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アクティブ運用の基本法則(1):アルファ=IC×ボラティリティ×スコア(時系列)

グリノルドとカーン(1999)の「アクティブ・ポートフォリオ・マネジメント(運用戦略の計量的理論と実践)」は有名なポートフォリオ・マネジメント界隈では古典とも言っていい著作だと思いますが、日本語訳は既に絶版となっているようです。

検索するとオリジナルのPDFが公開されているようなので、読みたい方はそちらを参照すると良いかもしれません。

こちらの著作は主に著者らの研究成果をまとめたものですが、冒頭にサマリーがあり、2つの式が提示してあります。

一つが

アルファ=IC(情報係数)×ボラティリティ×(標準化された)スコア

もう一つが、

IR(情報レシオ)=IC×√ブレス

です。情報係数はスコアとレジデュアル・リターンの相関です。

後者は後にClarke, de Silva and Thorley(2002)によってポートフォリオの制約を考慮して、

IR=TC(伝達係数)×IC×√ブレス

という形に一般化されますが、当エントリーではまず最初のアルファの式からお気持ちを理解していきましょう。

Clarke, R., H. de Silva and S. Thorley(2002),“Portfolio Constraints and the Fundamental Law of Active Management, ”Financial Analysts Journal, September/ October

オリジナル論文は以下のグリノルド(1994)ですが、自明のせいかこの式の導出の背景などは論文内には書いてないので、その辺りを解説したいと思います。

データセットとしては基本的にクロスセクション(銘柄間)ではなくタイムシリーズ(時系列)を考えます。まず、各銘柄のレジデュアル・リターンを定義するのに以下の線形回帰モデルを考えます。

$${r_{i, t}^{Total}=\beta_i R_{B, t}+r_{i, t}}$$

$${r_{i, t}^{Total}}$$が銘柄$${i}$$のトータル・リターン、$${\beta_i}$$がベータで、$${R_{B, t}}$$がベンチマーク・トータル・リターンで、$${r_{i, t}}$$がレジデュアル・リターンです。添え字に時点の$${t}$$が付いています。これで時系列回帰をして、パラメータ($${\beta_i}$$)を求めるわけですが、今回はここは本旨と関係ないので詳細は割愛します。

上記では最小二乗法でパラメータ推定をするので、レジデュアル・リターンの平均は0になります。さらにレジデュアル・リターン同士は無相関を仮定することが多いです(これは性質ではなくて仮定である点に注意)。

次にこのレジデュアル・リターンをスコアを使って予想することを考えます。すなわち次のような時系列の線形回帰モデルを考えます。

$${\alpha_{i, t}=a +b S_{i, t-1} \cdots (1)}$$

$${\alpha_{i, t}}$$は銘柄$${i}$$のアルファ(レジデュアル・リターンの予測値)、$${S_{i, t-1}}$$はその魅力度を表すスコア(期初時点)です。

さて、続く手続きは普通の最小二乗法です。予測誤差の二乗を最小化するように$${a}$$と$${b}$$を定めます。すなわち、

$${\min \Sigma_{t=1}^T \varepsilon_{i, t}^2=\Sigma(r_{i, t}- \alpha_{i, t})^2=\Sigma(r_{i, t}-a-b S_{i, t-1})^2}$$

正規方程式を解いて、$${a}$$と$${b}$$を求めると(1)式は次のようになります。

$${\alpha_{i, t}=\bar{r_i} +\frac{\sigma_{i, S_i}}{\sigma_{S_i}^2}(S_{i, t-1}-\bar{S_i})=\bar{r_i} +\frac{\sigma_{i, S_i}}{\sigma_{S_i}\sigma_i}\times\sigma_i\times\frac{(S_{i, t-1}-\bar{S_i})}{\sigma_{S_i}}=\bar{r_i}+Cor(r_i, S_i) \times\sigma_i \times z_{i, t-1}}$$

レジデュアル・リターンの平均$${\bar{r_i}=0}$$、レジデュアル・リターンとスコアの相関がIC($${IC=Cor(r_i, S_i)}$$)であることを思い出せば、

$${\alpha_{i, t}=IC_i \times \sigma_i \times z_{i, t-1}}$$

で、アルファ=IC × ボラティリティ × (標準化された)スコアが求まりました。グリノルドらはICが銘柄間で一定という仮定を置いています。よって以下のような式が最終的な公式になります。

$${\alpha_{i, t}=IC \times \sigma_i \times z_{i, t-1}}$$

グリノルドらは添え字の$${t}$$も省いていますが、これは時系列データであることやスコアの時点を明記するために省略しない方が親切ですね。

また、アルファとスコアは(1)式より相関1なので、ICをレジデュアル・リターンとアルファの相関とすることもできます。

$${Cor(r_i, \alpha_i)=Cor(r_i, a+bS_i)=Cor(r_i, S_i)=IC}$$

グリノルドらもこの定義を採用しているため、一般的にICというとレジデュアル・リターンとアルファの相関を指すことが多いようです。

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