見出し画像

年間ベストアルバム2024

こんにちは。暇じゃない暇人です。早いもので2024年も終わりの季節となりました。

(HOSONO HOUSE COVERS、良かったですね…。年ベスには入れなかったけど…。)

今年は大学生となり、新譜を聴く機会も格段に増え、ライブにも数多く足を運ぶなど過去にないくらい充実した音楽ライフが送れたなという実感です。その私生活の充実ぶりに加えて今年リリースの新譜も傑作揃い。

今回はそんなアルバムの数々の中から特に良かったものを30枚ピックアップしました。かなりベタな選盤ではあると思うので既に聴いたものも多いという人もいると思いますが、是非この記事を読んでアルバムを聴き返したり新たな発見をしてくれれば幸いです。これが俺の2024年だ!

30位 スキマスイッチ 「A museMentally」

このアルバムについては単体でレビュー記事を書いたのでこちらも併せて読んでいただければ。彼らの音楽に初めて触れたのは7年近く前だけれど、自分が当時より幅広い音楽リスナーとなった今でもこうして唸らされる普遍的なJ-POPアルバムを作っていることが素直に嬉しいですね。万人に届くポップネスを追求しつつも、ベテランになったからこそ加えられる遊び心をふんだんに取り込んでいたり。「遠くでサイレンが泣く」でブルース的な情景を取り入れ、そこからノイジーでカオティックな展開に突入していく様は圧巻でした。自分が音楽を好きになったきっかけの二人は今でも冒険を続けるカッコいい存在のままだった。今年は他にもOfficial髭男dism『Rejoice』、あいみょん『猫にジェラシー』など王道のJ-POPシーンから傑作が多くリリースされて、自分が結局J-POPを大好きなことを改めて感じた一年だったように思います。

29位 ザ・クロマニヨンズ 「HEY! WONDER」

邦楽名盤ランキングやTLの話を見てもみんなブルーハーツの話ばかり、お前らちゃんとクロマニヨンズ聴いてるか?と言いたくなるところ。それくらい今のクロマニヨンズは凄いんですよ。先行曲「あいのロックンロール」から怒濤のスピードで突っ走るエネルギッシュすぎるロック。長いキャリアの生んだバンドサウンドの抜群の安定感、それを未だに生まれる初期衝動に任せて出力していく凄さはブルーハーツの1stで見えたバンドマジックに匹敵するかのよう。特筆すべきは桐田勝治のドラム、キレキレの勢いなのに全くブレない土台に圧倒される。サブスクないのでCD買ってください。大事なことなのでもう一回言います、今のクロマニヨンズは凄い。ヒロトとマーシーは今が一番凄い。

28位 高野寛 「Modern Vintage Future」

デビュー35年を迎えた高野寛の新作は彼の敬愛するYMOからの影響が色濃い全編打ち込みの一枚に。サウンド、歌詞、どちらも最小限のミニマルさで作り込んだ上で核心を突き刺してくるような音楽としての正確さ。今は黒い×印と化してしまったTwitterについて歌った「青い鳥飛んだ」などのユーモアも持ちながら、「僕ら、バラバラ」などでは同じくYMOチルドレンとして知られるCorneliusの傑作『Sensuous』をSSW的な解釈でやって見せたような緊迫感が見えるのが凄いんですよね。YMOからCornelius、更にその先の面々へ脈々と受け継がれてきた音響とリズムでの音楽的挑戦をシンガーソングライターとして解釈し、彼が得意とするちょっと捻くれたポップスとして提示してみせた一枚。

27位 ピーナッツくん 「BloodBugBrainBomb」

ぽこピーの動画見るとマジでバカみたいなことやっててゲラゲラ笑ってるけど、この豆の音楽聴くとそのクオリティにビビらされるのがカッコいいんですよね。ハイパーホップあたりの音楽性も吸収した縦横無尽かつアグレッシブな音楽性を軸に展開される、Vtuberという文化もシニカルに捉えたリリックを携えた大暴走。POP YOURS出演など活躍の場をどんどん広げている豆だけど、どうしてもその立ち位置故の違和感を感じる人もいるわけで。しかしそれすらも自身のアイデンティティとしてコンセプトに組み込んでしまうのが豆の強さ。月ノ美兎をゲストボーカルに迎えた「Birthday Party」は委員長のウィスパーボイスとドラムンベースが極上の快楽。来年は月ノ美兎がミニアルバムを携えて音楽シーンに帰還、楽しみすぎますね…。

26位 Coldplay 「Moon Music」

Coldplayの新作がめちゃくちゃ良かったのも今年驚かされたことの一つですよね。先行シングルで「feelslikeimfallinginlove」が公開された時から今回は一味違うのではないか、と期待を寄せていたけれど、いざ蓋を開けると本当に最高のものを出してきて。今作何が良かったかというとColdplayのバンドとしての一面が久々に良く見えたことで、『Mylo Xyloto』以降ポップスターとしての道を歩んできた道のりを否定することもなくバンドの音を取り戻したように見えたのが好印象なんですよ。そういえばColdplayってグッドメロディを作ることに関しては抜群の才能を見せるよな、ということも改めて感じられたというか。やっぱり『Parachutes』時代のバンド然とした彼らが大好きだけど、今の彼らがそこに立ち戻って良いものが出来るかと言われればそれは微妙だとは思ってて、そういう意味では今Coldplayがバンドとして名乗る上では今作は最高の見せ方だったんだと思います。

