アクティブ運用の基本法則(3):IR=TC×IC×√ブレス(制約ありの基本法則)
前回のエントリーでオリジナル・バージョンのアクティブ運用の基本法法則(IR=IC×√ブレス=IC×√N)を導出しましたが、これは制約条件がない場合の平均分散最適化が前提条件にあります(予測がそのままポートフォリオに反映)。
しかし現実にはポートフォリオ構築には様々な制約条件(回転率、国、セクター、個別銘柄、相対または絶対制約などなど)を課すため現実のポートフォリオは数学的に導出できる最適解とはずれています。このような現実の状況に合わせて、上記の基本法則を一般化したのがClarke, de Silva and Thorley(2002)です。
https://people.duke.edu/~charvey/Teaching/BA491_2005/Transfer_coefficient.pdf
以下では一般化されたアクティブ運用の基本法則の導出過程を確認したいと思います。
前回までの議論を踏まえると、ポートフォリオの期待アクティブ・リターンは、次のように表せます(レジデュアル・リターン同士は無相関を仮定、すなわちレジデュアル共分散行列が対角行列)
$${E(R_A)={\bf w}'{\bf\alpha}=\Sigma_{i=1}^N w_i \alpha_i=\Sigma_{i=1}^N w_i\sigma_i \times \frac{\alpha_i}{\sigma_i}=NCov(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i})=NCor(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i}) \times Std(w_i\sigma_i) \times Std(\frac{\alpha_i}{\sigma_i})=NCor(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i}) \times \sqrt{\frac{1}{N}\Sigma_{i=1}^N (w_i\sigma_i)^2-\bar{(w_i\sigma_i)^2}}\times IC=NCor(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i}) \times \sqrt{\frac{1}{N} \sigma_A^2-\bar{(w_i\sigma_i)^2}}\times IC}$$
$${w_i\sigma_i}$$の平均$${\bar{w_i\sigma_i}}$$の二乗が小さな値であることから無視すると、
$${E(R_A)\approx NCor(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i}) \times \sqrt{\frac{1}{N} \sigma_A^2}\times IC=\sqrt{N} \times Cor(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i}) \times \sigma_A \times IC}$$
ここで、TC(伝達係数)を以下のように定義すると、
$${TC=Cor(w_i\sigma_i, \frac{\alpha_i}{\sigma_i})}$$
期待アクティブリターンは、
$${E(R_A)\approx\sqrt{N} \times TC \times \sigma_A \times IC}$$
となり、制約付きの基本法則が求まります。
$${IR=\frac{E(R_A)}{\sigma_A}\approx TC \times IC \times\sqrt{N}}$$
ちなみに一般にTCは以下の定義の方がよく知られていますが、これはレジデュアル・リスク($${\sigma_i}$$)が一定という仮定を置いた場合の簡略化されたTCで厳密な定義は前出のものになる点は注意が必要です。
$${TC=Cor(w_i, \alpha_i)}$$
形が理解しやすいのでこちらの方が好んで使用されますが、Clarke, de Silva and Thorley(2002)でも厳密な定義と簡略化した定義を使い分けて議論をしています。
以上、お付き合いいただきありがとうございました。