エクセルで実装するブラック・リッターマン・モデル(6):GPIFの期待リターンを使った最適化
前回に続いて、GPIFの基本ポートフォリオの策定(第4期中期目標)に使われている期待リターンを使って平均分散とブラック・リッターマン最適化をして比較してみましょう。
GPIFの期待リターンは以下です。
共分散行列は筆者が手元計算した相関とボラティリティを使います。
リスク回避度や均衡期待リターンへの確信度を示すパラメータ$${\tau}$$、投資家のビューに対する確信度を示す対角行列$${\Omega}$$などの推定方法には過去のエントリーをご参照ください。
最適化は普通の平均分散最適化の目的関数を使います。$${\bm{w}}$$はウェイト・ベクトル、$${\bm{u}}$$は期待リターン・ベクトルでウェイトの合計が1と非負制約を課しています。
$${\argmax_w \bm{w}'\bm{u}+\frac{\lambda}{2}\bm{w}'\Sigma \bm{w} s.t. \bm{1}' \bm{w}=1, \bm{0}\leq \bm{w}}$$
期待リターンには上記のGPIFのリターンをそのまま使った平均分散最適化(MV最適化)と、ブラック・リッターマン・モデルにGPIFの期待リターンを投資家のビューとしてインプットして期待リターンと共分散行列を更新して行った平均分散最適化(BL最適化)の結果を比較します。
結果は以下のようになりました。GPIFの期待リターンを使ったMV最適化は時価総額ウェイトからかなり乖離しています。まず円債と国内株の期待リターンが均衡リターンより高いのでその分、ウェイトを大きく増やして外債のウェイトを大きく減らしています。外株は期待リターンが高いですが、ウェイトを減らす、直感とややずれた結果になっています。やはりMV最適化は期待リターンの高い資産や相関が低い資産を極端に増やす傾向があるようです。
一方でGPIFの期待リターンを投資家のビューとして与えたBL最適化は結果がより穏やかです。まず均衡リターンより期待リターンが高い円債と国内株と外株をそれぞれ増やしている一方で期待リターンが同じ外債のウェイトを減らしています。与えたビュー(GPIFの期待リターン)と直感的な結果になっていると言えそうです。
ブラック・リッターマン・モデルはエクセルでできる程度の計算で期待リターンを直接与えるよりも安定した結果が得られる傾向にあるので、実務的にも利用がより広がると良いですね。
参考までにブラック・リッターマン・モデルによる期待リターンと共分散行列の更新は以下のようなエクセルの関数を使いました。Pが投資家のビュー(行列)、qがその期待リターン(ベクトル)、Ωがその確信度(行列)、τが均衡リターンの確信度(スカラー)、Σが共分散行列、Πが均衡リターン(ベクトル)ですね。ベクトルはエクセル上で横に作っています。
期待リターンの更新
=TRANSPOSE(MMULT(MINVERSE(MMULT(MMULT(TRANSPOSE(P),MINVERSE(Ω)),P)+MINVERSE(τ*Σ)),MMULT(MINVERSE(τ*Σ),TRANSPOSE(Π))+MMULT(MMULT(TRANSPOSE(P),MINVERSE(Ω)),TRANSPOSE(q))))
共分散行列の更新
=Σ+MINVERSE(MINVERSE(τ*Σ)+MMULT(MMULT(TRANSPOSE(P),MINVERSE(Ω)),P))