ぼくとあなたの望みの行く果ては【#ガーデン・ドール】
…ロベルトさんの人格コアを破壊した後、ぼくはキッチンへと来ていた。
もう一つの目的を果たすために。
…そのためには必要なものがある。
ぼくは林檎のコンポートを予め仕込んでおいたパイ生地に包み込み、焼き始める。
林檎の一口パイ。
あのドールを呼ぶためにはこれくらいはしておいたほうがいいだろう。
最後の晩餐になるかもしれないし…ね。
…パイが完成し、お皿に盛りつけたころ。
キッチンの近くにある額縁がガタガタと揺れた。
…来ましたか。
額縁の少女。セイさん。
グロウ先生がもってきた額縁に描かれているその少女は、何がきっかけかはわからないが
食べ物のある所によく出てくる気がする。
…今回もそのパターンのようだ。
「セイさん、こんにちはー。ちょうどアップルパイができたんですけどー、食べますー?」
「わあ、ありがとうございます!食べたいです!」
そういってパイが山盛りになったお皿をテーブルに置き、椅子に座ることを促す。
「ん〜、とっても美味しいです!」
「お口に合ったようでよかったですー。次も焼いているのでたくさん食べちゃってくださいー」
…セイさんは食べるのに夢中になっているようだ。
やるなら、今か。
ぼくは誰にも聞こえないようにつぶやく。
「…ごめんなさい。目的の為なんです」
セイさんの後ろに回り込み、首筋に手を向ける。
食べ続けるセイさんは気付かない。
そして、ぼくはとある魔術を発動させた。
風刃魔術。
セイさんに教えてもらった、風の刃を生み出す魔術だ。
発動したそれは、セイさんの首へとまっすぐ飛び…そして。
ガタン。
その刃は首を胴体から分離し…その場に落ちた。
少し遅れて…体が倒れる。
どうやら、やったようだ。
…目的の為とはいえ、決闘ではない不意討ちの形で命を奪ってしまった。
体が震える。
…セイさんがドールならば、また会えるはず。
その時は…報いを受けよう。
そのためにまずは、やるべきことを。
ガーデンへの、ミッションの達成報告を。
「…『この情報にはプロテクトがかかっています』。特別なドールの身体も代償もここにあります。…これでロメリアさんを…ドールとして復活させていただけますかー?」
…少しの間沈黙が流れる。
その静寂を引き裂いたのは、いつもの端末。
せんせーだ。
『ははっ、ご苦労サマ。そのガワを使うヨ。しばらくしたら動くんじゃないかナ?』
「はいー、よろしくお願いいたしますねー。」
声は一緒なのに話し方が違う。
せんせーとも違う存在。
ぼくに選択肢を与えた存在。
名前は…わからない。
気にはなるけれど、今はそれは気にしないでおく。
ロメリアさんはドールとして復活するのか…それだけが問題なので。
せんせーの端末はセイさんだったものを連れてどこかへ消えていく。
いつの間にかマフラーに着けていたぬいぐるみも消えていた。
「…さて、どうなるか。…ここから先はぼくにはわからない。もし何も起きていなかった場合、どうしましょうかね…。そもそもセイさん一回死んだのなら額縁に戻るんでしょうか?」
…あ、余計な思考が混ざってきた。
一旦落ち着くために片付けでもしようか。
テーブルに転がったパイをすべて食べ、後片付けをする。
何か液体のようなものがかかっているが、ちゃんと片付けておかないともったいない。
これは、ぼくの罪だから。きっちりお腹の中に入れないと。
テーブルや床を掃除し、目立たないくらいに片づけた後、ぼくはキッチンを後にする。
…跡が残っていないといいけれど。単純に経緯の説明が難しい。
説明して完璧に伝わるドールは、シャロンさんくらいだろうしなあ…。
一日は長い、けど…結果が出るまではできる限り普段通りに。
アルスさんの思う形ではないかもしれないけれど、確かに願いは叶えられていると…いいな。
これはアルスさんとガーデンで出会ってから一年たった日の、ぼくの願いのお話。
その答えがはっきりするのは…次の朝。
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