25位 THE SPELLBOUND 「Voyager」

BOOM BOOM SATELLITES中野雅之とTHE NOVEMBERS小林祐介によるロックバンド・THE SPELLBOUNDの2nd。ブンサテの遺伝子を受け継ぐデジタルチックで重厚なバンドサウンドは受け継ぎつつ、生バンドでの肉体性とアッパーな楽曲群での圧倒的な迫力。前作は荘厳さを主軸に置き音の鳴らし方まで細かに聴かせてくるような一枚でしたが、今作は溢れ出るエネルギーを貯めることなく56分間常にスパークさせ続けるような疾走感に満ちているのがとにかく凄まじい。歌も演奏も徹底的に隙を埋め尽くしたような緻密さを持っていて、高いBGMに隙間なく言葉を詰め込んでいく小林祐介の歌唱に撃たれる感覚は前作にはなかった進化点。前作で持っていた誰一人崩せないような構築美や荘厳さと、ロックバンド感を更に増した疾走感とエネルギー溢れる世界観を両立することによって更なる次元へと到達した一枚。

24位 The Smile 「Cutouts」

トムヨーク率いるThe Smileは今年アルバム2枚と精力的な活動を繰り広げてきましたが、今回は10月リリースの3rdアルバムをチョイス。やっぱり結成以降感じるのは音楽に対するラフさで、巨大すぎる看板になってしまったレディオヘッドから解放された音楽的探求が新鮮に楽しめるのがThe Smileの魅力かなと。今作は今まで以上に静と動の対比が大きい一枚。静の部分ではビートを削りエレクトロやアンビエントへの接近が感じられ、動の部分ではトムのボーカル、ジョニーのギター、更にはメロディまで全部組み込んでリズム面での進化の追求をしている(もちろんこれはトムスキナーのバカテクドラムによるものも大きい)。レディオヘッドで追求していたバンドというものの分解とリズムを用いた探求のどちらも過去最高級のハイレベルに達しているんですよね。実験的ではあれどそのメロディはメランコリックだったりと「歌」に対する姿勢を崩さなかったレディオヘッドに対して、The Smileは更に実験的な場所に潜り込むことにタフな印象で。そう考えると今作はトムヨーク関連の作品の中で最も攻めたものなのかもしれません。

23位 Bring Me The Horizon 「POST HUMAN: NeX GEn」

Bring Me The Horizon、やっぱり現行シーン最重要バンドだと思います。Jordan Fish脱退後初となった本作では、近年のポップ指向な作品から再びデスコアやメタルなどの影響が色濃いヘヴィな作風にシフト。その中で今のシーンを席巻するハイパーポップなどの音楽性も取り込み、異次元としか言いようのない新時代のロックミュージックを打ち立てた。批評筋などから冷遇されてきたニューメタルなどまで自身のルーツとして昇華し貪欲に飲み込む姿勢にも痺れる。数多くの来日経験が実を結んだのか、FACTなど日本のバンドをルーツと示してくれたのも嬉しいですね。サマソニでのライブも流れてきたのを見たけれど、音楽のスケール感からステージの使い方まで規格外。一枚のアルバムとしてのクオリティも流石で、この一枚を以て彼らは名実共に現代を代表するバンドと言える存在となったのではないでしょうか。

22位 BUCK-TICK 「スブロサ SUBROSA」

まさかあの突然の悲劇からわずか1年でここまでの傑作を携えて彼らがシーンに帰還するとは。バンドの核であったボーカリスト・櫻井敦司の死を経て復帰作となった今作はギター担当の今井寿と星野英彦によるツインボーカル作品。これまでの彼らの作品もエレクトロやアンビエントなどを重厚なロックと混ぜ合わせることによって独自性を持たせていたものが多いけれど、その経験値をフル活用して凄まじい引き出しの多さを見せつけている。タイトルトラックでは今井寿がラップ的なボーカルを取るなど、バンドとして生まれ変わることに全く守りの姿勢がないのがめちゃくちゃカッコいい。正直なことを言うと櫻井敦司の死からこのスピードで復活を遂げた、というエピソードが先行してフラットな目線で評価できているかと言われると素直に頷けない部分があるのも確かだけれど、新たに生まれ変わったバンドの気概と衝動に満ち溢れたこのアルバムは間違いなく傑作だと思います。

21位 Faye Webster 「Underdressed at the Symphony」

上半期にベスト記事を書いた時にはこのアルバム2位にしてたんですよ。決して悪いアルバムだと思ったわけではないしむしろ大好きなんだけど、今の気分ではもっとインパクトを持ったアルバムに惹かれる部分があったかな、というだけで。とはいえこのアルバムの持つ飾らない柔らかなサウンドと歌声はこの上なく癒やされるものがあって、日常のどんな瞬間で流しても落ち着きと快楽を与えてくれるんですよね。WilcoのNels Clineもギターとして参加し、この平坦な美しさに極上の彩りを添えていく。こういう丁寧なバンドサウンドに彩られた「歌」のアルバムは穏やかながら確かな強さがあると思います。アルバム1曲目の「Thinking About You」は今年何度も聴いては人生を肯定されたかのような穏やかな気持ちになりました。彼女もそろそろ来日が決まってほしいところ…。

