日本と北米におけるバーチャファイター環境の比較と考察 ―格闘ゲームの実力差はどのようにして生まれるか?―



導入

 2021年6月のVFes・VF5USの稼働から、バーチャファイターを取り巻く環境は大きく変化しました。新作が出ないまま、先細っていくのみであったバーチャファイターは、オンラインを中心に毎日のようにイベントが行われる程までに活気を取り戻しています。それはバーチャファイター文化の中心地である日本でのみならず、海外においても、実に9年ぶりの新作発表にバーチャファイターファン達は歓喜に包まれました。この記事では、日本と海外におけるバーチャファイター環境を比較し、主にそれぞれの地域におけるプレイヤー達の実力差に着目して、課題とその原因を明らかにしていきます。可能な限り客観的に、かつ根拠に基づいた内容をお伝えできるように努めますが、主観が多く含まれますので、読んで頂いた皆様からのフィードバックやご意見などをお聞かせ頂けると大変助かります。

序論

 バーチャファイターの世界では、いわゆるトッププレイヤーと呼ばれる強豪達は、いつの時代も日本にいました。日本発祥のゲームで、主に日本でプレイされていてプレイ人口も多いので、そのような結果になることに疑問はありませんが、私が約半年間にわたり北米(アメリカ・カナダ・メキシコ)のバーチャ環境でプレイし、見聞きした結果、そこには様々な要素が重なり合っていることが分かりました。この記事の目的は、二点あります。ひとつは日本のバーチャプレイヤー達に、海外バーチャシーンの現状と直面している問題を周知し興味を向けてもらうこと。ひとつは、外国人である私を温かく迎え入れてくれた北米のバーチャプレイヤー達に恩返しをするつもりで、全体的なプレイヤーレベルの向上と更なる盛り上がりに繋がる手助けをすることにあります。将来的に次回作が期待される中、少しでも日本と海外のバーチャファイターを近づけ、一丸となってバーチャファイター界を盛り上げることに貢献できれば幸いです。
日本と海外のバーチャファイター環境を比較検討するポイントは以下の三点となります。

1) チーム制トーナメントの存在とプレイヤーにもたらす影響
2) ローカルコミュニティの重要性
3) 通信対戦の環境と言語の壁

バーチャファイターに限らず、他の様々な対戦ゲームにも当てはまることですが、厳しい競争環境はプレイヤーに切磋琢磨する機会を与え、全体のレベルを上げることに繋がります。しかしながら、日本と北米のバーチャファイターシーンを比較すると多くの違いがあります。

本論

(1)チーム制トーナメントの存在とプレイヤーにもたらす影響

 日本と北米の決定的な違いとして、定期的に行われる中〜大規模のチーム制トーナメントの有無があります。「ビートライブカップ」は名実共にバーチャファイターにおいて最大のトーナメントであり、この大会で優勝することがバーチャプレイヤーとしての最高の名誉であると言っても過言ではありません。また、月に一度開催されるベイエリアカップは、東京都内を中心として強豪プレイヤーが多く集まってレベルの高い試合が常に繰り広げられています。それ他にもレールウェイシリーズや、かつては地方開催のカップ戦などが開催されており、運営関係者の皆様をはじめとしたバーチャファイターコミュニティの弛まぬ努力によってイベントが継続して行われています。

 北米には、残念ながらオフラインでの定期的なチーム制トーナメントは開催されておらず、基本的にオンラインでのプレイを中心に楽しんでいます。それは北米(アメリカ・カナダ・メキシコ)という東西に広大なエリアにプレイヤーが点在していることが背景にあり、やむを得ないことです。オンライン環境においても、東西(例えばニューヨークとカリフォルニア)間での通信状況は良好とは言えず、歯痒い思いをしているプレイヤーが多数います。通信状態については後述します。個人のプレイヤーによるトーナメントはときどき開催されていますが、チーム制の大会はリリースされてからの半年間でほとんどありませんでした。


