エクセルで実装するブラック・リッターマン・モデル(1)
ブラック・リッターマン・モデルについてエクセルで実装して研修や説明などに使い回しのよいファイルを作ろうと思ったのですが、記事や論文を見ているとそもそもの定義が違ったり、誤植が多かったり、ハイパーパラメータの推定についてまとまった記述がなかったりして混乱したので、整理ついでにまとめておこうと思います。
均衡期待リターン:Reverse Optimization
これは簡単なのでどこを参照しても大丈夫です。リスク回避度を$${\lambda}$$、共分散行列を$${\Sigma}$$、市場の時価総額ウェイト・ベクトルを$${w}$$とすると、均衡期待リターン$${\Pi}$$は次のように表せます。
$${\Pi = \lambda \Sigma w }$$
最適化を逆に解析的に解くのでReverse Optimizationと言うそうです。
期待リターンの更新:投資家のビューをブレンド
ここから結構、定義が違う記事が多くて混乱します。確認してみると同じ定義にようですが、複雑な行列演算なので確認も一手間です。ここでは一番簡単な定義を紹介します。
投資家のビューをブレンドした期待リターン$${\Pi'}$$は、投資家のビューを表す行列$${P}$$(任意の資産のロング・ショートの組み合わせ)、その期待リターン$${q}$$、均衡期待リターンへの確信度を示すパラメータ$${\tau}$$、投資家のビューに対する確信度を示す対角行列$${\Omega}$$を使って次のように示します。
$${\Pi' = \{P' \Omega^{-1} P +(\tau\Sigma)^{-1} \}^{-1}\{(\tau\Sigma)^{-1}\Pi+ P' \Omega^{-1} q\} }$$
共分散行列の更新
これは論文を見ても間違っているものが多かったです。投資家のビューを使って更新した共分散行列は次のようになります。
$${\Sigma' =\Sigma + \{(\tau\Sigma)^{-1}+P' \Omega^{-1} P\}^{-1} }$$
ソースは以下になります。こちらのワーキング・ペーパーには$${\Omega}$$の推定方法についてもよくまとまっていたので、今後、まとめ記事を作成したいと思います。
Fuhrer, Adrian; Hock, Thorsten (2019)
"Working Paper Uncertainty in the Black-Litterman model: A practical note"
https://www.econstor.eu/bitstream/10419/202070/1/1671418840.pdf