20位 OGRE YOU ASSHOLE 「自然とコンピューター」

恐怖。この音楽からは底知れぬ恐怖が漂っている。近年はその異端なアレンジのライブパフォーマンスでも注目を集めているオウガの新作は、一言で言うならどこまでも退廃的な世界でのダンスミュージックという趣。一度たりとも盛り上がることのない淡々としたテンション感の中で的確に快楽のツボをつくような音世界が形成されてる。しかも更に怖いのが、アルバム全体通して鳴らされている音自体は地に足がついたというか、しっかりとした存在感を醸し出しているのにも関わらず、そこから想起される風景が全く現実味を帯びていないこと。自分とは全く関係のないような、過去なのか未来なのかすら分からないような圧倒的に得体の知れない感覚。一度このアルバムの世界に飲み込まれたらもう戻ってこられなくなるんじゃないか、という不安すら覚えてしまう、恐怖と快楽が共存する異形のサイケミュージック。

19位 Still House Plants 「if You Don't Make It, I Love U」

ロンドン出身のロックバンド・Still House Plantsによる3作目。再生ボタンを押し「M M M」が開始すると、聴こえてくるのはシンプルなドラムのリフレインとザラついた音像のギター。この二つがひたすら同じフレーズを繰り返していく、極端に展開が排除された隙間だらけのバンドアンサンブルの上に乗る妖艶なボーカル。そしてそのソングライティングもひたすら溢れる熱を抑え込むかのような圧力をうっすらと感じ、この最小限のピースで演出される張りつめた緊張感が続く。ロックバンドの美しさを表現するにおいて音を削るという作業を極限まで行った末の美学かのような音楽、シンプルさが辿り着いた究極の美しさ。この無機質さと熱量を共存させた独特のアバンギャルドさは一種の発明だと思います。

18位 Clairo 「Charm」

もう聴く前から最高が確定してたClairoの新作、その期待を裏切らないどころかそれ以上のクオリティで応えてくれました。ベッドルームポップ的な質感で鳴らされるアナログレコーディングによるヴィンテージ・サウンドなんだけど、そのレトロ感に演じている感触は全くなく、純粋に最新型の彼女のモードとして機能しているのがめちゃくちゃ良い。その70年代のソウルやフォークを感じさせるヴィンテージ気質なサウンドと更に深く共鳴する暖かみ溢れるソングライティングと彼女のボーカル。前作あたりではフォークからの影響が強めな世界観だったのが、今作ではソウルなどの影響も受けより甘美で柔らかなグルーヴ感を得たのも良い進化だ。特にマットな質感のドラムのプレイングにはうっとりさせられる。悩み事や喧噪も全て忘れて、音楽そのものの美しさにじっくり浸れるような空気感がこのアルバムには漂っているような気がします。

17位 トリプルファイヤー 「EXTRA」

ダサい。今作に限らずトリプルファイヤーの音楽を聴いたときに思い浮かぶ言葉ではないだろうか。居酒屋にいる酔っ払いのおっさんの戯言みたいな歌詞に乗っかるテクニカルなカッティングギター主体のバンドアンサンブル。しかしそんな歌詞の中に現代社会の中への鋭い視線が見え隠れするのが彼らの確かな魅力だと思う。ミニマルなアンサンブルの中にはアフロビートやファンクの影響も色濃く見え隠れし、彼らの標榜する「楽しく踊れる音楽」を形成していく。楽曲自体のリズムとは別にギターのフレーズが変拍子的な動き方をするテクニカルさも彼らの醍醐味。「ここではないどこか」ではゲストボーカルでPLASTICMAIも参加、漠然とした希望が単調な歌から見えてくる。正直言うと全体通して行き場のないダサさが内包されているんだけれど、それがどうしようもなく泣けるんですよね。ダサさを曝け出した末のカッコよさは人を惹きつける。

16位 Galileo Galilei 「MANSTER / MANTRAL」

このアルバムを引っ提げた "Tour M" を見た後だとこの2枚を別々のものとして語ることは到底できないので2枚同時でのランクインとさせてください。『MANSTER』は対外向けの自分をテーマとした一枚で、これまでの彼らで最も実験的かつダンサブル。ヘヴィロックやエレクトロポップなどからの影響を大幅にバンドに取り入れ、それを尾崎雄貴の歌声とメロディセンスでGG色に染め上げる。『MANTRAL』は自分自身のコアな部分に焦点を当てた一枚で、ロックバンドとしての伸びやかかつ強固なアンサンブル、シンセポップなどからの影響を出しつつ大人の余裕を醸し出す。そしてこの二枚で表現された "自分" は表裏一体のもので、それがまた物語を紡いでいく。更にオルタナティブに突き進むバンドサウンド、更に深みを増すファンタジーの世界観。改めて彼らがこうしてシーンに帰ってきてくれて良かったと思うばかりです、そして今年のライブで尾崎雄貴が来年出したいと語っていたBBHFの新作にも期待ですね。

15位 Billie Eilish 「HIT ME HARD AND SOFT」

ビリーアイリッシュ、その音楽性の独自さとそれが今の若者のフィーリングにマッチする、ということには納得できつつも正直そんなにハマれていなかったんですけど、今作で完全に覆されました。先行シングル一切なし、インタビューなどでもアルバムの曲順などへのこだわりを繰り返し語るなど、アルバムを通して聴かせるということに焦点を当てた一枚に。楽曲についても前作からは見違えるほどの変化を見せており、これまで無機質なサウンドと囁くようなボーカルを基調としてきた彼女の音楽は立体的でクリアなサウンドとメロディアスな展開をものにして、ポップミュージックとしての強度を更に上げている。若者たちにとってのスターとしての立ち位置を強固なものにした彼女がクィアネスについて自身の言葉で紡いだこともアーティストとして大きなことだと思うんですよ。しかしながらそこで書かれている言葉は彼女自身だけではなくリスナー自身へも溶け込むような抽象性もある。やっぱりこの作品はビリー自身の物語でもあると同時に世界中のリスナーに向けた肯定と寄り添いの一枚でもあるんだと感じます。

