中国語しか聞こえない中華料理屋
土曜日、仕事帰りに繁華街で下車し、一人で寂しさをかみしめながら歩いていると、ふと、行く予定だった次郎系ラーメン屋に入りたくなくなった。
年の瀬に一人という寂しさのせいか、なんだか普段行かないような店に生きたくなったのだ。
そんなわけで繁華街をフラフラしていると、中華料理屋が目に入った。
「ここ入ったことないし……安そうだな」
インド料理やトルコ料理や程の奇抜さはない。日本人ならそこそこ馴染みのある味のはずだ。
ちょっとした気の迷いを満たすにはちょうどいいチャレンジだ。そう思い、今晩の飯はそこに決めた。
扉を開けると、最近は久しく聞いていなかったベルの音が鳴り響く。……電子音じゃない、本物のベルの音を聞いたのは久しぶりの気がする。そんなことを思いながら席に座ると、背後に座っている客が中国語を喋っているのが聞こえてきた。
メニュー表を持ってきた女性の顔も、モロに中国人だ。
どうやらここは、いつものなんちゃって中華料理屋ではなく、本場の人も来るガチの店らしい。
メニュー表には四川料理という文字がデカデカと記載されている。……四川って辛いんじゃなかったっけ?
店員にどれくらい辛いのか聞き、おっかなびっくり辛みのあるラーメンとパイ生地に挟まれてお菓子? を頼んだ。
……店員は辛くないと言っていたが、辛い物好きの辛くないと一般人の辛くないには大きな差がある。
不安を感じながら待っていると、まず最初に出てきたのはパイ生地のお菓子の方だった。
パイの実をハンバーガー並みにデカくし、その中に甘みのあるアツアツの甘いあんを入れたもの……と言えばいいのだろうか?
てっきり肉が入ったハンバーガーみたいなものを想像していたが、味といい触感といい、まだ饅頭の方が近い。
外側は温いくらいで熱くもないのだが、中は熱々で、久しぶりに舌を火傷してしまった。
主食のつもりで頼んだが、これはデザートだな……と思いながら割と待っていると、ようやっとラーメンが届いた。
幸いなことに、あまり辛くはなかった。スープは、秋ごろに友達と食べたベトナム料理のフォーと近い気がする。
透明寄りのスープで、パクチーと肉の旨みがよく染み出たさっぱりしたスープは、日本のラーメン屋ではまずお目にかかれない。
新しい所を開拓に来たはずなのに、何だか少し懐かしい気持ちになった。
しかし、このラーメンはうまい。久しぶりにスープまで完食し、俺は精算を終えて帰路に着いた。