 本題に入りますが、日本のプレイヤーの強さは、そのチーム制トーナメントの存在が強く影響していると考えています。その理由として大きく分けて

1. モチベーションの維持
2. 情報共有の加速
3. 高レベルのプレイに触れる機会の創出

が挙げられると考えています。


 モチベーションの維持は説明するまでもありませんが、目に見える結果が出る定期的なトーナメントに参加することによって、練習して向上することでチームに貢献したり個人でも結果を出したいというモチベーションが生まれます。それはその大会に勝つことで得られる名誉が大きければ大きいほど強く作用し、各プレイヤーの向上心を強くしています。もちろんですが、全てのプレイヤーが大会に出て優勝することを目標としているわけではありませんし、常にビートライブカップやベイエリアカップで勝つことを意識して日々のプレイをしているということもありません。しかしながら、大会に出ればできるだけ勝ちたいと思いますし、その意欲がプレイヤーたちの意欲を維持し、そのプレイヤーを取り巻く他のプレイヤー達にも伝播していくのです。ストリートファイターのプロゲーマーである「ときど」氏の著書『努力2.0』において、ときど氏は以下のように語っています。

 “格闘ゲームの世界でも、力はあるのに、大会にあまり参加しないプレイヤーがいます。ただ遊んでいることが楽しいのなら問題ないのですが、実績をあげたいのであれば、あまり望ましい態度ではないと僕は思っています。彼らの言い分は、「もっと練習してうまくなってからじゃないと」「人前で見せられるレベルじゃないから」というものです。ですが、自分の理想とする状態に仕上がるまで待っていたら、いつまで経っても参加できないことになってしまいます。またeスポーツの宿命で、いつまでも同じタイトルに人が集まっているとも限りません。旬のタイトルで行う大会だからこその熱量があり、そこでしか伸ばせない実力もあるのです。”
               引用:ときど著『努力2.0』ダイヤモンド社


 事実、当然ではありますが北米で強豪とされているプレイヤーたちに共通して言えることは「負けず嫌い」です。彼らは目標としているトーナメントがなくとも日々自己研鑽に励んでおり、少しずつ成長しています。中〜大規模のトーナメントが増えることによって、そのようなプレイヤーたちが増え、そのプレイヤーたちが切磋琢磨することによって全体のレベルは継続して伸びていくのではないかと考えています。
 

 続いて情報共有の加速ですが、これはチームでバーチャファイターをプレイすることにおいてのメリットです。定期的なトーナメントに向けてのチームを組むことによって、そこに小さなコミュニティが形成され、そのコミュニティ内では対戦や会話を通してゲームに関する情報交換が行われ、少しずつ知識が共有されていきます。例えば、対戦していて気付いた点や、より火力高いコンボや連携・キャラ対策などの情報は自分一人だけで研究するにはかなりの時間と根気が必要であり、「こういう場面で〜という行動をしたらどうなるのだろう?」などの疑問や検証はコミュニティの中から多く発生しています。格闘ゲームは1対1のゲームですが、経験や知識が強さに直結することを考えると、強くなるためにはコミュニティと他のプレイヤーとの繋がりが必要不可欠なのです。

 高いレベルのプレイヤーたちと対戦したり、高いレベルの試合を観戦したりすることで多くの知識や知らない立ち回りなどを学ぶことができます。様々なプレイヤーが集うトーナメントでは、そのようなレベルの高いプレイヤーとの対戦機会、またそれらを間近で観戦する機会が多く提供されています。現在は強豪プレイヤーたちによるオンライン対戦の配信が盛んに行われており、高いレベルのプレイを観る機会は以前に比べて飛躍的に増えていますが、大会の強い緊張感や負けられない状況の中でのプレイは、配信で観る試合よりもより真剣で熱量のある試合であることは間違いありません。北米のバーチャシーンにおいては、そういった機会は日本ほどなく、自分より実力の高いプレイヤーと試合をし、観戦する機会は自ら積極的に作り出していくしかありません。事実、北米で積極的に日本の試合の観戦や自分より高レベルのプレイヤーへの挑戦をしているプレイヤーはすでに実力がある、もしくは実力が大きく伸び続けています。多くのレベルの高い試合を見ることで、自分の今の実力を理解して、より上を目指そうというモチベーション維持にも繋がります。

 上記の3点を踏まえて、定期的なチーム制トーナメントがプレイヤーを育て、初級者から上級者まで全てのプレイヤーのレベルを底上げしていると考えています。北米にもそのようなチーム制トーナメントを設けることで、よりバーチャシーンが盛り上がって切磋琢磨するプレイヤーが増えることが期待できます。