14位 NTO & Sofiane Pamart 「FOREVER FRIENDS」

ディスクユニオンの新譜コーナーを見てたらたまたま見つけた、フレンチテクノアクトNTOとフランスのクラシックピアニストSofiane Pamartのコラボ作。体に溶け込んでいくかのような滑らかなピアノのタッチと、ミニマルながらメロディックなテクノの織り成す冷ややかなダンスフロア。クラシック方面で活躍するSofiane Pamartのピアノは柔らかな印象を受ける演奏で、これが冷静ながらも起爆力のあるNTOのテクノミュージックに独特の推進力を与えていく。そしてそれがナチュラルに耳に流れていく感覚がたまらないんですよね。ステートメントによると「エレクトロニック・ミュージックとピアノ・アートによって、人間関係の複雑さと美しさを反映したサウンドクリエーション」とのこと。今作を聴いてその耽美さに魅了されるのも良し、快楽に身を委ねて踊るのも良し。

13位 小西康陽 「失恋と得恋」

Pizzicato Fiveのブレインとして、はたまた一人のソングライターとして様々な歌い手に物語を紡いできた稀代の音楽家・小西康陽。2020年頃から自身で歌うということに取り組み始めた彼による、初となるスタジオでの全編ボーカルアルバムが本作。楽曲はPizzicato Five時代のセルフカバーが中心だが、ピアノ、ベース、ドラム、チェロによる落ち着いたアンサンブルとオリジナルとは全く異なる光景を見せる。そして小西康陽の歌は拙さもありつつ、彼が描いてきた物語を一つ一つ丁寧に紡ぐような愛に溢れている。個人的には何年にもわたって数多くの物語を生み出してきた彼の歌は「演技」というよりは「語り部」の立場からの歌だと感じるんですよ。他のボーカリストが彼の書いた曲を歌うということは彼の書いた脚本の上で演技を行うということであり、Pizzicato Fiveでの野宮真貴はそれを完璧に体現する存在だったと思う。それを離れて脚本家自身が紡いだ歌はまるで読み聞かせのような優しさを内包していた。それは作者自身すらも楽曲を物語として演奏しているということで、優しさであると同時に彼の芸術至上主義でもあると思うんです。

12位 tofubeats 「NOBODY」

このEPに関してはとにかく衝撃的で怖かったです。tofubeatsと言えば日本のクラブシーンを牽引してきたビッグネームだが、今作でボーカルを務めたのは全編にわたってAIによる合成音声。トラックや各々の楽曲については流石tofubeatsといった感じの極上クラブチューンだが、その歌詞やアティチュードがとにかくアイロニック。タイトルや歌詞を見るとほぼ全編通して他者の存在をキーとしているのに対して、ボーカルは合成音声、ジャケットも全員が同じ表情をして明らかに人間性を感じさせない警官、と意図的に人間味の欠落を感じさせる。最後に収められた「NOBODY (Slow Mix)」は同曲を遅回ししたようなバージョンで、さながら廃墟と化したステージで流れ続ける音楽かのような音楽。そのステージで合成音声は "君のことずっと待ってたよ" と歌う。君を待っている存在は確かにいるのに、そこは誰もいない虚無のダンスフロアなのだ。AIの進化が凄まじいスピードで進み、人間の仕事が奪われていったりとその共存についても議論されている現代社会。そこに投げかけられた今作は存在と非存在、人間と非人間など直面している矛盾を抱えた強烈なアイロニーとして機能している。

11位 Khamai Leon 「IHATOV」

石若峻の率いるCRCK/LCKSや君島大空を擁するAPOLLO SOUNDS所属の4人組バンド・Khamai Leon、今作は2枚目となるフルアルバム。「エクスペリメンタル・クラシック」を標榜していると本人たちが語る通り、ミクスチャー的な雰囲気も感じるソングライティングの混沌とした感覚、ヒップホップ的な節回しが印象的な歌メロ、それすらも複雑怪奇としたアンサンブルに溶け込んでいくかのような異次元の音像。「Time flies like an arrow」などで主旋律を奏でるフルートが民族的な香りも醸し出し、聴き馴染みやすさを加えると同時にそのカオスさに拍車をかけていく。近年の邦楽シーンはロックの先人のみならずジャンルレスな音楽吸収を経て高レベルなポップスを鳴らす、ということがメジャーシーン寄りの場でも行われていた印象ですが、本作はそのムーブメントの集大成と言っても過言ではない出来だと思います。来年何かフェスなどの出演を期に人気爆発してほしい。

