー。」
「ヒマノくん?……うん、いいよ。入って。」
「はーい、お邪魔しますねー。」
勝手の知ったるなんとやら。何度目かわからない訪問にシャロンさんは少しなにか考えたあと入れてくれた。
早速、ということでぼくは床に座って開口一番、こう話し出した。
「相談というのはー、これですー。」
といってカバンに無理矢理詰め込んで頭を出していた銃を取り出す。
「こ、れ……一体どこで……いや、そうか。」
どうやら何か察してくれたみたいだ。そう思ってぼくは続ける。
「恐らくお察しの通り、アルスさん…偽神魔機構獣討伐後にぼくの元に届けられました。話というのは、確かシャロンさんがこれと似たようなものを持っていた気がしましたので、何か知らないかと思ってー。」
「ああ、あれのことかい?あれも同じさ。あれは討伐後……というより、本部さんが繭を流していたのを見た後、ボクの元に届けられたんだ。」
ちょっと経緯は違うが似たようなもののようだ。
話の続きを待っていると、シャロンさんは悩むように言葉を紡いだ。
「これに関してはボクより詳しい人が……んー……答えて、くれるかな……」
「知っている人というと…本部さんですか?確かに知ってそうな気がしますねー。…せっかくだから一緒に行っていただけません?」
…本部さん。ぼくはあまり話したことはないけれど、マギアビーストを討伐するために手伝ってくれている方だ。ドールかどうかはよくわからない。
「うん、そうだね。マギアビースト討伐の時のお礼もしたいし、一緒に行こうか」
「はい、よろしくお願いいたしますー。」
話は決まった。準備をしてから向かうとしよう。
シャロンさんが一旦寮のキッチンでお礼の品とやらを作った後、ぼくたち二人は本部さんのいる魔機構獣対策本部へ向かうことにした。
ー魔機構獣対策本部ー
用意した後、シャロンさんと共に対策本部を訪れる。お互いに各々の手法で武器をカバンにしまい階段を下りる。その後、シャロンさんが階段下の扉前で足を止め、やや強めにノックする。
ドアがゆっくりと開き奥から影が出てくる
「なんだ学生か、どうかしたのか?」
その影は、本部さん。対策本部に住んでいる存在にして、仮面をかぶった不思議な方。
「こんにちは、本部さん。その……先日のお礼と、本部さんに聞きたいことがありまして」
シャロンさんは本部さんを相変わらず少し見上げる形で相手を見ながらハッキリと答える。
「?構わないよ」
「ありがとうございます。じゃあ……中に入っても?」
「あぁ、構わないよ」
ぼくたちは本部さんから部屋へ入る許可を得て茶の間へと向かう。
茶の間について椅子へと座ったあと、お茶か珈琲を出すように聞かれ、各々答えると視線がとあるボードに向かう。
「そういえば……解析結果って……」
ボードにはぼくたちが討伐した魔機構獣…マギアビーストの解析結果が貼られていた。
「アルスト、ロメリア……」
つい先日討伐したマギアビースト。…アルスさんだったもの。
その名称は偽神魔機構獣。アルストロメリアというらしい。
アルストロメリア…アルスとロメリア?ぼくたちの知る二つの名前の繋がる形にハッと息をのんだ。
「…2つで1つ、みたいなことなのでしょうか…」
「その前のオックトライはそうだったけれど……」
オックトライというのは、2月頃に図書室にて出現したマギアビーストの名称で、箱に入ったタコのような姿をしており、箱とタコのような生物は二つで一つで共存関係にあったようだ。
「…あぁ、それは確かに。オックとライさんだったのでしょうか」
…冗談で返してみる。…あながち間違いではなさそうなのが反応に困るところである。
