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散歩。(現実逃避回顧)


 

 人工物と空の組み合わせはやっぱりいい……。


 今住んでいるアパートが解体されるので、月末に引っ越さなければならない……ということで、引っ越し作業を進めつつ、ここ二月くらい思い出の場所をふらふら散歩していた。

 新卒でブラック企業に勤めてすぐ辞めて、将来に半ば絶望して会社を恨みながら、鬱々とした日々を過ごしていた七年前。
 これじゃダメだと思って……或いは、とにかく現状から逃げたくて、ふらっとこの町に移り住んで六年が経った。
 洗濯機を買ったのさえ二、三年前だったり、生活家電さえ欠けた生活をしていたけど、それは貧乏だったのもあるけど、この町にこんなに長く住むつもりがなかったからだ。

 家族も主な友達も別の地方に住んでいて、暫く一人でフリーターをしつつやりたいこと(当時、作家になりたかった)をやって、無理なら再就職。
 夢が叶うにせよ、叶わないにせよ、いずれここから離れるだろうと思っていた。
 それがまさか、六年も住むことになるとは……。
 まだ小説は書いているけど、今はここで再就職している。再就職するならまた引っ越して元いた地方に戻るか、東京にでも行くかと思っていたんだけど……。

 この川辺の写真は今の家の近所で、この辺りで唯一自然を感じられる場所だ。
 田舎からこっちに引っ越してきたときは、なんて人工的な自然だ……とこの川を見て思ったものだ。異物感というか、この川を見て強い違和感を感じていた。
 今はもう慣れて、気持ちのいい川辺としか感じないけど。
 俺もすっかりこの町に慣れたんだな……と、感慨深くなる。

 引っ越し先は同じ市内だけど、この辺りは遊ぶところもないし、引っ越したらまず来ることはないだろう。
 行きつけの店もあるし、好きな風景もある。
 引っ越しの時はいつも思うけど、何だか寂しさを感じてしまうなぁ……。

 この空の写真は気持ちいいけど、特に目を引くのは雲の濃淡だと思う。
 単なる爽やかさだけじゃない。
 新しい門出を感じる清々しさと、街との別れを惜しむ悲しみ。思い出の詰まった町の写真としては、ベストではないだろうか?
 最後にいい写真が撮れて嬉しい。

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