あと彼らに関してはアルバムの凄さも勿論ですが、YouTubeに上がってるblack midi「John L」のカバーも見てほしい。これはヤバい。


10位 Charli XCX 「brat」

まあ今年を象徴する一枚と言えばこれでしたよね。ネットミームから爆発的な広がりを見せ、全世界を席巻したことも含めて今年は間違いなく「brat」の一年だったと思います。音楽としての個人的な好みとしてはこの順位としましたが。クラブミュージックからの影響が色濃いダンサブルな楽曲が並ぶポップアルバムなんだけど、ハウスやクラブミュージックで特徴的なリフレインによる盛り上がりをさほど意識せず、次々と曲を移り変えていく勢いの良さがもたらす聴きやすさが良き良き。それでいて各々の曲がガッチリとした強度を持っているのも高評価ポイント。そしてリリースから間もなくして放たれたリミックス盤も素晴らしかったですね。The 1975、Ariana Grande、Caroline Polachek、Billie Eilish、変わったところではJulian Casablancasまでもが参加した豪華なメンバーでの再構築。ジュリアンと彼女の親和性の高さはかなり意外でしたね、この手のエレクトロポップまで乗りこなせるのかジュリアンという驚きがありました。逆にThe 1975のリミックスはもろ1975で久々の感覚に嬉しくなったり。この豪華かつ多彩なコラボレーションまで含めて今年Charli XCXにはめちゃくちゃ楽しませてもらいました。

9位 Fontaines D.C. 「Romance」

Fontaines D.C.も正直ピンときてなかったバンドなんだけど、今作は文句なしで凄まじい傑作だと思えたし彼らにとっても快作だったと思います。まず今作で良かったのがGrian Chattenのボーカルの使い方が物凄く上手くなったと感じたことで、先行シングル「Starburster」のとにかく前面に押し出まくりな歌の痛快さにまず衝撃でしたね。そしてアルバムがドロップされると今まで以上に多彩な楽曲群を打ち出してきたのもめちゃくちゃ好印象で。今まで以上にアンセミックな曲を作るということに力を入れたのか、一聴で耳に残るパワーを持った強力ナンバーが勢揃い。極め付けはアルバムのラストを飾る「Favoutire」で、こんなに風通しの良いギターポップが彼らから放たれるとは思いませんでした。フジロックのライブも配信で見てたんですけど、稲妻のような力強さとGrianのまるでリアムギャラガーかのような佇まいに今のバンドの勢いと風格が溢れてましたね。これまでアングラシーンでのカリスマ的な存在だったのが、名実共に現代を代表するロックバンドの一角へと成長したことの証明である一枚。

8位 ZAZEN BOYS 「らんど」

12年もの時を経て遂に解凍された冷凍都市。ナンバーガールの再結成と再解散、新メンバーMIYAの加入によるメンバーチェンジなどZAZEN BOYSないし向井修徳の周辺では大きな変化があったが、そんな中で放たれた彼らの新作は更にギラついた目をしていた。前作までと大きく変わったのはシンセサイザーのないバンドサウンドであることで、ギター、ベース、ドラム、そして向井修徳のボーカルというシンプルな編成がソリッドさを際立たせる。変拍子やヘヴィなリフも取り入れてバンドとしてのパワーを前面に押し出しつつも、過去の向井修徳作品でもトップクラスである歌メロのキャッチーさも兼ね備えた隙のない仕上がり。歌詞を見ても絶望感や孤独、諦念といったドス黒い感情がソリッドなアンサンブルの中で歌われていて、中でも20年以上前から少女の概念に囚われ続けてきた彼の放つ「永遠少女」での意思と覚悟が重くのしかかる。向井秀徳が音楽活動の中で何度も口にしている "繰り返される諸行無常" という言葉は、今の時代になって更に重みを増しているように思う。

7位 米津玄師 「LOST CORNER」

J-POPという音楽は日本に生きる人々たちの日常の一部分であるとすら言える。街角、テレビ、もちろん音楽鑑賞の場においても多くの日本人の耳を彩ってきたのはJ-POP。そんな現代J-POPシーンの頂点に立った米津玄師の新作は、まさしく万人のための音楽であると同時に音楽家としてのマニアックさも両立した素晴らしいものでした。娯楽として消費されていくビッグなアンセム、足し算的な音の配置と情報量の暴力、しかしながら緻密な計算によって美しさを見せるように組み込まれた音世界。とことんキャッチーなメロディを畳みかけていく圧倒的な強度。しかしそこで彼が一歩抜きん出ていたのがその視線だと思うんですよね。「POP SONG」や「毎日」なんかで垣間見える彼の怒りはこの作品、しいてはJ-POPの消費者である大衆が常日頃抱えるもののそれ。そしてキャリアの初期から一貫している、うまく居場所を持てない人間への優しい視線。現代のJ-POPがリスナーの共感を求めている、と言うのならば、誰一人取り残さず聴いた人の怒りや悩みなどを理解しながら寄り添うこの作品はJ-POPの究極体なんだと思います。

6位 柴田聡子 「Your Favorite Things」

ここ数年の柴田聡子は完全に覚醒してますね。前作『ぼちぼち銀河』も大きな注目を浴びた彼女でしたが、今作はネオソウルやヒップホップ的な感覚などまで貪欲に取り入れつつ、それを持ち前のポップセンスによってサラッと聴き流せる心地よさの中に落とし込んだ一枚に。結果として聴きやすさと何回もリピートしたくなる中毒性を併せ持ったオルタナティブポップの大傑作的アルバムへと仕上がっている。そして彼女の大きな持ち味である歌詞については今作でも洗練されていて、その特徴的な言葉選びとメロディーへの乗せ方も際立ちつつ、岡田拓郎プロデュースの成果か前作以上に滑らかかつクリアなサウンドメイキングを手にしており、それが彼女の言葉を更に音楽へと溶け込ませていく。「Side Step」→「Reebok」など曲間の繋ぎも工夫されておりアルバムとしての構成もお手の物、風通しの良さと音楽的探求の両立を見事に成し遂げた極上のポップレコードです。