シャロンさんはそれには答えず考えるように言葉を紡ぐ
「もしそうだったとしたら……あれは、ロメリアちゃんも混じっていたのかもしれない……意志としては、アルスちゃんがやっぱり強そうだったけれどね」
「…そうですね。」
違いない。紡がれる音も見た目もどちらかというとアルスさんに近かった。
「まあ、知ってそうな人にまずは聞いてみようか」
「ええ、そうしましょう。」
そういってぼくらは視線を珈琲を入れている本部さんへと移す。
少し待つと、湯気の立つ二つのマグカップと二等分された保存食が乗った皿を持ち、本部さんが奥から出てきた。
「待たせたね」
各々礼を言い飲み始め…少し落ち着いたころ、シャロンさんが切り出した。
「えーっと、まずは……」
そういって鞄からごそごそと何かを取り出す。綺麗に形が整えられたおにぎりが6つほど。
「はい、先日泊めてもらったお礼です。……食料は貴重だから、なんて言葉聞きませんよ?」
「そういったものは学生共が食べるべきだ、問題無い」
本部さんは頑なだ。ただ、シャロンさんも引く気はないらしく、ぼくも追従して視線を強めると、受け取って貰えたようだ。
シャロンさんは受け取って貰えて少し満足げな表情を表すと、本題を話し始めた。
「さてと……本部さん、いくつか質問をしてもいいですか?」
「構わないよ」
そう答えるが、本部さんは座る様子無く立ちっぱなしだ。
シャロンさんはどうやらそれが気になるようだ。
「ちょっと長くなるかと思うので、本部さんも座りませんか?ボクが、気になるので」
「?わかった」
本部さんが言われるままに椅子に座ったことを確認すると、シャロンさんは話し始めた。
「えっと……まずは、先日の偽神魔機構獣なんですけど」
ちらっとボードに貼られているものをみつつ…
「方双魔機構獣は、双子だった、と書いてありますが……偽神魔機構獣も似たようなものだったかどうかって、分かりますか?」
「申し訳ないが分からないよ」
「そう、ですか……分からないものは、仕方ないですよね」
どうやら不明らしい。双子ならマギアビーストになって一つになったということになり、一応は一緒に居られたと思えたのに。
「じゃあ、もう一つ。ボクが持っている武器については……もちろん覚えていますよね?長い棒の先に刃物がついた、あれです」
「ふむ」
シャロンさんが武器についての話を切り出したので、ぼくもそれに追従するように鞄から銃を取り出し、口を開いた。
「偽神魔機構獣…あれを倒した後、ぼくにも武器が届いたんです」
「なぜお前がこれを持っている」
本部さんから問われたが、それについては既に出している。
「先ほども言った通り、もらいました。」
「これについて、ご存知ですか?」
ぼくに続いて、シャロンさんが聞くと、本部さんからこう返ってきた。
「……伝えられる範囲でのみ答えると約束するよ」
…伝えられる範囲。さて、どれくらいのことを教えてもらえるか…。
「…お願いします。知っておきたいです。持つ以上は」
「何を知りたい」
何を知りたい。…ぼくはこれの手入れの方法さえ聞ければいいと思っていた。
…何を知れる?何を知ればよい?
わからず、沈黙していると…シャロンさんが口を開いた。
「これは……ボクの武器を作った方と、同じ方が作ったものですか?」
「違うよ」
「実現したのは、ボクの武器だけと言ってましたからね」
「じゃあ、これはどういった経緯で生まれて、どう使われていたかは……聞いても、いいですか?」
「それは失敗作らしい」
「…失敗、作?」
…失敗作?これが?この銃はどうやら魔力を打ち出せるらしい。威力もそれなりに保証されている。何をもって失敗とされたのだろう?