(2)ローカルコミュニティの重要性

 日本のバーチャシーンには「◯◯勢」という言葉があります。これはそのプレイヤーが所属するコミュニティのことを指し、そのコミュニティは元来同じ地域のゲームセンターでプレイしているプレイヤーたちや、トーナメントでよく組むチームを中心として構成されています。同じ意味合いの言葉は英語にも存在しており、“◯◯ギャング”と言っていますが、実際に使われている場面はあまり見ません。オンライン対戦がなく、ゲームセンターがゲームの中心であった時代においてローカルコミュニティはプレイヤーのプレイする環境そのものであり、そのコミュニティがプレイヤーに強く影響を与えていました。チーム制トーナメントでも少し触れましたが、高くモチベーションを維持して研鑽を続けることは、個人のみでプレイしている環境では極めて難しいと考えています。その大きな理由として、格闘ゲームは対戦ゲームであると同時にコミュニケーションツールでもあるからです。また、そのコミュニティ内でのコミュニケーションは情報と“当たり前”の共有を生み出します。


 格闘ゲームはコミュニケーションツールとしての側面があると述べましたが、みなさんにもゲームセンターの営業時間が終わり、その後閉店した店の前で輪になって談笑したり、コミュニティ内の仲間たちと一緒に食事に行ったり飲みに行った経験があるのではないでしょうか。そこではゲームやそれ以外のことについての会話が交わされて、様々な情報の交換が行われていました。何気ないコミュニケーションであり、日本のバーチャプレイヤーには当たり前のように思われることでも、北米を見るとそのようなローカルコミュニティは圧倒的に少ない状況です。このコミュニティは、プレイヤーがそのコミュニティに所属している感覚を生み出し、継続的にゲームをプレイするきっかけになります。特に初心者や初級者にとって、ゲーム以外での交流があることによってゲームセンターに通うきっかけになり、継続してプレイすることでそれが後の成長に繋がっているのです。北米は、前述した通り北米全体にプレイヤーが点在しており、ゲームセンターもないことからプレイヤーがコミュニティに属することなく孤立する傾向にあります。初心者が興味を持ってバーチャファイターをプレイし始めたとしても、孤立しているために情報もなく、勝てないままモチベーションを失ってプレイをやめてしまうことが多いのです。そのような初心者には、コミュニティが必要なのです。


 また、コミュニティは属するプレイヤーのレベルに強く影響します。コミュニティに属するプレイヤーは、必然的に対戦回数が多くなります。したがって、そのコミュニティのプレイヤーレベルが高ければ高いほどトップダウン式にコミュニティに属するプレイヤーも大きく成長できるのです。ここで具体的な例として、名古屋勢のケースを考察していきたいと思います。

 多くのバーチャファイターファンに知られているチーム「ファミリー餃子五人前」は、名古屋のゲームセンター「ファンタジオ甚目寺店」でプレイしていたプレイヤーたちによって構成されている超強豪チームです。ファンタジオ甚目寺店は、地域の中で最もバーチャファイターが盛り上がっていた店舗で、コアタイムには数十人のプレイヤーが集まっていたそうです。ファミリー餃子五人前は、ビートライブカップ優勝の経験を持ち、チームメンバーも各キャラクターのトップクラスのプレイヤーが揃っています。同チームのメンバーであるジャン使いのぷうた氏にお話を伺いました。ぷうた氏によれば、ファミリー餃子五人前が頭角を現し始めたのはVF5R中期からVF5FS初期あたりからで、それ以前からそれぞれがすでに強かったというわけではなく、コミュニティの中での対戦を通して切磋琢磨していった経緯があったとのことです。地域の中で実力のあったプレイヤーを中心に試合を重ねていき、そのうち大会を意識し始めて「野試合(いわゆるカジュアルプレイ)で負けても気にせずに、大会で勝つことを考えていこう」という共通意識のもと、数万にも及ぶ多くの試合数をこなしながら改善していき、コミュニティ内で情報を共有していき、チーム一丸となってバーチャファイターの頂点にまで登り詰めたのです。コミュニティ内のつながりはゲームセンターの中だけにとどまらず、近所のファミリーレンストラン(ジョイフル)で反省会をするなどの関わりを通して絆を深めていきました。ぷうた氏は、コミュニティの存在がなければそれぞれのプレイヤーがここまで強くなることはなかったであろうと語っており、いかにコミュニティがプレイヤーに影響を与えているのかが伺えました。