5位 Dos Monos 「Dos Atomos」

第二期へと突入し、ヒップホップクルーを経てロックバンドへと生まれ変わったDos Monos。5年ぶりの新作はサンプリング主体のヒップホップから大きく飛躍し、バンドによる生演奏を積極的に取り入れた攻撃的なサウンドを軸にジャンルの壁すら取っ払った衝撃作となった。ロックバンドへと進化する、と宣言しつつ既存のロックの器には収まりきらないようなまさかの展開が畳みかけるように続く。変拍子やテンポ変化も縦横無尽な情報量の洪水かのようなプログレッシブな楽曲群、それぞれの個性が光りつつ各々が凄まじいパワーを見せる3人のフロウ、それらが組み合わさり彼らの音楽は未知の領域に到達にしたと言い切ってもいいだろう。活動当初からヒップホップというジャンルに囚われずシーンに衝撃を与えてきた彼らだったが、遂にロックバンドというフォーマットまで手にしたことで更なる革命を起こしてしまった。

また、幸運にも今年は彼らのライブを2回見ることができたけれど、そのどちらもまるで別次元に連れていかれたような轟音と迫力に満ち溢れており尋常じゃない音楽体験だったので彼らのライブを見られる機会があれば見ておくことを強くお勧めします。LIQUIDROOMでのリリパは行けなかったのでいつかバンドセットのライブも見たい。


4位 Homecomings 「see you, frail angel. sea adore you.」

Homecomingsの奏でるロックはどこまでも丁寧で、気品があって、堅実で、かつ優しさに満ちている。メンバーの卒業を経てリリースされた新作でもそのバンドサウンドの誠実さがはっきりと表れていて、シューゲイズのような重厚さを持ったアンサンブルもこの上なく美しい仕上がり。そのバンドサウンドを包み込む畳野彩加の歌声も透明感と芯の通った真っ直ぐさを感じる素晴らしいもの。重厚なギターロックを展開した前半から、インタールードを挟みより内省的な後半へと進む流れも流石のもので、後期スーパーカーあたりの影響を感じさせるエレクトロチックな「Air」はバンドの新境地。そして、全編通して「境界線」や「別れ」を描き、どことなく悲しさを内包した詞世界は明確にフィクションとしての物語性を持ちつつも誰もに寄り添ってくれる。バンドの経験したメンバーとの別れ、戦争が続き銃撃によって命を落とした人との別れ、とこの1年だけでも世界中で数多くの別れが存在したが、この作品はそんな悲劇を物語の中に落とし込みながらリスナーの心に寄り添う、そんなささやかな人生の肯定だと思う。

3位 The Cure 「Songs Of A Lost World」

The Cureが満を持して新譜を放ったのも今年の大きなトピックでしたが、その待望の新作がこれまた最高の出来でしたね。各地のフェスなどでヘッドライナーとして立ち続けてきたのもあってか、16年の時を経てもそのサウンドは衰えるどころか更に重厚感を増して鳴らされており、Robert Smithの歌声も全く艶を失わない力強く透き通った素晴らしさ。全曲でかなり長めのイントロが取られており、最後を飾る「Endsong」に関しては6分という衝撃の長さだが、それも抜群のサウンド感覚で成立させてくる。アルバムのどこを見渡しても歌われているのは徹底的に絶望のどん底という救いようのなさで、圧倒的なサウンドスケープがその世界観を更に強固なものに仕立て上げてしまっている。ドラムの一打すら他の追随を許さない重みで鳴らされた鉄壁のバンドサウンドだ。Robert Smith自身はまだ新作が残っている旨の発言をしているが、これだけのものをこの世界観で出されてしまうとバンドの歴史がここで幕降りようとしているかのような観念に駆られてしまうのも仕方あるまい。半世紀近くにわたり最高であり続けるバンドは最悪な時代、最悪な世界を最高の音楽で描いてしまった。

2位 Jamie xx 「In Waves」

昨年バンドメイトであるOliver SimとRomyがそれぞれ傑作ソロアルバムをリリースし、これでもかと期待が高まっていたThe xxのブレインことJamie xxの新作。結果としてその期待を遥かに超える大傑作ハウスアルバムをドロップしてきました。サンプリングを駆使してバンドの流れを汲むようなメロディアスな一面を随所に組み込みながら、ダンスミュージックのツボを徹底的に捉えたような至極のハウスチューンが勢揃い。必殺技的な最強ダンストラックとメロウな一面の並べ方が巧みでアルバム内の緩急の付け方も完璧。中でも強かったのが冒頭4曲で、靄がかりつつも光り輝き華やかなオープニングを告げる「Wanna」からいきなりの必殺技「Treat Each Other Right」、続いて盟友Oliver SimとRomyを迎え実質The xx状態のダークな名曲「Waited All Night」。そしてトドメは先行シングルとして放たれた今年最強のハウスアンセム「Baddy On The Floor」という圧倒的強度。昨年あたりからダンスフロアに人の姿が戻り始め、それに呼応するかの如くハウス・テクノ畑から傑作が大量に飛び出しましたが、彼の新作はその流れの総決算にして最高傑作ではないでしょうか。そして今作を以てThe xxの3人がそれぞれ最高のソロワークを経ての再結集を果たすわけです、今作すらも通過点と思わせてしまうような凄まじいアルバムがバンドから放たれることを期待しています。