そうぼくが疑問に思っていると、シャロンさんも同じことを思ったようで。
「失敗?」
「どうして失敗、と……?」
「彼女がそう言っていたからだ」
本部さんは答える。…彼女。一体誰のことを指しているのだろう。ぼくたちが知る人物なのだろうか。
「……彼女、ですか」
「ボクの武器を作った方は突飛な方って聞いていましたけれど……その彼女、はどんな方だったんです?」
「常として平常心を持っていたよ」
「平常心…ぼくのような?」
…あ、つい冗談が口を出てしまった。
しまった。二人ともポカーンとしている。どうやら間違ったようだ。
…話が止まった。これどうしよう
そう思っていると、シャロンさんが話を続けてくれた。ありがとう。
「ええっと…………その、平常心の彼女、も……今は……?」
「…………」
「殺したよ」
殺した。そう本部さんは言った。
…何故?
「廃棄、ではなく……ですか?」
「廃棄、ああ、そうだな、すまない、廃棄だよ」
言い直した。どうやら前はそういう言い方をしていたらしい。
…ぼくにはわからないところだ、黙って聞いておこう
「……そう、ですか」
シャロンさんは何か思うところがあるようだ。何かを考えている…
「すみません、ありがとうございます。もう一つ……武器の手入れの仕方、ヒマノくんにも教えてもらえますか?」
「持って置きたいのでー。是非教えていただけるとー」
ぼくの聞いておきたいことをシャロンさんが聞いてくれたのでそれに続く。
「?綺麗にすればいいよ」
…どうやって?
「んんん……先日ボクに貸していただいた布、分けていただくことできます?」
あ、聞きたいことをシャロンさんがまたもや聞いてくれた。ありがてぇのです…。
「布ならあそこでもらってくるといい」
「あそこ?」
「仕立て屋だよ」
「なるほど、特別な布ではなかったのか……」
えーっと...状況を整理すると、シャロンさんは手入れの為に布を借りていて、
それをぼくにもと思っていたけれど、特別なものではなく仕立て屋でもらってきたもの
だった、と。
「はーい。それならもらってきますー」
「仕立て屋といえば、本部さんの服も仕立て屋さんが作ったものなんですか?」
「そうじゃないのか?」
「いえ、なんとなく気になって……今着てる1着しかなかったりします?」
「ない」
「……その服が破れてしまったりとかしたら、どうするんです?」
「新しいものに取り換えるだけだ」
「その時になって初めて、仕立て屋さんに新しいものをもらう感じ……?」
「そうだ」
「なるほど……?わかりました、ありがとうございます」
うん。ぼくは珈琲を飲みながら二人の話を聞いていた。
…あ、こーひーおいしい。
…どうやら話が終わったようで、丁度いいと思って切り出す
「んむ…これ、もっててもいいんですねー?」
「不要なら回収する」
「いえ、必要なので回収不要ですー」
「わかった」
どうやら持ってていいらしい。…どこかで練習しないとなー…。
「さてと。色々答えてもらってありがとうございます、本部さん」
「ありがとうございましたー」
食べ終わってそろそろ行こうとお礼を言って立ち上がる…前にシャロンさんが最後に聞いていた。
「おにぎり、食べてくださいね。……あ、そうだ。海が生えたの、きっと本部さん知らないですよね?」
「???」
「そもそも本部さんは海というものをご存じなのでしょうかー」
「?????」
「ははっ、でっかくてしょっぱい水たまりがこの箱庭にできたんですよ。たまには行ってみるのもいいかもしれないですよ?」
「なかなか面白いところですよー」
「?そうなのか」
口々に海についての話をする。なんかあんまりピンと来てなさそうなんですよねー。
「さてと、ボクはそろそろ戻ります」
「ああ、わかった。気を付けて帰ってくれ」
そうしてぼくたちは茶の間を後にする。
帰りに仕立て屋で布をもらうことを忘れないようにしないと。
シャロンさんには感謝してもしきれない。ぼくだけでは恐らく聞けない話が多かった。
「シャロンさん、今日はありがとうございました。おかげで助かりました。」
お礼を言って話をしながら寮に戻る。
その足取りは、恐らく普段通りだった。
-END-
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