 コミュニティは初心者から上級者まで全てのプレイヤーに対して影響を与え、自分にとって心地良い、または切磋琢磨できるバーチャ環境に身を置くということは実力をつけることだけに限らず、バーチャライフをより楽しむ上でも重要なことなのです。

(3)通信対戦の環境と言語の壁

 バーチャファイターeSports/バーチャファイター5USでは、オンライン対戦が対戦機会の主流となってきています。通信対戦が快適かどうかは、1Fの差が重要となってくるバーチャファイターにおいて死活問題にもなりえることです。日本国内のオンラインバーチャファイター事情を見ると、人によっては少しラグを感じたり遅延したりすることはあっても、快適に対戦できる人口は一定数いるのではないでしょうか。もちろん、超高段位帯でマッチング率が低いなどの問題は存在します。一方で、北米での通信対戦の環境は日本ほど快適とは言えません。

 北アメリカ大陸は広大です。アメリカ合衆国の国土面積だけでも日本の約25倍あり、その東西に分かれた広大な国土の様々なエリアに人が住んでいるため、通信対戦の速度は安定しているとは言えません。同じ地域内であれば快適な対戦ができますが、せっかくのオンライン対戦環境にも関わらず遠方のプレイヤーとはアンテナが2本〜3本であることも珍しくありません。北米と一口に言っても、その実態は北アメリカ大陸のそれぞれのエリアに分かれてしまっているのです。また、当然ながら、太平洋を挟んだ日本との対戦は成立しません。

 「コミュニティの重要性」で述べたように、普段対戦する相手のレベルが高ければ高いほど、各個人の実力は伸びていきます。北米のバーチャファイターは日本のトップレベルの環境とは分断されており、北米内のみでの対戦になっています。したがって、対戦を通しての知識や経験は限定されてしまっており、例えば高段位者の胸をかりて練習や対戦するという機会は日本に比べて非常に少ない状況です。また、これは高段位者にとっても良くない状況と言えます。なぜなら、北米のトッププレイヤー達は一度北米でトップレベルになってしまえば後は維持するのみであり、より高いレベルの日本のプレイヤーに挑戦して、モチベーションを維持して自己研鑽を続けていくということが難しいためです。そのため、実力のトップダウンが起きずに全体のレベルが停滞してしまう傾向にあるのです。日本と北米が遅延することなく対戦できる環境があれば、北米のプレイヤー達に取って非常に大きな刺激になり、レベルが飛躍的に向上することが期待できます。
 

 距離の壁のみならず、言語の壁も日本と北米の実力差を生んでいる障壁になっています。当然ながらバーチャファイターは日本で作られたゲームであり、ほとんどの知識が日本語で表現されているために、北米のプレイヤー達が得られる情報は非常に限られています。国も文化も違うため、北米には「VFDC」という有志のコミュニティがあり、北米のバーチャファイター達はそのウェブサイト上で情報を得たりしていますが、ネット上にある最新の知識のほとんどはまだ英語化されていません。これは仕方のないことではありますが、ネット上に多く存在するバーチャファイターの情報・攻略などを英語に翻訳し、知識をより広めることのできるシステムが必要であると考えています。


結論

 結論です。より高い競争力の実現と、実力の向上のために北米のバーチャプレイヤー達にとって必要なものについて述べてきましたが、言い換えると以下の3点になります。

1、自己研鑽の目的となる、定期開催されるチーム制大会(BT杯、ベイエリアカップ等)
2、チームメイトや地域の中での繋がりの強いコミュニティ
3、より快適な通信環境と英語化されたバーチャファイターの知識

 ここまで述べてきた内容は、日本のプレイヤーにとっては当たり前のことだと思われるかもしれません。しかしながら、北米のバーチャファイター事情が言語化されたものは今までなく、少しでもより多くの人に北米のバーチャファイター事情に関心を持ってもらい、両者一丸となってバーチャファイターを盛り上げていってほしいという気持ちがあり、所見を綴らせていただきました。長い文章になってしまいましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。また執筆にあたって協力してくださった、ぷうたさん、青パイさん、ありがとうございました。世界中のバーチャファイター達がさらに盛り上がり、より楽しく豊かなバーチャライフを送れますように。

筆者について

暇ジャン
バーチャ歴は12年(VF5Rからプレイ)、主に東京近郊で活動。現在はカナダのトロントに在住、2021年6月のVFes・VF5USの稼働から北米(アメリカ・カナダ・メキシコ)のオンライン対戦環境で活動中。

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