1位 Vampire Weekend 「Only God Was Above Us」

沈黙の末に放たれた諦念とそれを包み込む言葉たち。USインディーシーンで確固たる存在感を放ち続けてきたVampire Weekendの新作は、これまでのキャリアの中で最も不穏で尖った音像であると同時にどこまでも優しい内省的な印象も受ける一枚に。Rostam Batmanglijの脱退を経てリリースされた前作では実質Ezra Koenigのソロワーク的な印象となっていたが、今作ではオープニングの「Ice Cream Piano」からも分かる通り改めてロックバンドとしての彼らの姿を見せていく。しかしながら、今作で彼らの進化を思い知ったのが「Capricorn」での美しいピアノを覆いつくすギターノイズなどから感じられる新たなサウンドの追求。チェンバーポップ的な影響を感じるピアノの旋律やストリングスのアレンジが緻密に組み込まれ、バンド感の再生と新境地への歩み、芸術性とポップ性を流石のバランス感覚でミックスしていく。彼ららしい軽快でポップなメロディや穏やかなバラードが趣向された本作だが、歌詞で描かれているのは "戦争" や "諦め" といった重みを感じるもの。ノイズや不協和音、攻めたミキシングなどの違和感や不穏な音像感覚がこのシリアスなテーマを更に重みを持たせて伝える。そして最後を飾る「Hope」の優しさに溢れたメロディで、彼らはノイズでエンディングを覆っていき、諦めを歌うとともに聴き手を包み込んでくれる。どこまでもオルタナティブで繊細で美しく完璧なロックアルバムだ。


おまけ: その他良かった・語りたい新譜たち

ここでは年間ベストには入れなかったけれど良かったアルバム、語っておきたいアルバムなどを10枚ピックアップします。こちらは順不同です。

○宇多田ヒカル 「SCIENCE FICTION」

邦楽で今年を代表する一枚を挙げろと言われれば今作を挙げる人も多いのではないでしょうか。デビュー25周年を迎えた宇多田ヒカル初のオールタイムベスト、とにかく作品として楽しませることに徹底的にこだわった仕上がりになっていました。「Addicted To You」「光」「traveling」の3曲を再録、過去曲もリマスタリングによってまるで別曲のような変貌を遂げ、更に新曲「Electricity」も収録。この新曲がこれまた素晴らしかったですね、時折見えてくるサックスがめちゃ良いです。過去曲の寄せ集めとなりがちなベスト盤を一枚の作品として成立させるということに彼女の拘りを感じたし、ベストアルバムという文化に作品性をもたらす、一石を投じるという意味でも重要作だったと思います。

○Geordie Greep 「The New Sound」

black midiのフロントマン・Geordie Greepのソロデビュー作、リリース当初から大きな話題となっていましたし年間ベストに入れている人も多く見かけました。僕もかなり期待して聴いたし、実際年間ベスト級の傑作という評価も頷けるんですけど、正直その絶賛の流れにいまいち乗り切れなかったきらいがあって。というのもこの凄まじいハイテンションを前にするとちょっと長いなと感じてしまうところがあったんですよね。アルバムの構成にも気を配っていることも感じられはしたんですけど、次々と要素が雪崩れ込んでいく彼の作風だと1時間の長尺では後半がダレる印象がしちゃったのが個人的な感触です。とはいえその音楽的才能はやはり目を見張るものがあるし、今後の彼のキャリアは期待ですね。

○The Birthday 「April」

もうチバユウスケがこの世を去ってから1年経つんですね。彼の遺作となったThe Birthdayの新作EPですが、やっぱり彼の存在の大きさを感じてしまいます。「サイダー」の大人なロックから、あのしゃがれ声で叫ぶように歌いテンポチェンジまで挟み込む「S.P.L」まで乗りこなすチバユウスケのボーカリストとしての力を改めて実感する曲たちで。そして彼の本当の最後の1曲である「I SAW THE LIGHT」、本当に未完成だったものを形にしたような粗削りさを感じつつ確かに彼の魂が宿っているかのよう。数々のロック少年の心に火をつけた孤高のロックスターが最後に歌った一節が "光を見つけた 光をつかんだ" である、というのはあまりにもズルすぎます。

○MFS 「COMBO」

見返したら今年の年間ベストにヒップホップ畑からの作品が全然ないなと思ったので(俺がロック寄りのリスナーであることが大きな理由ですが…) ここで今年のヒップホップの話を少ししようかなと。今年の日本語ラップで特に好感触だったのがMFSの新作で、ビートのシンプルさによって彼女のラップが際立って聴こえる中で数多く押韻しながら少し気怠げな声で畳みかけていくのがめちゃくちゃ気持ちいいです。JJJと共演した「Drink」とか最高ですね。他にはKID FRESINOの新曲「AOS」は生バンドで新たな境地に踏み出してて超クールでした。海外ヒップホップではカニエの『Vultures』やケンドリックの新作など注目リリースが多くありましたが、個人的にはメロディーメーカーとしての強度とサウンドのファニーさという根本の魅力に改めて迫ったTyler, The Creator『CHROMAKOPIA』、鬼気迫るラップとサウンドで迫力満点だったDenzel Curry『King of Mischievous South』が特に好みでしたね。

○サニーデイ・サービス 「Live!」

今年はサニーデイのライブを見る機会に恵まれて、計4回彼らのライブを見ることができました。その経験からも確信を持って言いますが、というかもう既に分かり切ったことかと思いますが、今のサニーデイは間違いなく日本でもトップクラスのライブバンドです。自分たちで機材を運び、地方の数十人規模の小さな箱まで回り、新人たちに囲まれたイベントにも何本も出るなど凄まじくハードコアな道を歩んでいる今のサニーデイ、その熱狂のライブツアーの一幕を収めたライブアルバム。もうこのアルバムに余計な解説は不要です、とにかく今のサニーデイが生み出すロックバンドの衝動とカタルシスに埋もれてほしい。「コンビニのコーヒー」と「春の風」での曽我部さんの叫び、「セツナ」での壮絶なアウトロ、これぞまさしくバンドマジック。今年リリースのライブ盤ではライブ録音を再構築して新たな録音芸術として成立させたcero『Live O Rec』も非常に良かったです。

○しぐれうい 「fiction」

「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」のリリース以降Vtuber音楽はそれなりに注視していますが、今年衝撃だったのはこの一枚ですね。Vtuberとしての彼女は完全にフィクションの存在である、という現在のVtuberシーンの動向では禁句ともなり得る場所をシニカルかつポップに描き、コンセプトアルバムとして抜群の構成力で成立させてくる完成度の高さ。インターネット音楽の総結集かのような提供陣も怒涛の強さです。そもそも彼女が「自身とほぼ同じ人格そのものをVtuberという作品として提供する、自分そのものをアニメキャラ的なものとしようとする」という凄まじい作家性の塊ゆえに、その作家と演者が表裏一体であると言い切ったこの作品はポップであると同時にどこまでも狂気的なんですよ。今年のVtuber音楽は今作と先述したピーナッツくんの新作、そしてホロライブ所属のAZKiによる『Route If』の3枚が特に良かったかな、という印象です。

○BUMP OF CHICKEN 「Iris」

BUMPの新作に既発曲が多くなることは数年前から予測していましたが、まさかここまでになろうとは。アルバムとしての統一感も希薄で、前作以降に作られた楽曲の寄せ集めのような作品に仕上がってしまった印象ですね。それでも個々の楽曲についてはクオリティが落ちていないので聴き応えはしっかりと担保されていますが。以前くるりの佐藤さんがインタビューで「バンドを動かすのがタイアップありきになっている」といった旨の発言をしたこともありましたが、ベテランあたりのバンドが受動的な楽曲制作に陥りがちになるのは彼らに限った問題ではないのかな、という気がしますね。これは今売れてる若手の人気バンドもですが…。そういう意味でも昨年Mr.Childrenが『miss you』を発表したことはリスナーのみならずミュージシャン側からしても衝撃だったのではないか、と思うのです。

○Primal Scream 「Come Ahead」

Primal Scream、大好きなロックバンドです。前作から8年、長年バンドの重要な位置に立っていたMartin Duffyの死もあり新作が聴けるだけでも相当嬉しかったのですが、過去作に張り合う出来とは言わずとも素晴らしい作品が出来上がったな、という印象ですね。コーラスなどから現れるサイケの極彩色とソウル的な祝祭感、ガレージロック的な一面、ボビーのラフな歌唱。これは今までの彼らのキャリアを振り返った再解釈的な一面もあると思うんですよ。これまでのキャリアを活かして今のプライマルがこれまでの表現を今の解釈で再び作品にまとめ上げる。長年偉大であり続けてきた彼らのような存在にしか出せない味のある一枚だったように思います。今年は彼らの他にもベテラン勢から快作が多く出た印象で、中でもヘヴィで活き活きとしたギターロックを響かせたSmashing Pumpkins『Aghori Mhori Mei』とPearl Jam『Dark Matter』の2枚は特に素晴らしい出来でした。

○inuha 「ひとりごと」

ボカロ方面については理解がまだまだ浅いところがあるのですが、今年聴いて特に良かったなと感じたのはinuhaの1stアルバムでした。前半と後半でガラッと曲調を変えてくる「話変わるけど」や、これまた大胆な曲調の変化に驚かされる「ウミネコはネコじゃない」など、ギミックの振れ幅の広さと美しい光のようなシューゲイズの音像、無機質さがかえって暖かさを生むような初音ミクのボーカル。『mikgazer vol. 1』の再評価を期に盛り上がりを見せているミクゲイザーは近年また新たな境地に到達しようとしている、というのを感じさせてくれる一枚でした。今年のボカロ作品で他に印象的だったのは同じくinuhaが1月にリリースしたEP『陽のかけら』、いよわ『映画、陽だまり、卒業式』、Magnolia Cacophony『(come in alone) with you』あたりですかね。

○Linkin Park 「From Zero」

今年はとにかく再始動や再結成の嬉しいニュースが多かったですね。遂に再結成したOasis、待望のSuchmos活動再開、The TheやShellacなど久々の新譜リリースがあったベテラン、そして新ボーカル・Emily Armstrongを迎えて復活したLinkin Parkは早くも新作をリリースしました。まあ個人的には期待通りの出来というか、バンドの音もあの頃の延長線上でエミリーのボーカルもどこかチェスターの面影を感じさせるよう。原点回帰のミクスチャーロック的作風もシンプルに良かったですね。思想的には彼女の加入でわだかまりが残るのもまた事実ですが、音楽的には彼女の参加は大成功だと思います。新生Linkin Park、俺は支持するしこれからの活動も楽しみにしてます。


というわけで2024年の年間ベストでした。ここで紹介できていないものの他にも良かったアルバムが多くあり、個人的には大充実の一年だったように思います。来年は既に決まっているだけでもThe WeekndやFranz Ferdinand、Mogwai、小袋成彬、アルバムリリースを仄めかせているサニーデイサービスやSummer Eye、果たして本当に新作は出るのか再結成オアシス、など盛りだくさん。まだまだ楽しみなリリースは続きそうです。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!